見出し画像

#小説読みます その5

こんにちは。架空書店「鹿書房」店主の伍月鹿です。
映画バビロンのサウンドトラックを購入して、眠る前に聞いています。

少し間が空きましたが、ツイッターハッシュタグ「#小説読みます」にて募集したインターネット上で読める創作作品の感想を書かせていただきます。
(順不同、短編~中編で募集したため、長編は途中までの感想となります。募集は現在締め切らせていただいております)


竜崎隊長様「異世界鎧男」

https://ncode.syosetu.com/n1684hg/

「小説になろう」にて公開中の「異世界転生」ものです。
長編作品のため、今回は十話まで読ませていただきました。

自堕落な生活をしていた主人公・カイト。
彼は突然部屋に侵入してきた謎の男の手によって「異世界」に飛ばされ、「神様」から「鎧男」というスキルを授けられます。
早速訪れたピンチを逃れた主人公は神様に近隣の街を救うよう指示され、自身の仕組みや世界を理解していきます。

文章は主人公の語り口調で、主人公の考えは神様に筒抜けのため、テンポのいい会話で物語は進んでいきます。
人を見下し気味の「神の声」と、とりあえず受け入れていくしかない主人公のノリがいいやり取りは、福田監督の「勇者ヨシヒコ」を彷彿とさせます。

RPGのように突然始まる戦闘と、お決まりのように出てくる「ゴブリン」
敵キャラながら魅力的なボスとの戦闘や、主人公の悪戦苦闘が丁寧に描かれていく姿は冒険ものが始まるわくわく感が満載でした。
主人公は元の世界に戻ることを目標に神の声に従うこととなりますが、「あまりにも度の過ぎた理不尽を前に」「情けないかもしれないが、無力な俺は不条理な現実を甘んじて受け入れるしかないようだ。」と納得する主人公は優しいなあと思いました。

「なんなら、自ら異世界に行きたいとかそんな願望を持つ人がいてもおかしくはない。てか、絶対にいると断言できる。」とありますが、
わたし自身には出てきたことのない願望だったので、そういうものなのか……、と少し異世界転生について勉強になった気分です。

竜崎様、ハッシュタグへの反応ありがとうございます!



只野武太様「吸血鬼殺しの吸血姫と最強吸血鬼ハンターは共に生きる」

https://ncode.syosetu.com/n7565hn/

こちらも「小説家になろう」公開中の作品です。
「吸血鬼殺しの吸血姫と最強吸血鬼ハンターは共に生きる~最強吸血鬼ハンターが死ぬまで共に生きた吸血姫は最期に本当の願いを叶える~」
わたしの大好きな吸血鬼ものです。

吸血鬼の始祖によって吸血鬼になったレリック。
彼女は周囲に「吸血姫」と呼ばれながらも人を殺したことも血を吸ったこともない高潔な存在です。
そんな彼女を探し当てたハンター・ライトは彼女の屋敷に転がり込むことに。
期間限定で始まったハンターと吸血鬼の奇妙な同居生活の物語です。

吸血鬼が血を吸うのは本能という話もあれば、嗜好に過ぎないという話もあり、「女性の血が至高」という設定も根強いものではありますね。
血を吸わない吸血鬼が同族からも疎まれ、人間やハンターからは吸血鬼というだけで忌み嫌われる……。
ありそうでない、少し違った視点から吸血鬼を描いているのは、いい着眼点の物語だと思いました。
バトルものかなあ~と読み進めていたので、胸キュンな展開にいい意味で裏切られました。
短編として読み応えや満足感もちょうどよく、出会えて嬉しい作品の一つになったと思います。

ちなみに紅茶は時間経過で酸化をしやすいため、水筒にいれてしばらくたつと苦みが増してしまうことがあります。
高級な茶の場合は繊細な香りを楽しむためにぬるめのお湯でいれて持ってくるとよかったかもしれません、とつい本職の血が騒ぎました笑

只野様、企画への反応ありがとうございました。



稲荷狐満様「ゲーマー転移建国記」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651511558958

「カクヨム」連載中の作品です。
正式タイトルは「ゲーマー転移建国記~廃人ネトゲゲーマーは異世界で魔王になる~」

いまよりも100年ほど先の未来、新たなVRゲームが登場し、その中でも人気のVRMMORPG「アルカディア・オンライン」に夢中になる主人公の話です。
所属していたギルドを解散したことをきっかけに、自分自身がゲームの世界に入ってしまう……という展開ですが、VRゲームは未経験なわたしでもその境界線の曖昧さを題材にするのは良いアイディアだとドキドキしました。

年始に放送された「TOP4のオールナイトニッポン」内でも似た議論がされておりましたが、ゲームをプレイしている自分と主人公を、皆さまはどのくらい重ね合わせているでしょうか。
特にアバターで作れるゲームの場合、ゲーム世界の主人公としてキャラを扱うのか、自分として扱うのか、誰もが曖昧になるのではないでしょうか。
ラジオ内でも「マリオを自分だと思ってるやつはいない」という話がありましたが、その境界線はどこで引かれるのか、一度じっくり考えてみたい興味深いテーマのように感じています。

閑話休題。

勝手がわかるゲームの中で無双をするのではなく、手探りで進んでいく設定がわたしの中で新鮮に感じました。
「スケルトンの月額利用」という面白い発想や、好みだったという理由で村人を助けてしまう主人公のキャラクターが可愛らしい。
物語はまだ連載中のため、今後どんな展開になっていき、タイトル通り「魔王」になるのか、期待と楽しみでいっぱいの作品です。

稲荷様、企画へのご参加ありがとうございました。



泪澄黒烏様「悪魔の所業相談所」

こちらはショートショートファンタジーです。
「Nolaノベル」にて公開中で、作者様の作品「黒影紳士」シリーズのスピンオフにあたるもののようです。

「半魔」が人間の願いを対価と引き換えに叶えるお話。
様々な依頼を持ち込む人間を悪魔らしい冷静さで耳を傾け、淡々と願いのみを聞き入れる姿が悪魔視線で描かれます。
時に魂と引き換えに無茶な願いも叶える姿は、上品な語り口調もあって優しさすら感じさせます。しかし、そこは悪魔ですから、人間のように感情や同情で動くわけではない冷酷さも持っていて、世界観にどっぷりとはまりながら読むことができました。

6章の「天才と凡人」が特にお気に入りです。
「賢い頭脳」を手に入れたいと願う男は、いままでの過去の自分を捨てたいという願望を持ちます。
要らない「過去の記憶」を代償とするという提案に悪魔は困惑し「此処はゴミ捨て場ではない」と告げます。
この言葉に、私自身もはっとするところがありました。
大事なものを引き換えにするのといらないものを捨てること、どちらも代償とすることは確かにでき、私も後者をうっかり選んでしまうかもしれません。引き受ける側には傲慢でしかない行為に対して、言われるまで気づけない、というのはあるあるな気がします。
結末も残酷ながら納得できるものなので、是非、多くの方に触れてほしいと感じています。

泪澄様、反応ありがとうございました!



影津様「桜が咲くまでに」

「カクヨム」にて公開中の短編作品。
幼い子供視線で描かれる悲しいお話です。

とある場所へ出かけたまま帰らなかった母親と、現実から目を背けて沈黙を貫く父親。
幼い子供は何もわからないまま、変化している大人たちの表情を見つめています。
作品に隠された真実を語るのは野暮のような思いがします。
桜の変化と共に語られ「来年の桜まで」と交わされた約束が果たされるのかどうか、架空の話だとしても胸が痛むストーリーです。

私も幼い頃、母が眼科の手術をすることになって数日の離別を経験しています。
子供の頃は母親の存在が絶対でしたから「手術が必要」と医師から告げられた瞬間に様々な恐怖を抱き、帰宅してからは大泣きした記憶があります。
実際、母が入院していた間は祖父母が面倒を見てくれたので不安になるようなことは何もなく、非日常の経験を色々とした不思議な期間として当時のことを覚えています。

また、作中のように毎日帰宅していたはずの父親の記憶が曖昧なのが、少しおかしくもあります。
「ママの病気のこと、怒っているみたいだ。」という一文に隠された様々な感情をいまなら考えることができますが、自分自身に余裕がないときに取る行動というのは難しいですよね。

影津様は様々なジャンルを書かれているようです。
「バスティーユ牢獄襲撃事件」の前日譚ファンタジーが非常に心惹かれました。こちらは個人的に読んで楽しませていただきます。フランス革命は様々な切り口ができて楽しい。絶対楽しい。

影津様、反応ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?