妊活記録3.体外受精(A病院移植一回目)~屈辱の導尿~

ケタミンショックで不妊治療の云々が吹っ飛んでいたが、移植できる卵を確保できたならば、不妊治療は次のステップに進むことになる。
胚移植だ。
初めての移植なので、期待半分、怖さ半分で毎日落ち着かない気分で何もてにつかず、ずっと不妊治療のことについて調べて、仕事中も成功パターンと失敗パターンのシミュレーションばかりしていた。

いまはっきりわかっている不妊原因は夫の高度乏精子症だし、自分に何も問題がなくてすんなり終わるパターンなら、おそらく胚盤胞ができるまでが最大難関ポイントで、卵の染色体異常さえなければ一度で着床して一旦は不妊治療は終了するだろう(そのあとも大変なことはわかっていたが、とにかく終えたかった)。

もしも難航するパターンだと、私の体や卵にもなにか体質的に不妊原因があって、しかも解決するものばかりではないというか、むしろ解決するもののほうが少ないようなので、そうすると奇跡的にうまくいくまで何度も採卵して、何度も絶望と喜びと落胆を交互に味わって、頭がおかしくなりそうな不妊治療の沼に沈んでいくことになる。

グーグルマップなどの不妊治療クリニックの口コミを見ていると、なぜか「人工授精で妊娠できました!ありがとう!」
「移植一回目で〇〇病院のおかげでうまくいきました♡」
というすんなりパターンのレビューばかり載っており、そんなに可能性が低いわけではないのではと思わされる。

自分もそちら側だといいなと心から思いはするが、どちらかというと、顔を出して感情のジェットコースターを包み隠さず打ち明けてくれている不妊治療中の方のYouTubeだとか、うまくいかなくて自分なりに試行錯誤しているアメブロの方々のほうが、リアル感があって本当だという感じがする。
なんとなくだけど、高度不妊治療って、そんなに甘いものではないんじゃないかな…というおぼろげな予感がする。

採卵後の診察で、次回からいよいよ移植周期が始まるという説明があった。
ただし、病院も年末年始はお休みなので、12月29日までに生理が始まらなければホルモン周期はできません、と言われた。
移植の母体の環境を整えるのに自然周期とホルモン周期の二つがあって、どちらがいいのかわかりようもなかったが、自然周期だと通院回数が増えるというので、私は一応ホルモン周期を希望しておいた。

いつ生理が来るか、と生まれて初めて生理開始が待ち遠しくてやきもきしたが、無事に採卵10日後に生理が始まった。
生理が来てほっとするなんて変だけど、採卵準備と採卵でおかしくなってたからだがもとに戻る感じがあったので、よかったと思った。だからリセットっていうのだな。腑に落ちた。
早いほうがいいらしいので、職場の倉庫からこそこそ病院に電話をして、必要な薬を用意してもらって取りに行くことになった。

病院に行き、動画やブログでおなじみの、久光製薬のエストラーナテープをすごい枚数で手渡された。
これを二日に一回張り替えて、4枚、4枚、5枚、5枚…と移植日まで、移植日後も、ずっと貼り続けるらしい。ふーんめんどくさ。
看護師さんが上から貼るテープがあるから、ドラッグストアとかで買ったほうがいいと教えてくれたので、さっそく買って帰った。

貼り方なんかを研究して、どうもお風呂前が忘れないでよいらしいし、場所を左右で交互に変えながら貼るから、剥がした後の皮膚を洗って保湿することができるということで、風呂前に貼りかえていくことにした。
緊張したけど貼るのはぺたってするだけだから難しくない。でもこれじゃすぐはがれそうだから、防水フィルムを貼らないとやっぱり取れる。

この日から移植の1月12日以降もしばらくエストラーナテープを貼っていたが、時々貼り方や保護テープの配置の仕方を間違えてかゆくはあったが、面倒ではあってもそんなにつらくはなかった。

問題は、1月5日から投与が始まったルテウム膣剤で、これは黄体ホルモン補充の薬だそうだ。
中の黄体ホルモンはほんのちょっとらしいのだが、周りの基材?がべたべたしたへんな脂なのがいけないらしく、これが入れた後数時間にわたって溶けて出てきて、周りの皮膚を汚す上にべたべたする。
なんならトイレットペーパーに血がついており、炎症を起こした上に皮膚が破れていた。
お食事中の人が読んだら申し訳ないのだが、溶けてお尻の部分のほうまでも流れて行っちゃうらしく、股の切れ目全部がべたべたしているうえに痛痒い。
最悪の使用感だった。
これを作ってる薬剤メーカーの人、自分で試したことないんだろうか。
それとも、この処方はこれが最高限界の使用感なんだろうか。

対策をネットで調べたところシンクロフィットなるナプキンの進化系?のブツが非常にいいとのことだったので使ったところ、素晴らしい商品だった。
簡単に説明すると、裂け目にフィットさせるタイプの小さい舟型のナプキンのようなもので、なにより優れていることに、トイレに流すことができる(と、説明されている)。
さっそく買ってきて使ってみたところ、黄色と白が混ざった脂がけっこう多めにしみ込んでおり、これが全部皮膚のところに出てたらかぶれもするよな…と思った。
シンクロフィットは不妊治療の成果で、いまも普通の生理時に使っています。すごくいいので、もし読んでいる方で気になったらぜひ。

移植周期はこれらの薬を使って、時には炎症に悩まされはしたが、おおむね順調に内膜も育ったようで、問題なく移植の日を迎えた。
当日までの数日はずっと気になって眠れないし、目覚めた直後も移植だ、と気づくぐらいにはずっと意識していた。

この病院から、移植時、エコーをかけるときに子宮を見やすくするために、トイレを我慢して尿ためをしてください、と指示をされていた。
尿ためが不十分だったら最悪中止になることもあるらしい。
それにビビった私は3時間ほど昼食後からトイレを我慢し、そしてやりすぎた。

病院近くの駐車場に到着し、この時点で予想以上に尿意が高まってしまい、膀胱がぱんぱんで歩くと痛いし漏れそうになる。ので、ヘンなアヒル歩きでちょこちょこ行くしかない。
え、これでエコーぐりぐりやるとか、膣に管を入れられるとかしたら絶対に漏れるんだけど病院はどうするのだろう…と思う。初めてなので、これが普通なのか普通でないのかよくわからない。
あきらかに様子がおかしいので、診察券を出して、その受付で呼ばれる頃には受付の人も察して、いつものかわいいパーマがかかったお姉さんが「ギリギリですか?」と聞いてくれ、「ギリギリです」というやりとりになった。

それでにわかに看護師さんがバタバタ対応してくれている音が聞こえ、「ギリギリ?」「ギリギリ!」みたいな感じで確認があった後(いつもなら笑えるんだけど、人間の尊厳の部分なのでそんな余裕はない)、急ぎ呼ばれて奥のベッドがある個室へ。
こんな部屋もあったんだ。案内されながら「尿道カテーテル入れますね」と言われて聞いてないんだけどー!と思う。
痛いか聞いたらちょっとは痛いとのこと。げーー…
他人に尿を取られるだけでも屈辱だというのに。

そこで手術着に着替えて横になり、いざ導尿開始。
カテーテルが入った時は激痛が走り、耐え難い部類の痛みではあったが、一瞬だったので「ウッ…!」とか言ってたら痛みを通り越してた。
麻酔がかかってきたらしい。
これで膀胱内の尿をちょうどいいぐらいに調整してくれるらしく、不必要な屈辱を受けたことにショックはあったが、漏らすよりはましだ、と自分に言い聞かせる。

しばらく尿を取られたら、だいぶ膀胱も楽になっていて、こみあげる過激な尿意が消えている。いつもだったら無視しているぐらいの尿意だ。
え、ためるってこんなもんでよかったの?早く言ってよ。
これなら午後丸々じゃなくて、せいぜいトイレに行って13時半から、なんなら14時とかからでも飲んでたらいけそう。

この日のハイライトは尿が取られたことではなく、移植本番なのだった。
移植自体は悪夢の手術台がトラウマで怖かっただけで、移植自体は痛くもなく一瞬で終わった。
消毒はちょっと痛かったし不快感はあった。再びウッ!となった。
しかし、痛かったらうめいた方がちょっとまぎれるものだな、と考えているうちに終わっていた。

大股開きで固定されて、脚が寒いなあと思いながら待って、始まって、カテーテルが入ってる感覚とちょっとした違和感があって、看護師さんが下腹をエコーでぐりぐりぐりぐり押してきて、やっぱり安心ではない。
これ以上の痛みが来ないうちに早く終わってくれ~~と思っていたら、「はい終わりですよー」と看護師さんに言われて、終了。

先生が遠ざかっていく気配がするので、ルテウムがかゆいので変えてほしいんですと訴えたのだが、見てはくれたものの、これはかぶれてないわね、そんな上までいかないし。かぶれのクリーム出しておくね、かえるよりはそっちのほうがいいでしょ、あんまりごしごしこすらないでね、で終わってしまった。
まあ膣剤から変更したことでで黄体ホルモン補充ができなくなっちゃっても困るか…。
追加のエストラーナテープ、ルテウムの処方があり、判定日を伝えられ、私の初めての移植はひとまず終わった。

ひと段落したものの、ずっと落ち着かない気分だった。
あまり期待もできず、ここから先の展望もよく見えない。
それでも一筋うまくいくんじゃないの、と希望がちらちらするのが始末が悪い。期待して、駄目だった場合、さぞつらいだろう。
だから期待したくないが、勝手にしてしまう。
体感としては、ここまでやったものの、あまりできる実感がないというか、こんなんでうまくいくかなあ、と思ってしまう。
これでもだめだとどうしたらいいんだろう、転院、いや転院すると仕事の両立ができない…という考えが出ては消え出ては消えしている。

いつもと違うような気がする症状に一喜一憂する落ち着かない日々を過ごし、判定日前日。
フライング検査をやってみた。死ぬほど見るのが怖かったが、病院で一人で残酷な結果を言われるぐらいなら、二人でいるときに確かめてみてあらかじめうすうすわかっていたほうがいいだろう、と思った。
結果は真っ白、全くの何も見えないド陰性だった。
やっぱりね、そんなうまくいくわけないよねと思ったが、移植から毎日なにかしらの諸症状がけっこう自分にもわかるぐらいにあっただけに落胆が大きい。
そのあと何回も見に行ったが、筋すら出ている感じがない。
これ、だめなやつだ。

改めて、1月22日の判定日に病院へ。
緊張と結果見たくなさのあまり吐きそうになりながら待つ。
まあもう、体の中で結果は出ているのだから…が自分への精一杯の慰めで、ダメだろうなとは思っているんだけど、つい期待もしてしまう。

待っているうちに、この暗澹たる空間とはいえここは医療を良心的に進めてる場所なんだから、よくてもだめでも看護師が結果をごまかすわけじゃなし、まあなんでも結果を受け入れようという気持ちに変わってくる。

なので、16時半過ぎになっておばちゃん看護士に呼ばれて
「あのね、ホルモン、出てなかったのよ…」と言われて、
わりとすんなりと
「ああ、そうなんですか…」と淡々と聞くことができた。
昨日フライングしておいて、やはりよかったと思った。
ここでいけると思ってしまって急にショックを受けるとつらい。
病院の採血ならもしかして、なんてちょっと思ったりもしたが、やっぱり陰性は陰性以外の何物でもなかった。

次回以降の説明が始まり、もし連続でやるなら、生理が来たら二日目に電話してくださいと言われた。
でも、お休みしたければ連絡しないでお休みしてもいいんですよと言ってもらえた。
ありがたいけど、落胆している人に甘い言葉をささやくと、休んでもいいのかな、なんて誘惑になってしまう。
たぶんだけど、一回やめると再開するのは非常にハードルが高くなるだろう。
まあ…もう帰るしかない。転院、どうしよう。長期戦になるのかもしれないなぁ。
帰って呆然と長風呂したけど、情報ばかり頭の中でぐるぐるまわって形にならない。ていうか胚盤胞が着床しないなんてことあるの?
➡あるらしい。見た目はよくても染色体異常があることも、着床する能力がないこともあるらしい。
あとは私の子宮内膜の問題もある。免疫が攻撃した可能性もある。卵に悪い雑菌がいることもある。らしい

思考が形にならないままネットで情報を漁りまくり、私は転院を視野に自宅と職場から通える範囲で行ける名医っぽい病院について猛然と調べ始めた。
2回目でうまくいけばいいが、いやこれは長引くやつでしょう…という予感がした。

自分の経験と、調べたばかりの確かかどうかわからない情報と、定まらない気持ちのなかでひたすらぐるぐると考えた。

移植は今のところであと一回できるけど、後がない状況でやるのもそんなにいい結果は出ないものじゃないかな…
うまくいくか/いかないか というよりかは、いやそれもあるけど、どちらかというと転院するか/しないかとか、もう一回死後の世界に行く麻酔に耐えるか/耐えないか、ほかの病院だと局所麻酔かもしれないけど、痛みに耐えるか/耐えないかという話になってきてしまう。

ああ、そういえば生理が来るまでに、ホルモン周期か/自然周期かというのも考えておかなくては。
悩みが多くてつらい…。もしかして妊娠できない体なのかな、という不安と恐怖もやっぱり少しはある。
結果を知っている人から見れば、未来の私から見れば、そんなに悩まなくてもいいんじゃないと思うかもしれないし、実際他人には私もそう思うけど、この悩みはきっと誰にもわからないんだろう。

移植2回目につづく


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