第三十二話 勇者リワーク!⑤【勝つために】

 
 Jとしまこ、俺で海老根に向けて、一斉射撃を行った。

 人の形が無くなるほどの飽和攻撃を行ったので、相手が人間なら間違いなく死んだろう。

 だが、根拠のない嫌な予感があった。

 Jは不用意に海老根に近づいていったので、危険と判断してハッキリ聞こえる声で叫んだ。

「J!近づくな!そこから離れろ!」

 俺は通信しなくても良いくらいの大きな声で叫ぶ。

『ひぃ!』

 俺の声に反応してもはや条件反射のようにJがこちらに向かって逃げて来た。

 ――が、何も起こらない。

『しまこ、俺達もここから離れよう』

『セイカ、ここにいる三名は一旦現場から離れる。それまでMJSは停止しないでくれ』

『了解したけどオギツキ少尉、何か起こったのか?状況を説明して』

『まだわからん。悪いが海老根の生死確認はドローンで行(おこな)ってくれ』

『わかったわ。 ――MJS(マジックジャミングシステム)2基破損……またありえない壊れ方をしているわ。まだまだ不完全なのね』

「J!しまこ!走れ!できるだけここから離れろ!」

『ヒィイイ!』

『ライドルト!念のため聞くが一般人の誘導おわっているよな?あとロジャー、念のためロジャーもそこから離れてくれ』

『はい!誘導は終了して現在待機位置にて指示を待っています!』

『あい了解』

『アキ!聞こえるか?』

 走りながらアキに連絡を取る。

『はーい、聞こえてるよおとーさん』

『これからわかることだが、もしかしたら海老根を殺り損ねたかもしれない』

『うん、わかった!。おとーさんも気を付けて!』

『ライドルトは俺か富子からの指示を現在位置で待て』

『わかりました!』

 これ以上離れると任務に戻るのに支障が出るかもしれないと言うところまで離れた。

『セイカ、MJSを停止させてくれ』

 さあ答え合わせだ。予感は外れたほうがいいのだけど……。

『MJSてい……』

 セイカが停止の合図するや否や、海老根のいた場所から空高く、炎の柱が噴き出した。

『ひええええ』

 Jが慄(おのの)いている。

『たいちょー、これはいったいどういう事でしょうか?』

『海老根が居た位置を見てみろ』

 ちょうど炎が上がった位置だ。墓からでてくるゾンビのように地中から人が出てきた。

 おそらく海老根だ。

『セイカ、MJSはまだ生きているのか?』

『残念ながら固定式6基すべて全滅したわ。私が使っていた可搬型MJSがまだあるからそちらへ送るわ』

『悪いけど早めに頼む』

『全員見ているか、恐らく海老根だ。左陶から何を吹き込まれているかわからないけが我々に襲ってくる可能性がある。撤退に関しては俺のタイミングで合図を出すので聞き逃さないように』

 了解とJをしまこが返事をくれた。

『富子。そっちはどうだ?状況を報告してくれ』

『左陶が乗車していると思われる車両に逃走されました。アキさんが今追っています。現在そちらへ合流するためにソゥと向かっています』

『ダメだ。こちらへ合流はせずロジャーと合流してくれ。後方支援を頼む』

『わかりました、そちらへ向かいます』

『アキ、大丈夫か?』

『今左陶の乗っていたと思われる車をぶっ飛ばしたところ~』

 ぶっ飛ばしたって?

『左陶は?』

『逃げられたっぽい。車の中がすっからかんだったから、多分土の中に潜っていると思うよ。ほんともうモグラ女だよ~。お父さんのほうは大丈夫?』

 俺は通信を行っているが海老根から視線を外さず見ている。

『今海老根と向かい合ってる』

 正直に言って海老根がこちらに向かってこられたら打つ手がない。恐らく弾丸はまた海老根に届く直前で溶解してしまう。

『――! 今からそっちに行くよ!』

『ああ、頼む』

 アキが左陶と戦闘状態だったらこちらには呼ばなかっただろう。

 今、一番まずいのが左陶と海老根が合流してしまう事だ。

 MJSが間に合えばその限りではないと思うが。

「J、しまこ、MJSを先に受け取りに行ってくれ。それからは状況によって指示を待て」

 俺は装備を確認してマシンガンを構えた。

「アディはどうするんだ?」

「俺はアキが来るまで、あいつをできるだけ引き付ける」

「一人でか?死んじまうぞ?」

「お前たちがMJSを早く持っていてくれればいいだけだ。早く行け」

 Jとしまこを送り出した。

 海老根の方はこちらの様子を伺っているようにも見えるが、もしかしたら左陶から渡されたデバイスで通信をしているかもしれない。

『お父さん』

 セイカからの個人通信だ。

「セイカ、どうした?」

『また娘の為に一人で怪我をするつもりなのね。仮想世界にいた頃と戦い方が全然違うじゃない』

 そう、実は仮想世界の中で海老根とは何度も戦っていた。

 あの手この手で戦ったのだがアイツに勝てたことがなかった。

 もう何回かやれば勝てると思ったところまではきたのだけど。

 セイカが言いたかったのは多分そうじゃない。

 だけど今は問答している場合じゃないからこう言うしかない。

『セイちゃんすまんな。また心配かける』

 帰還者との一対一の殺し合いになる状況だ。俺は覚悟を決めた。


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