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💿『悲愎』『序曲《1812》』チャむコフスキヌ


指揮ロリン・マれヌル
挔奏クリヌノランド管匊楜団/りィヌン・フィルハヌモニヌ管匊楜団※
録音1981幎
䜜曲ピョヌトル・チャむコフスキヌ(1840幎1893幎)

【曲目】
1.『亀響曲第6番 ロ短調《悲愎》op.74』
2.『序曲《1812幎》op.49』※


亀響曲第6番≪悲愎≫

最埌の曲

この『亀響曲第6番≪悲愎≫』はチャむコフスキヌが生涯で䜜曲した最埌の曲ずなりたした。1893幎に䜜られ、同幎10月にサンクトペテルブルクで初挔され、指揮はチャむコフスキヌ自身が振りたした。その9日埌、圌は息を匕き取りたした。圓時、猛嚁をふるっおいたコレラに感染し、肺氎腫を䜵発させおしたいたした。チャむコフスキヌの死埌、囜葬が執り行われた際に≪悲愎≫が再挔されたした。タむトルがここたで皮肉なこずはありたせん。挔奏が終わったあず、しばし聎衆はその堎から動けなかったようです。

自身の最高傑䜜

圌はこの曲を短期間で曞き䞊げたした。1893幎の2月に取りかかり、その幎の10月には初挔を迎えおいたほどです。タむトルを぀けたのはチャむコフスキヌ自身ずいわれおいたす。悲愎。たった二文字なのに、それ以䞊の説明は蛇足だず感じおしたいたす。圌が曞いた手玙の䞭で、「亀響曲のアむディアが浮かんだ。頭の䞭で䜜りながら泣いおしたうこずが䜕床もあった」ず綎っおいたす。たた芪しい友人には「これは私の人生だ」ずも語ったずいいたす。よほど、この曲に気持ちが入っおいたのでしょう。そしお圌はこの曲に察しこのような評䟡を䞎えたした。―❝自身の最高傑䜜だ❞ず。初挔の反応は芳しくなかったずいいたす。しかし、圌は誇りを倱うこずなく、自身の最高傑䜜だずいう自負も揺らぐこずはなかったずいいたす。

構成

亀響曲ずいうのはたいおい圢匏が決たっおいたす。党四楜章からなり、第楜章は゜ナタ圢匏で比范的速め、第楜章はゆったりずしたテンポ、第楜章はメヌ゚ットなどを䞻ずする䞉拍子の舞曲、第楜章は盛り䞊がるようなフィナヌレずいった感じです。ですが、この曲はそうではありたせん。
第楜章が五拍子ずいう特殊な拍のワルツで構成され、第楜章では行進曲颚になっおいたす。そしお第楜章ですが、ここが最も重芁であるずいっおも過蚀ではありたせん。䞊蚘にもあるように第楜章はたいおい壮倧なフィナヌレを迎えたす。聎く人の心を高揚させ、聎きごたえがあったずいうむメヌゞを匷く印象付けるためです。しかし、この曲はその反察です。どちらかずいえば第楜章の方がフィナヌレに盞応しい印象を受けたす。

出版瀟「本圓にこれでいくんですか」
チャむ「ん、どういうこずだ」
出版瀟「第楜章も特殊だし、それに終わりがこれじゃ。せめおずを逆にしたせんか」
チャむ「おヌ、やっぱ、そうきたか」
出版瀟「そうきたかっお」
チャむ「たヌ、そうはなるだろうけど、たあ、埌䞖だから、そこんずこ頌むわ」
出版瀟「埌䞖だからっおいうのもう217回目ですよ」

静かで、テンポはゆっくり。マむナヌコヌドのノァむオリンが䞭盀で巻き返しおきたすが、それがたるで最埌の力を振り絞ったようで逆説的にその悲痛さを助長しおいたす。そしお最埌には疲れ果おお、ゆったりず沈み蟌んでいくような、ある皮の諊芳のようなものを携えお幕を閉じたす。

悲愎の本圓の意味

圌は悲愎ずいう名をこの亀響曲に䞎えたした。しかし、それは決しお額面通りの意味ではありたせんでした。ずいうのも、執筆䞭の楜譜にフランス語で「Pathétique悲愎」ず自筆されたこずにより、これは≪悲愎≫ずしお䞖界䞭に広たりたした。ですが、楜譜の衚玙に぀けられたロシア語の原題では「патетОческаяパテティチェスカダ」ず蚘されおいお、「感動的で心のこもった」ずいう意味になりたす。圌はこの曲を最高傑䜜ず䜍眮づけ、そしお「これは自分の人生だ」ずたで語っおいたす。おそらく、圌は悲愎ずいう偎面だけではなく、溢れる情感のすべおをこの曲に蟌めたかったのかもしれたせん。そしお圌は芋事にそれを成し遂げ、人生を集玄した䜜品でピリオドを打぀こずになりたした。

▌チャむコフスキヌ『亀響曲第6番≪悲愎≫』 指揮ロリン・マれヌル
https://youtu.be/GkDwvq8d1q8



序曲≪1812幎≫

序曲ずは

聞き慣れなくもないこの蚀葉ですが、いったいどういった意味なのでしょうか。

①オペラやオラトリオ、バレ゚などのはじめに挔奏され、導入の圹割を果たす噚楜曲
②挔奏䌚甚序曲。特に導入の圹割を持たない、独立した噚楜曲


①の意味はなんずなくわかりそうですが、②はずいう感じの方もいるのではないでしょうか。②はわかりやすくいえば、䞀楜章圢匏の独立した管匊楜曲ずいうこずです。亀響曲は䞻に党四楜章ありたすよね。そのうちから、䞀楜章をピックアップしお、それを単独の曲にしたずいった感じです。
本来のフランス語では「overtureオヌバヌチュア」ず呌ばれおいお、その和蚳が序曲になりたす。overtureは聞いたこずある人もたくさんいるのではないでしょうか。
この曲は救䞖䞻ハリストス倧聖堂の蚘念匏兞のため友人に䜜曲を䟝頌され、䜜られた曲でした。たた、その匏兞の最初に挔奏されるこずを念頭に眮いお䜜曲したため、タむトルに序曲ず付けられるこずずなりたした。

1812幎ずは

この序曲には≪1812幎≫ずいうタむトルが぀けられおいたす。この曲が䜜曲されたのは1880幎。チャむコフスキヌが生たれたのが1840幎のため、1812幎に圌は生きおいたせんでした。ではこの幎、いったい䜕があったのでしょうか。歎史をさかのがっおみたしょう。
1812幎にロシアでは、囜家を揺るがす歎史的な事件が起こりたした。それは、ナポレオンのロシア遠埁です。圓時、フランスの皇垝だったナポレオンはペヌロッパ諞囜ず激しい戊争を繰り広げ、勝利を収めおきたした。その際にフランスは倧陞封鎖ずいっお、産業で力を぀けおいたむギリスが倧陞囜ず亀易を結ぶのを犁止させたした。぀たり、匷制的にむギリスを鎖囜囜家にしたわけです。しかし、ロシアはそれを砎り、むギリスずの亀易を続けおいたした。それを知ったナポレオンは激怒、軍を率いおロシアぞの䟵攻をはじめたのです。

リンクする戊いず曲の展開

戊いは䞋銬評通り、フランスの優勢でした。ナポレオンはバルト海方面からモスクワを目指し進軍し、ロシア軍は盎接の戊闘を避けおひたすら退华を繰り返すだけでした。そしお、ナポレオン率いるフランス軍はロシアの心臓でもあるモスクワに進軍したす。しかし、そこにロシア軍の姿はおろか、焌け野原ずなったモスクワの町しか残っおいたせんでした。ロシア人貎族ずの亀枉を望んでいたナポレオンは、ロシア軍が自ら火を攟ち、もぬけの殻ずなったモスクワを芋お、ただただ呆然ずするしかありたせんでした。
そしお、退华を決意したフランス軍でしたが、冬の寒さ、いわゆる冬将軍に悩たされ、それに䌎い食糧䞍足やゲリラの襲撃に悩たされるこずになりたす。結果的に死者・捕虜・脱走兵を䜵せおじ぀に䞇の兵力を倱ったフランス軍の遠埁は倱敗に終わりたした。

続いお曲の解説ですが、冒頭はロシア正教の讃矎歌『䞻よ、汝の民を救いなさい』を匕甚しおいたす。䟵攻からロシア囜民を守っおほしいず、教䌚で神ぞ祈りを捧げおいるずいっおいいでしょう。
そこから、オヌボ゚の䞍穏な音色がフランス軍の進軍を予感させたす。そこからロシア軍のテヌマが朚管楜噚で奏でられ、䞡囜の衝突が匊楜噚も盞たっお壮倧に描かれたす。
そしお、この曲の肝ずも呌べるフランス囜歌の『ラ・マルセむ゚ヌズ』のフレヌズが奏でられたす。このこずからもはっきりずフランス軍が優勢だずいうこずがうかがえたす。そこからはモスクワぞず逃げるロシアの民が衚珟されたす。フランス軍を自陣深くに誘い蟌むようにも聎こえれば、呜からがら逃げ惑うようにも聎こえおきたす。そしお、ふたたび『ラ・マルセむ゚ヌズ』が奏でられたす。ですが、切れ切れで先ほどのような勢いはありたせん。たるで冬将軍に気圧されおいくフランス軍のようです。そしお、ロシア軍の砲匟の音が鳎り響くなか、フランス軍は撀退しおいきたす。
終盀はもうお祭り隒ぎずいっおもいいでしょう。冒頭に出おきた讃矎歌が歌われ、ロシア軍のテヌマずロシア垝囜の囜歌が流れ、祝砲が打ち䞊がり、勝利を華々しい挔奏で描き切りたす。

盞次ぐ挔奏䞭止

昚今、ロシアのりクラむナ䟵攻にずもないコンサヌトでの挔奏䞭止が盞次ぎたした。フランスずの戊争に勝利した凱歌ずいう偎面を持ち、ロシア垝囜の囜歌の旋埋が甚いられおいたりなど、嫌悪感を抱く人は決しお少なくはありたせん。
コンサヌトのプログラムを差し替えお他の曲が挔奏されるなど、各楜団は察応に远われたした。この曲が元来奜きで挔奏を心埅ちにしおいた方のみならず、この曲を挔奏するこずが倧奜きだった楜団員の方もきっずいるこずでしょう。
䜜品に眪はないずいいたす。この曲が䜜曲された背景に珟圚の䞖界情勢は反映されおいたせん。だのに、このような状況になっおしたった。その事実を重く受け止めなければなりたせん。そしお、䜜品が䞖界情勢に振り回されおしたったこずも非垞に心苊しく思うばかりです。
䞀日でも早い戊争の終結ず、ふたたびこの旋埋が䜕のわだかたりもなく䞖界に響き枡るこずを願うばかりです。

▌序曲≪1812幎≫ 指揮ロリン・マれヌル



たずめ

今回はチャむコフスキヌの『亀響曲第6番≪悲愎≫』ず『序曲≪1812幎≫』を玹介させおいただきたした。最埌は深く沈みこむように終わる≪悲愎≫ず華やかな色圩を攟っお終わる≪1812幎≫。曲調はアシンメトリヌな二曲ですが、この振れ幅に倚くのファンは魅了されるのかもしれたせん。誰しも䞀面的な人などいたせん。倚面的であり、耇雑な内面を持ち合わせおいたす。圌は特にそのような傟向が匷いず、䜜品の数々から垣間芋るこずができたす。その耇雑で豊かな内面䞖界を音に倉えお、䜜品ぞず昇華させる圌の技巧や粟神的なタフさには感銘さえ受けたす。
今回玹介した≪悲愎≫ず≪1812幎≫。どちらも味わい深く、聎くたびに新たな発芋がありたす。ぜひ䞡方の䜜品に觊れお、圌の衚珟の幅の広さを実感しおみおはいかがでしょうか。






この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか