世界中で勃発するランドラッシュ
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私がウラジオストクの地を訪れたのは、リーマン・ショックが引き起こした世界金融の暗黒時代だった。この衝撃は投機マネーを一気に蒸発させ、穀物価格を高騰させる重要な要素を一時的に消去した。
過去には想像もつかないほどの高額にまで跳ね上がっていた穀物価格は、この時期には一息ついていた。それはまるで大海原に漂う船が、一時的に風のない静寂な水面に出たかのような静けさだった。
しかし、この静寂を破るかのように、ウラジオストクの農地を巡る外国企業の活動は、全くブレーキをかける様子がなかった。とりわけ発展途上国を中心に、その動きは世界中で盛んに行われていた。穀物価格の一時的な落ち着きとは裏腹に、その貪欲な手は土地を囲い込み、自身の影響力を広げていたのだ。
リーマン・ショックが世界経済に深い爪痕を残したその次の月、つまり2008年10月に、ある報告書が発表された。それは、農業従事者の生活向上を目指す国際NGO「グレイン」(スペインに本部を置く)からのものだった。題名は、「2008年 食料・金融安全保障のための土地争奪」。
この報告書は、一見すると平穏な世界経済の裏側に潜む激動の現実を、我々に突きつける。グレインは、各国の報道をもとに独自の調査を行い、この戦いがどれほど広範にわたっているのかを明らかにした。それは、世界中で巻き起こる土地争奪の現場を、具体的な事例として100件以上も紹介するというものだった。
この文章の開始部分は、我々が今直面している世界的な問題を如実に示している。
「同時発生した食料危機と金融危機が、新たな、広範で複雑なグローバル土地争奪の序章を開いた。食料供給において輸入に大きく依存している国々の政府が、食料生産の安定供給を求めて海外の農地を獲得しようと画策している。それと同時に、金融危機の深化とともに、企業や投資家たちは海外農地への投資を新たな利益源として見定めている。この流れは、肥沃な土地が一部の手に集中する土地私有化や大規模化を加速させ、世界各地の小規模農業や農村生活が消え去る可能性をもたらしている。」
これらの行動が、食料危機への解決策を求める必然的な動きとして見える一方で、企業が土地を手に入れることで得られる利益という側面も無視できない。しかし、この「儲かる」機会が引き起こす、裏側の問題は何なのだろうか?この疑問に答えるためには、この地球規模の土地争奪の深淵に目を向ける必要がある。
未来を見据えると、数百万ものアフリカの人々が水という生命の源に触れることができなくなる恐れがある。
その一因として挙げられるのが、外国企業による土地の侵食だ。この現象が持続し、深刻化すれば、アフリカの水資源は耐え切れず、遂には枯渇してしまうと考えられる。この問題は、単なる土地所有権の問題を超え、人々の生存権に直接関わる問題へと昇華しているのだ。
先述の国際NGO「グレイン」が発表した2012年6月11日のレポートは、急激に進行するアフリカの開発の現場を詳細に解析し、苦境に立たされた農民たちの生々しい現実を描き出した。
「水資源の奪取という暗闇の奥にある、アフリカの乾燥化と土地収奪」
レポートでは、アフリカの豊かな土地が一つずつ外国企業の手に渡っていると明らかにされた。それらの土地には、水資源も含まれており、土地を手に入れた外国企業は、大規模で工業化された農業を行うため、大量の水を消費していることも確認された。
これらの土地取引は秘密裏に進行しており、具体的にどのような資源が外国企業の手に渡っているのかを明らかにすることは、困難を極めることが指摘された。
公になった契約内容を見てみると、それらが意図的に水利権に言及を避けていることが明らかであった。これにより、外国企業はダムや灌漑システムの建設を自由に進めることが可能となる。
「グレイン」の報告書では、次のような警告が発せられている。
「21世紀の工業的農業は水資源を枯渇させ、アフリカも例外ではない。中国やインドで見たような農地の荒廃や塩害が発生する可能性が高い」
しかし、アフリカ各国の政府の多くが水利権の問題を長年放置してきたという背景があり、この状況を変えるのは決して容易な事業ではない。
貧困層の要求を満たし、環境を保護するためには、国際社会の指導の下で、アフリカの水と土地の管理体制を変革する必要がある。しかし、土地と水への渇望は依然として絶えない。
土地と水が不足しているにもかかわらず、資金が豊富な食料輸入国、例えば湾岸諸国は、海外農地への投資に非常に積極的である。さらに、人口が多く、食料の安全保障に対する懸念を抱えている国々も、海外での食料生産の機会を求めている。
サウジアラビア、カタール、リビア、中国、韓国、インドなどの20か国が、食糧を確保するために海外で広大な農地を取得し始めていた。
これらの国々の投資の対象は、生産コストが格段に低く、土地と水が豊富な途上国に向けられており、スーダン、エチオピア、パキスタン、フィリピン、カンボジア、トルコ、ウクライナなどの24カ国がその中心になっている。
日本とウラジオストクとの関連性は、この農地獲得の流れとは別の軌道を描いています。具体的には、現地の農業技術の指導や物流改革の支援という側面が強調され、食料システムが崩壊しつつあるこの流れとは全く異なる存在です。
しかしながら、私たちはこの「暴走」が生み出す問題について理解しなければなりません。
なぜ、通常の輸入を通じて食糧を調達するのではなく、わざわざ海外の農地を獲得するのか?ノンフィクションの物語として、この生々しい現象に触れつつ、次回はこの点について深掘りしたいと思います。
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