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【現代小説】金曜日の息子へ|第24話 変わらぬ愛、変わる心

俺はボイスレコーダーを立ち上げているiPhoneに向かって深く息を吐き出した。

「一止よ、これまで君の産みのお母さんについて、辛辣な内容を並べ立てたかもしれない。君の気持ちを考慮せず、自分の感情を優先させてしまったことを反省しているんだ。君と、君を育ててくれたお母さんと君の妹と弟と、そしてパピ、この三人だけが俺の心から信頼できる家族なんだ。だからこそ、率直に本音を話してきたつもりだ。」

音声はしばらく途切れた…この頃の銀二はすっかり身体も弱っていたのだ。
銀二はしばらく沈黙した後、ゆっくりと言葉を続けた。

「君の産みのお母さんは、確かに俺にとって特別な存在だった。彼女がいなければ、今の君はいない。若かった頃は彼女への気持ちなんてなかったけど、時間が経つにつれて、彼女の存在の大きさを感じるようになったんだ。」

彼の声は遠く、思い出に浸っているかのようだった。

「彼女は美しく、ファッション雑誌のモデルとして活躍していた。だから付き合うこと自体は嫌じゃなかった。

でも、俺が誰かと本当に心を通わせることができたのは、皮肉にも彼女と離れたアメリカでの生活の中だった。そこで出会ったジュリアは、彼女とは全く違うタイプだった。

情熱的で、彼女とは結局別れてしまったけど、今でもある意味でベストパートナーだったんだ。」

銀二は少し咳き込みがら続ける。

「でも、君のお母さんはまた違うんだ。彼女は京都にある老舗旅館の娘だったし、俺にとって退屈な存在だった。

常に俺を立て、日本の伝統的な美徳を体現していた。初めはその全てが新鮮だったが、次第にそれが重荷に感じられるようになったんだ。」

銀二は深くため息をついたようだった。

「人は他人を変えるべきじゃない。俺はこれまで何度も、自分の理想や期待に合わせて人を変えようとしてきた。彼女にも、そして自分自身にも。

俺はその頃のことをよく思い返すんだ。彼女が初めて彼の前で三つ指をついて『おかえりなさい』と言ったときのこと。その瞬間、彼は彼女の伝統的な行為に違和感を覚え、彼女を変えようとした。しかし、それは彼女の根本的な部分を否定することだった。

人を変えるというのは、その人の本質を否定することだ。それは、彼らの人生や経験、感情を全て無視することに他ならない。俺は、彼女を愛することで、彼女の全てを受け入れるべきだったと俺は深く後悔している。
一止、人を変えることはできないんだ。人はそれぞれに、自分の生き方がある。俺たちはそれを尊重しなければならない。彼女も、君も、お母さんも妹と弟も、そしてパピも、それぞれに個性があって、それが俺たちの家族を形作っているんだ。
しかし、人は人生という長い道のりの中で判断を間違ったり、価値観が変わったり、だれか大切な人を失ったりする。そうした中で人は変わることもある。でも、それは自分自身の内から来る変化でなければならない。他人から強制された変化ではなく、自分で選んだ変化だ。」

このボイスメッセージを通じて、自分自身の成長と変化と本質を理解し始めた。銀二は過去の過ちから学び、自分と他人の関係に対する新しい見方を開発していた。彼にとって、人を変えることは無意味であり、また必要もないことだった。大切なのは、互いの個性を尊重し、その上で互いを理解し支え合うことだった。


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