禅が教えてくれる「ありがとう」の上手な伝え方
禅僧、庭園デザイナー、多摩美術大学教授などの肩書を持ち、『ニューズウィーク』日本版の「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた枡野俊明さん。『禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本』は、姿勢、呼吸、言葉、朝の時間、感謝など、枡野さんの勧めるちょっとした心がけが詰まった一冊です。実践すればきっと「いいこと」が起こり出す、そんな本書の一部をご紹介します。
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感謝はその場で伝えよう
耳にいちばん心地よく響く言葉といったら、「ありがとう」がその最右翼ではないでしょうか。「ありがとう」といわれて気分を害する人はいませんし、ふっと心があったかくもなる。もっと、もっとその価値を知って、どんどん使ってほしいと思います。
感謝の言葉には伝え方の原則といったものがあるような気がします。「感じたときに、すぐに伝える」というのがそれです。タイミングを逸すると、せっかくの思いが色褪せてしまう。「あのう、先週はありがとうございました」「先週って、ああ、あの件ね。いまさらお礼だなんて、そんなお気遣いは無用に……」
こんなふうに“気遣い”が“無用”になってしまうのは、一にも二にも、タイミングが悪いからです。その場で感謝の言葉を伝えていたら、相手も、「お役に立てて何よりです。また、何かありましたら、いつでもおっしゃってくださいね」といった対応になる。気遣いをそのまましっかりと受けとってくれるのです。
よくよく思い返してみると、日本人は案外、「ありがとう」をいうべきところでいっていない印象があります。たとえば、海外に行くと、レストランで料理が運ばれてきたら、ほとんどの人が「Thank you」とひと声かけます。ところが、日本では同じ状況で、何もいわなかったり、「どうも……」ですませてしまっていたりする。
頷いている人が多いのではないでしょうか。もう、「ありがとう」の出し惜しみをやめませんか? これは美しい人になるための、すぐれた提案だと私は思っています(自画自賛ですが……)。
レストランでサービスを受けたら、自然に「ありがとうございます」といえる人は、「いい感じだなぁ」と思いませんか? レストランだけではありません。エレベーターを降りるとき前を開けてくれたら。電話を取り次いでくれたら。ホテルをチェックアウトするとき。タクシーを降りるとき……。
さらりと「ありがとう」がいえるあなたに注がれる視線は、いままでよりずっとやさしくて、あったかいものになるはずです。
手紙で感謝を伝えてみる
友人や知人から、あるいは、仕事関係の人から、心づくしのものを送っていただくことがあると思います。「感謝はタイミング」ですから、直接会って伝えられなくても、すぐに電話やメールでお礼をいうのは、もう、あなたの“常識”ですね。お礼のひと言で、相手も「ちゃんと届いたんだな」ということが確認できます。
第四章「メールではなく、直接話す」で「お礼は直接会って伝える」と書きましたが、日頃発生する数々のお礼に全部出向いていたら、タイミングを逃してしまいますから、臨機応変にメールは活用します。しかし、いただきものをしたケースでは、その後手紙でお礼を伝えたいもの。
お返しを贈る場合には、品物を選ぶ時間がかかることも考えられますが、いただいてすぐに、まずひと言伝えていれば、そのタイムラグもまったく問題はありません。
そして、お返しには一筆添えるのがいい。こまやかな心配りを感じさせますし、丁寧に思いを込めて書かれた文字は、その人の喜んだ笑顔をも届けてくれるのです。実際、手紙でお礼を伝えてくれた人には、好意が高まるものです。
手紙にはおざなりの感謝の言葉を並べるのではなく、いただいたものについて触れるのが心を伝えるポイント。たとえば、地方の珍しい名産品をいただいたなら、「誰といただいたか」「どんなふうに味わったか」「その地方への印象」など、いただいたものについての感想を、思いのままに率直に綴ることで、相手には、こちらがどのような雰囲気でいただいたか、その光景までありありと想像できるのではないでしょうか。
そうすれば、「本当に喜んでもらえているな。贈ってよかった!」と感じるはず。そうしたときに、はじめて「感謝が伝わった」ことになるのです。
季節感のあるものをいただいたときには、「一足先に春の訪れを感じています」「この夏の酷暑も乗り切れそうな気がします」「おいしい秋をいただきました」「お心遣いのあたたかさに触れ、寒さがやわらいだ思いです」……などのフレーズを交えるのもいいかもしれませんね。相手の心を摑み、人間関係を深め、豊かにする。感謝にはそんな不思議な力があります。