短編小説を読む⑨川上弘美『蛇を踏む』蛇を踏んだら逃れられないのである!
カバンにさっと入る厚さの文庫本が好きで、気ままに集めていました。目安は大体200ページくらい。
年をとり、目が悪くなって小さな文字が読めなくなる前に、持っている本を読み切りたい!そんな思いから、少しずつ、文庫本を読んでいます。
今回読んだのは183ページの本。三編の短編小説が収められています。
『蛇を踏む』
川上弘美
文春文庫
ある日ミドリ公園に行く途中の藪を歩いていたサナダさんは蛇を踏みます。
サナダさんに踏まれた蛇が喋りだし、煙のようなものがたちこめて人間になるというとんでもない事態なのに、蛇が踏まれると人間になるのは昔から決まっている、とでもいうようにサナダさんは女を見送り、通常どおり出勤します。
そして家へ帰ると、人間の姿をした蛇女はご飯を用意しており、「私はヒワ子ちゃんのお母さんよ」といいます。ここではじめて読者は彼女がヒワ子という名前だと知るのです。蛇は自分を踏んだ相手のことを全て知っているのです。
蛇を踏む、ということは蛇と血のつながりを持つような、契りを交わすような、深い関係になることなのでしょうか。蛇は50過ぎくらいの女なので、50過ぎの男に踏まれたら妻だというでしょう。蛇はそう思い込んでしまうのです。恐ろしい…
とにかく変な世界なのにヒワ子も、蛇に取り憑かれたようになってしまう勤務先の数珠屋の奥さんのニシ子さんも普通に社会生活を送っているのです。
川上弘美の作品の面白いところは、気持ちの悪いような不思議なようなことがぬるりと日常に入ってくる、それを平易な言葉で淡々と書き、そんなことは昔からあったことだというように、その世界を当たり前に私も受け止めて、いつも気持ちがよくなるのです。
ヒワ子は、蛇が化けた女と首を絞めあいながら部屋ごと流されていきます。女はどうしても、ヒワ子を蛇の世界に連れていきたいのです。
「踏まれたらおしまい」というのは、自分もおしまいだけど踏んでしまったヒワ子もおしまいだという意味でしょう。
藪を歩くときは蛇を踏まないよう気をつけようと思いました。
ここまで
お読みくださりありがとうございます🍑
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