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#1 「面倒だから、しよう」…これがよりよく生きるための合言葉

国民的ベストセラーとして一世を風靡した『置かれた場所で咲きなさい』。著者の渡辺和子さんが逝去された現在も、幅広い読者に読み継がれています。しかし、この作品に「続編」があることを、みなさんはご存じでしょうか? 『面倒だから、しよう』は前作で語りきれなかった、より深いメッセージが詰まった「隠れた名作」。そんな本書から、中身を少しだけご紹介しましょう。

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ある学生の驚きの行動

大学で「道徳教育の研究」を担当していた時のことでした。学期末テストの監督をしていた私は、一人の四年生が席を立ち上がってから、また何か思い直して座る姿に気付きました。九十分テストでしたが、六十分経ったら、書き終えた人は退席してよいことになっていたのです。

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座り直したこの学生は、やおらティッシュを取り出すと、自分の机の上の、消しゴムのカスを集めてティッシュに収め、再び立ち上がって目礼をしてから教室を出て行きました。

私は教壇を降り、その人の答案に書かれた名前を確かめたように覚えています。嬉しかったのです。ちょうどその頃(今もそうですが)、教えている学生たちと、「面倒だからしよう」という、ちょっとおかしな日本語を合言葉にしており、この四年生は、それを実行してくれたのでした。

「生きる力を育てる」ということが、教育の世界で叫ばれています。このむずかしい社会を生き抜くために大切なことなのですが、“よりよく”生きる、“人間らしく”生きる力でなければいけないのではないでしょうか。

人間らしく生きるには

自分だけがお金を儲け、権力の座に就き、立場を守ろうとする、そのためには、他人はどうなってもいい、嘘も平気でつけば、人を欺いても構わないと思っている人が多くなっているように思えます。

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「お金儲けして何が悪い」「お金で人の心も買える」と、拝金主義をはっきり表明した人たちもいて、このような考えが弱肉強食の社会、格差を拡げる世の中を助長しています

お金が大切であり、必要なものであることは、長い間、管理職にいて、しみじみ経験しています。でも、お金の多寡が人の心の、幸せの尺度であり得ないことも知りました。聖書にある通り、「人はパンだけで生きるのではない」のです。自分自身の弱さを知りながら、情欲に打ち勝って、人間らしく、主体性を持って生きる。心の充足感で生きるのです。

人には皆、苦労を厭い、面倒なことを避け、自分中心に生きようとする傾向があり、私もその例外ではありません。しかし、人間らしく、よりよく生きるということは、このような自然的傾向と闘うことなのです。したくても、してはいけないことはしない。したくなくても、すべきことをする。自由の行使こそは、人間の主体性の発現にほかなりません。

消しゴムのカスをそのままにしておくのも、片づけて席を立つのも、本人の自由です。しかし、よりよい選択ができる人たちを育てたい。安易に流れやすい自分と絶えず闘い、面倒でもする人、倒れてもまた起き上がって生きてゆく人を育てたいのです。


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