刑務所のささやかな楽しみ…受刑者たちが恐れる「テレ中」とは
国際指名手配、薬物、殺人未遂……。8年の刑を言い渡され、30代のほとんどを獄中で過ごした茶話康朝氏。著書『三獄誌 府中刑務所獄想録』は、私たちが知らない「塀の中」の意外な真実を教えてくれる。留置場、拘置所、刑務所という「3つの獄」は、実際はどのような場所なのか? 本書の一部をご紹介しよう。
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これが刑務所の日常だ
刑務所の日常は、地獄のように単調だ。朝起きて点呼・朝食・工場出役。作業終了後、入浴指定日を除いてはそのまま舎房へと戻る。
こんな言葉があった。
「起床・点検・シャリ三本、明けりゃ満期が近くなる」
早めの夕食後、仮就寝の号令と共に布団を敷くことを許され、そこから九時までが余暇時間となる。
番組指定されたテレビ、読書、囲碁・将棋、習い事(通信教育。内容によっては独居生活しながら受けなければならない)や勉強などを許されるのが、この余暇時間だ。
九時になれば、たとえ番組の途中でも否応なしにテレビは消され本就寝だ。
部屋の中は決して暗くなることはなく、常に薄明るい電気が点いている。暗くして寝る習慣のある者には、慣れるまでが一苦労だ。
作業は週休二日制で休日は慰問演芸や教誨、ちんけな習い事のようなものを希望で受けられるが、それ以外で部屋から外に出ることはない。それも毎週あるわけではないので、一日中、大の男六人前後が同じ部屋の中にいる。
免業日の昼間はテレビは見られないので、読書に囲碁・将棋、雑記帳に落書きをしたり、下らない話をする以外は何もない。たまにケンカが起こるのも当たり前のことだ。
テレビが何よりの楽しみ
仮就寝後の懲役にとってテレビは、数少ない娯楽の一つだ。チャンネルは指定されているが、娯楽番組を観ることもできる。週に何度か教育番組として、NHKのドキュメンタリーなどが追加放映される。そんな番組でも懲役は楽しみだ。
しかし、大声で話したり、笑い声が高かったりするとすぐに減点され、テレビが観られなくなってしまう。ここにも、刑務官の意地悪がある。
こっちは番組によっては観ないで読書をしていることも多かったが、大概の懲役はテレビが一番の楽しみだ。でも懲役は、決して気を抜くことができなかった。それは、“テレ中”(テレビ視聴禁止)があるからだ。
交代レベルの刑務官でも各舎房を減点することができ、その点数が蓄積すると一定期間テレビが視聴禁止となる。意地の悪い刑務官は、この辺を攻めてくる。
舎房にいる時は、工場で起こった珍プレーや娑婆での思い出話に花を咲かせることもある。咲いた話に笑いが起こり、そんなつもりでなくても多少声が大きくなる時もある。それを刑務官にパチられたら(見つかったら)“声高”で減点される。機嫌が悪ければ思い切り唸り飛ばされ、けちょんけちょんに言われて減点だ。
そんな時は皆で大声で笑い話をしていても、パチられて呼ばれた奴がバツの悪い思いをする。一緒に笑っていても、工場に行けば「あいつのせいでテレ中ですよ」なんて言っているのが懲役だ。
テレビを楽しみにしている者には、テレ中は本当に辛い。二週間の間に四点だか五点だか減点されると、次の二週間はテレビが観られなくなる。
さらにその間に減点が蓄積すると、観られない期間は延びていく。そんな時は皆本当に退屈だ。テレビがないから余計にアゴをいって(話をして)しまう。そうするとまた“声高”で減点されるという悪循環だ。
気合を入れてテレビを取り戻そう(視聴中止解除)と言っている舎房に、新入りや懲罰を終えて工場を替わってきた者が入り、そんな事情を知らないで声高注意などされたら、次の日はその部屋の奴らは工場に行ってからその新入りの“ヤクマチ”(悪口)を切りまくる。
それが懲役だ……。