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#小説読みます その1

こんにちは、架空書店「鹿書房」店主・伍月鹿です。
2023年ものんびり活動していきますので、よろしくお願いします。

本日からツイッターハッシュタグ「#小説読みます」にて募集した
インターネット上で読める創作作品の感想を書かせていただきます。
(順不同、短編~中編で募集したため、長編は途中までの感想となります。募集は現在締め切らせていただいております)

野中すずさん「生きていく自信と頭蓋骨」

https://ncode.syosetu.com/n6635hw/

「小説家になろう」にて公開中の短編です。
娘を事故で失った男が、勤め先の学校で一人花火を見る少女と出逢う話。
短編でありながら、状況描写と説明がまとまっているため、ラストシーンの衝撃まで持って行く流れが心地良い丁寧な作品だと感じました。
娘と妻を亡くし、それでも生きていく主人公の十数年がどのようなものだったのか、屋上で出逢った少女が花火の夜までにどのような物語を歩んできたのか、語られない部分も想像をして楽しむこともできます。

特に印象的だったのが、主人公の独白のような
「普通、自殺だよな。」
という一文。
自殺、という単語を動詞のように使用しているのが新鮮で驚きました。
「このような絶望的な状況では通常、自殺を選択したとしてもおかしくはない。」という感情を口語的に表現することで、
自殺をできないまま平然と生き長らえていることへの後悔などを詰め込ませることができているように感じました。
主人公にも、仕事のあとのビールを美味しいと思う権利や、花火を美しいと楽しむ権利はあって、「普通、自殺」ではないと私は考えますが(そう思えるのは冒頭の状況説明があるおかげでもあります)、何をしていてもふと空しくなってしまう感情のあるあるに誰もが共感するところはあると思いました。

また、少女が告げる
「質問したのは、私よ」
という台詞が、なんとも言えない凄みのある切り返しで素敵。
少女がとっさに嘘を告げ、非日常感を演出し、すぐさまそれを裏切る。
少女の台詞にもあるように「陳腐」とも言えるかもしれないよくある(あってはいけないけれど)状況ですが、それを野中すずさんの表現で一つの作品として完成させている文章力は圧巻です。

野中さん、リプライとフォローありがとうございました。


朝本箍さん「雪娘」

朝本様は様々な投稿サイトで作品を公開されています。
今回は「カクヨム」にて公開されている短編を読ませていただきました。

寒い中、一向に来ない「あいつ」を待つ主人公の短い作品。
当てつけのような主人公の意地と、それをあっという間に溶かしてしまう新しい出会いのストーリーです。
回想シーンやキャラクターの関係性などは深く描かれませんが、周囲にある日常を切り取ったような描写と構成がわたし好みでした。

主人公の心情描写で進んでいくお話ですが、あくまで主人公の目線で語られているという気遣いが文章から感じられました。
「(睫毛に)触覚がある訳でもないから、そこは雰囲気だけど。」
「最初はこんなに凍えた可愛そうなわたしを演出するためだったが、今はもう意地だった。」
という文章がお気に入り。

誰かに傷つけられたと感じたときや、相手の言動が気に入らないとき、誰もが似たような感情で行動をしたことがあると思います。
自分をわざと傷つけたり、辛いことをわざと進んでやることで、相手に心配してもらいたいという感情。
または傷ついている姿を見て相手に罪悪感を受け付けたいという下心など、自分でも説明しにくい感情を素直に文章にしている作品に共感ができました。

主人公は
「あいつに対してなのかはわからない。」
「予感は、実はあった。決定的な何かではなく予感、というところがまた気にいらない。」
と語りますが、上記のような行動に移した以上、本当は全部わかっているのではないかと個人的には思いました。
感情的な行動を取っている主人公は、あまりかわいげのある態度を取れないのではないのかと妄想。
理性よりも感情で行動するタイプで、言動と中身がちぐはぐなのを悩みながらも素直になれない。恋人に対してもうまく甘えられなくて「可愛くない」なんて言われているのかもしれません。
作中の二人はこれからどんな関係になっていくのでしょうか。

朝本様、いいねとフォローいつもありがとうございます。



新渡戸レオノフ様「私、シェヘラザード/明日はもっと面白いー私と三題噺と彼女を蝕む死の呪いー」

「カクヨム」にて公開されている新渡戸様の毎日更新されているシリーズです。今回は二十夜まで読ませていただきました。

ところで皆様は、三題噺を知ったのはどのタイミングでしょうか。
わたしは「”文学少女”」シリーズです。
こちらのシリーズの主人公も「文学少女」に命令されて、彼女のためにおいしい物語を書くストーリー。
「変な味」がする物語をぱりぱり食べる文芸部部長の描写が可愛くて、自分も真似をして筆を取ったものでした。

閑話休題。

「そうだ、三題噺で小説を書くことを日課にしなさい。それが出来なかったら死ね。」
そんな序章から始まり、リズミカルに読める作品にどんどん魅了されていくのが自分でわかるとても楽しいアイディアのシリーズでした。
同じフレーズを繰り返すのが特徴の作品も多く、くすりと笑ってしまうような文章もありました。
ショートショートらしいSFの話やおとぎ話のような空気感の作品などジャンルも多彩で、毎回オチがきちんとあるのが満足感も高くなっています。
読み終えたあとにお題を見返すのも楽しいですね。

特にお気に入りなのが
「プリンスチャーミングと言うよりプリンスチャームレスだ。」
「メーカーに対する敬意と言う物が微塵も感じられない!」
などの一文です。
是非どんなシーンで登場する文章なのか、お気に入りの作品を、皆様にも探してみてほしくなるシリーズでした。
第十四夜『蛸と春画-mimic octopus-』が個人的には気に入っています。お題の「野球」の使い方が意外でした。あと「春画」というオブラートの包み方が(わたしの解釈が間違っていなければ)上品ですてき。

こちらのシリーズは現在も毎日更新が続いております。
今後も更新を楽しみにさせていただきます。
新渡戸様、フォローといいね、ありがとうございました。


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