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へたっぴ将棋研究所R (2)

デビルメイクライのアプリがリリースされた。最近ゲームなどはめっきりやらなくなったが小学生の頃から遊んでいるゲーム、新作は頑張って追いたいという情がわいてしまっている。画面に表示されるボタンをぽちぽち押すと、過去何百と聞いてきた「フンッ!ハッ!ヤァ!!」というボイスを、わざわざデビルメイクライ5をやるためだけに買ったps5を引っ張り出さずとも、スマホで手軽に聞けるようになったのは良い事である。が、当時抱いた鮮烈な面白さを感じることはできなかった。音やキャラクターのアクションボイスを懐かしむ、感覚としてはパチンコの楽しさに近い。懐かしいセリフや効果音を激しい光の点滅による刺激を脳に与えドーパミンを直接搾り出されるアレである。楽しさよりも懐かしさを娯楽に求めだすとおじいさんの入り口である。5も面白かったけどやっぱ3が一番だよね!と言っているおじいさん仲間には亜鉛サプリをおすすめする。

前回から続き、またまた将棋のお話である。
常に同じルールなのに千年単位で新手が出続ける、懐かしさを置き去りにする若さを未だ孕むボードゲームである。なにより書いてる側が楽しいんですよね。
皆様のお時間を拝借します。


前回は将棋の受かるという考え方について説明した、駒同士がぶつかった時に、戦いが始まったマスに効いている駒が一枚でも多ければ受かるという、将棋の根底にある基本的な考え方の話である。
そして今回は、その受かる受からないをする際に大切な、駒の価値について話そうとおもう。
前回の記事でも、図1で「歩は沢山いるが銀は2枚しかない」と、少し触れている内容であるが、駒には上下がある。

へたっぴ将棋研究所R より

取られるならば銀より歩の方が被害が少ない。

お察しの通り、いや知っての通り、歩は一番価値の低い駒、量産型ザクである。しかし一番価値が低いといっても低いなりの良さがある、弁明させて欲しい。
難しい事はできないが、愚直に一歩ずつ前に進む健気な駒である。が、成長し と金 になれば、王の側近の金と同じ働きを見せる。進む方向だけで見れば単純に6倍の性能、シャアザクですら3倍なのに末恐ろしい。確かに駒に書かれた「と」の字の燃えるような赤は見るものを圧倒する、この赤に比べればシャアザクの赤はどうみてもピンクである。
さらに歩の良さはそれだけではない。相手に取られたとしても歩は歩でしかないというところも非常に魅力的だ。
と金まで出世した彼は移籍後も活躍するのだろうと思い寂しくなっていたが、久々に会った彼はまた愚直に一歩ずつ進んでいるのである。元いた会社でのノウハウを漏らすことなく、振り出しから始める胆力は目を見張るものがある。決して新しい環境に慣れるのに時間がかかってしまうわけではない、実務経験がありながらもバイトと同じ研修を受ける事は悪いことではない。悪いことではない。忠誠大義である。

さて、歩の価値が低いのは知っているが、他の駒の序列がどうなっているのかまでは知らないという人も多いだろう。

玉 >> 飛車 角 >> 金>銀>桂>香 >> 歩

このようなイメージを持っておけば大方間違いではない。大駒である飛車と角を除けば、順位は結構団子になっている上に、明確に役割も違うため状況によって上下は入れ替わる。「駒得は裏切らない」という格言があるが、桂と金を交換し喜んでいた束の間、3手先で詰む事もある。
つまり、この格言は盤上で揺らぐ駒の価値を正しく見極めた上での駒得の事を指しているのだ。それができれば苦労はしない。

将棋の盤面は10の220乗のパターンがあるとされている、全ての盤面で通用するものではないが、各盤面で活躍しやすい駒は先人たちの対局で明らかになってきている。そのときの駒得の目安にはなるだろう。
全てではないが序盤 中盤 終盤にわけそれぞれ2つ、全部で6つの活躍しやすい駒と、その理由を紹介しようと思う。


・序盤
序盤は銀と角が活躍しやすい。
銀は様々な戦法で攻め駒として運用される。特に飛車を左に移動させて戦う『振り飛車』系の戦法では7九の銀が戦略の肝となるほど、序盤の銀の動きで動きの起こりがわかる。また、玉を守るために囲う際、金が八筋に上がることが多く、飛車と金の両取りをかける事もできるため、手中に納めておきたい駒になる。

飛車 金 両取りの形『割打ちの銀』

飛車と金が1マス空けた横並びの形は、序盤、飛車に飛車をぶつけようと向かわせた際に起こりやすいミスである。3筋に飛車を振る際は見落とさず咎めたい一手となる。また銀を打てずとも、手中にあるだけで飛車の動きを牽制する事もできる。序盤の相手銀は積極的に狙いたい。

銀が序盤の肝であるならば、角は序盤の要である。
まず一番覚えておきたいことは、序盤では飛車より角が上になる。序盤は駒の初期配置の関係上、飛車を効果的に打つ場所が非常に少ない。相手陣に打つとすぐに取られ、自陣の変な位置に置くと終局まで使えず腐る事が多い、元あった位置に戻す行為は単純に手損となる。あろう事が五筋に打てば無駄に反復横跳びする香車に成り下がる。飛車に憧れ、従軍する道を選んだ二等兵、歩の落胆が聞こえてくる。
しかし角は序盤、相手玉に睨みを効かせるだけでなく、歩の両取りをかけやすい。

角による歩の両取り
後の角成を狙う

相手陣の隙間を縫うように潜り込み馬に成る事で、大きく有利を取ることができる。さらに初期配置の角の筋の終点は相手 香になる、桂 銀は横に動くことができないため馬を止める事ができず香桂を無傷で取ることができる。

将棋ウォーズでは、このように馬で香桂を取られると投了する者も多い。序盤に手損をしてでも角を手中に納め、好きなところに角を打てるメリットを取る『一手損角変わり』という戦法が確立されるほど、序盤は角によるトラップが多いのだ。
そのため序盤の飛車角交換は臆せず、飛車を差し出し角をとる事をお勧めする。序盤に失った飛車は容易に取り返すことができる。


・中盤
中盤は、盤上の各地で駒がぶつかり合う総力戦、勝負の決め手になる要因は、戦いに参加している駒の数になる。
この時、活躍しやすい駒は桂と香になる。しかし、活躍しやすい反面、自陣で腐りやすく適当に扱えば相手に駒を差し出すだけになってしまう、非常に扱いの難しい駒である。
盤面が複雑になり陣地に厚みが出てくる中盤で、桂 香の飛び道具のような動きによる突破力と爆発力は頼もしい、積極的に持ち駒にしたい駒になる。というのもこの桂香、動き方が特殊すぎて初期配置からでは、踏めるマスが極端に少ない。

初期配置から桂 香車が踏めるマス

上図のように、香は真っ直ぐ前へ、他の駒にぶつからない限り好きなだけ何マスでも進む事ができる。が、桂馬は斜め前の2マスのどちらかに跳ねる形でマスをとばしとばしで進むことになる。敵陣で成れば金と同じように動く事ができるため自由に動く事ができるが、成らずを選択すれば尚制限されることになる。馬も車も運転が難しいらしい。
そのため、好きなマスに置く事ができる持ち駒として手元に置いておくことで、何倍も効果的に桂香を使う事ができる。桂同士の交換や角で相手陣に切り込みを狙いたい。
遠くから相手を牽制する使い方や、前述の割り打ちの銀のように両取りを仕掛ける使い方で運用したい駒になる。

香による両取り『田楽刺し』
桂による両取り『ふんどしの桂』

また桂頭に銀を打つことで、桂を詰ます事ができる。受け方として覚えておきたい。

桂頭の銀
桂馬が跳ねた先を銀で取ることができる


・終盤
終盤は相手玉を詰ませるために、他方向をカバーできる金が活躍する。序盤中盤に関しては異を唱える者が多いかもしれないが、こと終盤の金においては満場一致の大活躍、大スターである。
持ち駒が少ない実戦9手詰めを見て玄人のおじいさま方がニヤニヤしている姿を観てわかる通り、詰将棋でも、持ち駒に金があるか否かで難易度が大きく変わる。
詰ませるだけでなく、受けでも金は活躍する。囲いの要となる金だが、囲いの形が崩れようと玉の近くに金がいる限りなかなか詰まないケースは多々ある。
その金を支える影の立役者が歩である。金の壁となり玉を守る、ハガレンの最終決戦くらい熱い展開である。
この時覚えておきたい金を歩で支える形

金底の歩

金底の歩、岩より堅し
自陣の1番手前に歩があり、さらにその1つ上に金がある形は特に相手の飛車による横からの攻めに対して強いうえに、金駒は1枚しか使っていないため駒の効率が良い受け方である。
歩には歩の戦い方がある、それは個人の戦いではなく組織という規模で輝く。将棋には駒の価値はあるが、戦力の差で最も重要視されるのはやはり数である。指導対局では駒落ちというハンデありの対局がある、飛車角の2枚落ちから玉と歩以外を使わぬ10枚落ち、最後まで上手の手に残るのは歩である。
組織を組織たらしめているのは歩なのだ。
世の全ての歩に幸あれ。

次回「突き捨ての歩」
君は生き延びる事ができるか。

懐かしいと思った方には亜鉛サプリをおすすめする。

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