人の弱さと真理 アンチヒーローを見て

 人は弱く、愚かな生き物だ。権力を手にしたとき、私欲に負け、強大な力を不正に行使する。その行為は大きな罰となってブーメランのように跳ね返り、身を滅ぼす。

 死刑判決を巡るえん罪と、司法権力の闇を描いたドラマ「アンチヒーロー」は、法をつかさどる人間の弱さと危うさを克明に浮き彫りにした。

 12年前の一家殺人事件。殺人容疑を立証する証拠は出てこず、容疑者の取り調べは難航する。当時、訴訟を指揮した検事正は、容疑者の無罪を裏付ける決定的な証拠をもみ消し、科捜研の毒物検出書類を改ざんする。強引に死刑判決へと導き、無罪の容疑者の人生を奪った。

 検事正を不正に駆り立てたのは、家庭の事情があった。やっとさずかった子ども。殺人事件を立件できなければ出世街道から転落する。手にかかった幸せを手放すまいと、法をつかさどる人間が法よりも私欲を優先し、えん罪を招いてしまう。法を汚した検事が、法のしっぺ返しを食らったのは当然の帰結であろう。権力の闇を暴くアンチヒーローの手によって。

 何も法に限った話ではあるまい。人は誰しも自分の弱さと向き合いながら、己の使命を全うしようと日々を生きている。その摂理に反し、欲に目がくらめば破滅するどころか、社会をゆがめる。AIを悪用した詐欺、自民党の裏金問題、闇に包まれたまま透明化が進まない政党交付金。こうした愚行は枚挙にいとまがない。社会制度や科学技術の中枢を担う人間は、特に肝に銘じるべきだ。

どの世界にもアンチヒーローはいる。権力をバックに、欲にまみれた愚行はいつかは必ず成敗される。法や科学技術を超えた真理である。

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