見出し画像

湘南乃風の替え歌

その昔、作詞で一儲けしようと企んでいた時期があった。ライターのなかでは一文字あたりのコスパがバツグンに良いと思ったのがその理由である。
もちろんそんな邪な考えでつづくはずもなく、そうそうにやめてしまったのだが、そのころ作詞の練習でやっていたことがある。

替え歌である。

なんとなれば、ふつうに詩を書いていたのではメロディーへのことばの乗せ方が身につかない。すでにある曲をつかえば単語の子音をずらして異なる物語を拵えるだけでそれっぽくなる。そうした“ずらし”をくり返すうちに大作詞家になれると本気で信じていた。

今回はそのころの習作のなかから湘南乃風『純恋歌』の替え歌を公開しようと思う。

まずはオリジナルの歌詞を見てほしい。

インターネット上では「パスタ作ったお前」の一節でつとに聞こえるが、それ以外のところもそうとうおもしろい。あと、登場する男がなかなかのクソ野郎である。

替え歌ではべつのタイプのクソ野郎を目指した。以下、私の替え歌である。

清み渡る空 億千の星  「綺麗すぎるね」あなたが言う
燃える頬にかじかむ指 どこかで響く愛のうた

上新宿の雑多な群れ お高い指輪くすねた君
技巧的な手つきに息を呑む俺 一目惚れ
観察気付かれマジ切れ 弱味を握って「最低ね」って
冷たい瞳にまた癒され ベタ惚れ

愛しくて愛しくて 柄にもなく仕事投げ出して
“まずはお茶でも” おぼろげな君にかさなる母の面影
守りたい女って思った 初めて
みえすいた嘘かな ギュッと手を握った

清み渡る空 億千の星 「綺麗すぎるだろ」あなたに言う
燃える街にたなびく風 どこかで響く愛のうた

あれからずっと一緒だよな あなたと俺
急転直下に底へと転げる日々
世間の目なんて気にしないでいてくれよ 愛しい連れ
“なぁ”変なアダ名を増やすなよ 本名が判らなくなるだろ
でもいつも落ち込んだとき
助けてくれる あなたの優しい声

だれよりお似合いな二人 言葉失って のたれ死んでも……
連絡がつかないときは 自分勝手に歩き回って
街の灯を遮り 自分つぶして漂いつづけて
警察に連れられ朝方 家に帰る君

目を閉じれば あの日の道 二度とは往けぬ路地の裏
どこかに迷い混んだまま 神隠しの午前3時

会いに往くよ……

無数の視線刺さるあの街角 出逢った二人の場所に帰りに一人寄り道
変わらぬ雑踏 不様なアルタイルとベガ 全て見えてたつもり
水面に映る月影……

馴れ合いに明け暮れる夜 鏡に問いかけるあなた
あなたは俺のために だのに俺は俺のため
春の夜風に吹かれ 思い出に殴られ
傷刻み 堂々巡り 投げ出された記憶の淵

今すぐ会いに行くよ 手を繋いで帰ろう
袋小路でも 神は見逃してくれるさ
ハイソな服を脱ぎ捨てて この先出口がなくとも
癒えない二人で生きていこうぜ

LOVE SONG もう独りじゃどこにも行けない
籠の中の渡り鳥 巣立ってくれるな
LOVE SONG もう憂うことはないぜ
泥をかじって俺は誓ったんだ
LOVE SONG ヘタクソな歌で愛を バカな男が愛を歌おう
失笑してくれ なんにもいらない
LOVE SONG 何度でも 何度でも
LOVE SONG…何でも赦そう
LOVE SONG…約束しよう

清み渡る空 億千の星  「綺麗すぎるね」あなたが言う
燃える頬にかじかむ指 どこかで響く愛のうた

清み渡る空 ペラペラの星 まばゆいばかりあなたがいる
だれかの足音に気付く どこかで響く愛のうた

ラップの入りのところの「大親友の彼女の連れ」を「上新宿の雑多な群れ」と書き換えた瞬間に男のそのさきの物語がパッと照射され、自動書記的に書きあげた。われながら見事な出来であるが、これでは複雑すぎて売れんのだな。

まあ、ぜひカラオケで歌ってください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?