元ドイツ大使も絶賛! 世界のどこよりも美味しい「日本の魚料理」
日本とドイツの違いや、日本の素晴らしさについて、みずから日本語でつづったブログで話題となった、元駐日ドイツ大使のフォルカー・シュタンツェル氏。『ドイツ大使も納得した、日本が世界で愛される理由』は、氏のブログを大幅に加筆修正のうえ、書籍化したものです。暗いニュースばかり続く昨今、忘れていたこの国の魅力を教えてくれる本書から、素敵なエピソードをご紹介しましょう。
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世界的に有名だった築地市場
ドイツのある有力政治家が日本を訪れた時のことです。ようやく少し自由時間がとれそうだとわかると、彼は「あの有名な、築地の魚市場を見てみたい」と言い出しました。
おお、なんと、それだけはやめてほしいと言いたいところでした。妻も私も早起きは大の苦手だからです。しかしもちろん、そんなことは言えません。
その日、政治家と夫人のために、朝の非常に早い時間に市場を案内する予定を組み、お二人を迎えに行く私たち夫婦はさらに早い時間に起きました。
市場の中や競りなどの説明をしてくれる人をお願いしていたので、その方と政治家夫妻の歩くあとを、寝ぼけまなこでついてゆきました。
歩いてゆくうちにさすがにだんだん目の覚めてきた私は、政治家の様子がちょっとおかしなことに気づきました。手を後ろに組み、ゆっくりと歩きながら魚が並んでいるのをじっくり眺め、魚を指差しながら、一人で何かつぶやいているのです。
何をしているのでしょう? 無心の境地にでも入っているのでしょうか?
彼がこちらを振り返り、意を決したような様子で口を開いた時、謎が解けました。
「それじゃあ一緒に寿司を食べにいこう。おごるから!」
こんな経験ができる国はない
早朝駆り出されたのには辟易してしまった私ですが、彼の気持ちはよくわかります。とれたての新鮮な魚をどうしても食べたくなる気持ちです。
まだ生きたままの魚が見られて、しかもその場でさばいたものを食べられるチャンスなど、そうたくさんはありません。
お醤油を少したらし、わさびをちょっとだけつけて口に運べば、まるでクリームのように舌の上でとろける美味しさです。
私はドイツの内陸部の出身で、小さい頃魚はあまり食べませんでした。なにしろ新鮮な魚などありませんでしたし、生で食べるなんて考えられませんでした。
それなのになぜ、そういう土地の遺伝子を持つ私のような人間が、この国で出される魚介類や海藻を心底美味しいと思えるのでしょうか? 本当に不思議です。
ひょっとしたら子どもの頃、故郷の郷土料理だった生の豚肉の、やわらかくてとろけるような味が大好きだったことが影響しているのかもしれません。
いつもとても驚かされるのですが、日本ではいわゆる一流料理店だけでなく、たとえば秋田であれ九州であれ、田舎の片隅のふつうの店でも新鮮で美味しい魚料理が味わえます。こんな経験をできる国が日本以外にあるでしょうか?
スシは世界中に知られるようになり、人気が出ました。がんばっている世界中の寿司職人や寿司シェフの努力には敬意を表しますが、やはり食べる側の要求が高くなければ、料理のクオリティも高くはなりません。実際、日本ほど、新鮮な魚を楽しむ舌が発達している国はないのです。
ですからフランクフルトであれ、パリ、北京、カリフォルニア、どこであれ、敵うところはありません。
日本のお寿司は今後何度でも食べる機会がほしいです。