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山里の清-5

洞穴

翌週末 俺達は、駅裏に集合していた。時間は何と朝の7時だ。俺は早起きは慣れてるけど、吉田は立ったっまま揺れている。目は、…開いてない、それでも俺の朝飯は作ってくる。尊敬できる先輩だ。俺が握り飯を3個食い、繋ぎに着替えた頃、吉田もすっかり目覚めて部長に渡された缶コーヒーを飲んでいた。俺も頂いたので一口飲んでみると、何だこれ!苦いだけじゃん、思わず部長に「これすごく苦い、捨てて良いですか」って聞いた。部長(中村文枝)は、エッ清くんブラックだめなの?、と言って横の自動販売機まで連れて行くと笑顔で、「奢るからどれでも好きなの選びなよ」と指差した。俺は、初めて販売機のボタン押したが、イチゴミルクを選んだ。一気飲みするほど美味しかった。ごちそうさまでしたと頭を下げると、何だか4人の目が優しい、須賀姉が「清、トイレは?」と声をかけてくる。子供扱いしないで下さい!と、文句を言ってトイレに駆け込んだ。

出発! 吉田を先頭に、部長、須賀姉妹、その後ろに大荷物の俺。部長も、双子も其々小さなリュックを担ぎ、何か長いものを持っている。楽器? イヤイヤ、まさかの武器? イヤイヤ

到着すると、例の刻印を見て盛り上がった。一回押してみようと言う4人を制して、部長が「押すのは、探索の最後にしましょう、押してしまってこの場に変化が起こったら、他の探索ができなくなってしまうかもしれないから、先ず洞穴の探索を先にしましょう」との意見に、一同納得で洞穴へ行くことになった。

入り口に着くと、部長は長い布袋から本物の竹刀を取り出し、ビュッと一振りするのだ。須賀妹はケースからなんとライフルガンを取り出し、M4K1カービン電動モデルガンだと言う、姉の方は、コルトM14A1だって、2人で射撃のポーズをして見せる。部長曰く、化け物が出たら、須賀姉妹が BB弾を撃ちまくり、怯んだ隙に逃げる。怯まなかったら部長が竹刀で叩くそれでも向かって来たら、清に任せる。俺は、小さく了解です! と答えた。俺の出番など、あるわきゃないデス。実は吉田の家に泊まった夜。部長の家が剣道の道場を経営していて、部長も有段者だということや。須賀姉妹は父親の影響で武器マニアだと言うことを聞かされていたらしい、俺は話の途中で眠っちゃったけどもね、

俺達は無言で暗い洞窟を進む、すぐにあの平井戸の様な穴に到着した。サーチライトで下を照らしても一向に底は見えない、吉田があたりを探して、かろうじて見つけた岩の小さなカケラを,スッと落としてみた。カンッて音がするまで3分はかかったと思う。うわ〜!凄く深い、吉田が震えて、「この前俺がこれ(吸入器)落としちゃって、清がこの穴に降りて拾ってくれたけど、あの時清が下まで落ちちゃってたらって想像しちゃったよ! 清ごめんなぁ」それを聞いて一番ゾッとしたのは俺だ。そのことを言うと、双子は、大丈夫!清なら平気な顔して上がってくるよと言うので、みんなで大笑いした。吉田がシッ!と言うと同時にあの音がした、奥の方からザザッと言う音、双子の姉妹は一斉にタタタタタと音に向かって射撃開始した。奥からブワーッと出て来たそれは、コウモリの群れだった。群れは俺たちを避けて出口へと消えてしまった。吉田が凄く咳き込み始めてしまったので。俺が吉田を担ぎ全員で洞穴から出て来た。建物の前で休んでいると、吉田の咳も落ち着いた。本当に酷い咳き込みで、オロオロしてしまった。

部長が「今日はもう洞穴内部は埃が舞っていてどうしようもない、洞穴は今度にしよう、次はコウモリ達が騒がない様に、そっと来よう」と言うので、皆それに従った。昼飯は皆に色々なものをご馳走になった。俺だけ何も用意してないので、お礼とお詫びを言ったら、悪いと思ったら、全部食って帰りの荷物を軽くしろと笑って言われて、思い切り食った。食後は、モデルガンを持たせてもらったり、教わって木の枝を撃ったり、重たい竹刀を振ってみたり、吉田がカメラ操作を教えてくれたので、交代でカメラマンをして集合写真も撮った。須賀姉が、鏡を使って建物の溝から中を見ることに成功し、交代で見たら、石の鏃(ヤジリ)の様なものがビッシリ詰まっている。須賀妹が「これ、大昔の武器庫なんじゃないの」と言うので、俺が「じゃあ洞穴は大昔の防空壕かな」など言って、俺達はああだこうだと協議した。そして。大東亜戦争よりもっともっとずーと昔、 この辺の人達は、何かと戦ったんじゃないの? 天狗とか、妖怪とか、その恐ろしい何かと、その痕跡が、この下一面に有るんじゃないの? なんて話になった。知りたいし調べたいが、知識も道具も全然足りないよねと話した。

遊び疲れ、話疲れ、そろそろ夕日が眩しい、食べ尽くして軽くなった荷物を背負って、俺達は帰路についた。

つづく


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