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中国で会社設立するのに必要な最低資本金と事業計画の策定

前回までの会社改正法や外商三法の紹介に続き、今回はその改正内容について深掘りしていきたいと思います。

その改正の内容について、以下の6つのポイントに分けてみました。

中国会社法(中華人民共和国公司法)が改正され、2014年3月1日から施行された。

1.最低資本金制度の廃止
2.初回出資額及び払込時期に関する規制の撤廃
3.営業許可証への払込済資本金の不記載
4.験資証明制度の廃止
5.現物出資比率の上限の撤廃
6.株主の出資額の非登記化

まず、最低資本金制度の廃止について詳述するところから始めます。ここで誤解を避けたいのは、制度の廃止が、例えば日本のように1円で会社を設立できるという事実を意味しないという点です。この現実的な制約について、さらに深く掘り下げて説明します。

制度的には最低登録資本の規定が撤廃されたとはいえ、実際のビジネス運営には必要な最低限の運転資金が必要です。例えば、オフィスの賃料、従業員の給与、商品やサービスの初期生産費用など、会社を運営する上で最低限必要な費用は避けて通れません。

中国における会社設立に関する資本金の制度は、従来、最低登録資本の規定が存在し、一定の資本金が必要でした。しかし、2014年の企業法改正により、最低登録資本の規定が撤廃され、現在では企業が自己のビジネスモデルに最適な資本金額を自由に設定することが可能になりました。

この制度改革は、企業の自由な意思決定を尊重し、ビジネスの多様性を推進するものであり、特に初期資金が少ないスタートアップや中小企業にとっては大きな恩恵をもたらしました。これは、資金繰りの難しい初期段階で、企業が必要最低限の運転資金だけで設立できるということを意味します。

しかし、登録資本金額がゼロとなる可能性もあるため、企業の責任や信用性を問う観点から、資本金額をどの程度設定するかは企業の戦略的な意思決定となります。また、業界によっては、資本金の最低額を規定する特別な規則が存在することもあります。

例えば、金融業界や不動産業界では、特定の最低資本金額を設定しなければならない規制があります。これは、これらの業界が公共の利益に深く関わる業界であるため、投資者や顧客への保護と、業界の健全な発展を確保するための措置です。

また、出資者が引き受ける予定金額・出資方法・出資期限は定款に記載する必要があり、払込済資本金額のチェックについては験資報告書の提出が不要となっています。これにより、企業は投資計画に合わせて資金を投入することが可能となり、運営はよりフレキシブルにできるようになりました。

このように、中国の企業設立における最低資本金制度は、企業の自由な意思決定と多様性を推進し、特にスタートアップや中小企業にとっては設立の敷居を大きく下げる一方で、業界特有の規定や企業の戦略的な意思決定が必要となる、柔軟性と堅実性を併せ持つ制度となっています。

また、中国で会社を設立する際には、外商投資企業承認証明書(外商投資批准書)という許可が必要となります。この許可を取得する過程で、「F/S報告書(Feasibility Study Report、企業可能性調査報告書)」と称される事業計画書を提出する必要があります。

このF/S報告書は、新設会社のビジネスモデル、事業計画、財務計画、市場予測、資本構成などを包括的に示す文書です。それは事業の有望性、適切な運営、そして成長の見通しを具体的に示すための重要な計画書となります。

さらに、このF/S報告書は、設立する会社の資本が適切であるかを検証するための道具でもあります。資本金の額は、新設会社が事業計画に記載された目標を達成するために必要な資金を確保しているかを示す一つの指標となります。したがって、事業計画に対して資本金が過少と判断された場合、当局は会社設立の許可を下さない可能性があります。

これらの理由から、最低登録資本の規定が撤廃され、理論的には1元から会社設立が可能になったとはいえ、実際には1元で会社を設立することは困難です。F/S報告書に基づく資本適正性の検証を通過するためには、それなりの規模の資本金が必要となるでしょう。事業計画とその実現可能性に見合った資本金の設定が重要となります。

つまり、事前の事業計画の策定が不可欠であり、それなしに中国市場に参入しようとするのは、非常に困難であると言えます。設立する会社のビジネスモデル、目標市場、製品やサービスの差別化要素、リソース配分、財務戦略など、具体的なビジネスプランがなければ、会社設立の許可を得るだけでなく、一度設立したとしてもその運営と成長は極めて厳しくなるでしょう。

実際、多くの経営者が中国市場への参入に際して、事業計画を怠った結果、数年以内に撤退を余儀なくされる事例が見受けられます。これは、中国特有のビジネス環境や法規制、市場動向を十分に理解せずに事業を立ち上げ、適切な準備や戦略策定が不足していたからだと言えるでしょう。

そして、この原則は中国だけでなく、世界中のどの市場においても同様です。国際的なビジネスシーンで成功を収めるためには、「当たり前のことをしっかりと行う」ことが求められます。その中でも特に、マーケットリサーチ、事業計画の策定、法規制への対応、そしてその全てをスピーディに進める能力が重要となります。

最後になりますが、これらの基本的なステップを踏まずに事業展開を進めるのは、会社の長期的な成長と持続可能性を危うくする可能性があります。したがって、あらゆる市場、特に海外市場に参入する際には、これらの「当たり前のこと」をきちんと行い、適切な事業計画を策定することが、成功への第一歩となるでしょう。


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