家具付きの家借りてきた新緑を見にいこう 2022ver

携帯を失くしていないのに、携帯を失くしていたらどうしようという思いから、携帯が見当たらない。ピアノが弾けたらとてもいいだろうなと思う。

緑を見に行こう君とデート
(家具付きの家借りてきた新緑を見にいこう)

遠くに見える緑、電車の窓から空気がもやついている。あそこに行きたい。電車の中は息が苦しい。曇っていると安心していたら、目の前の白い壁にとても明るい光が射していて、はっとした。今日は晴れているのか。電車はまだまだ止まらない。私は終点近くまで乗らないと、家に帰れない。その間は、ただ座ってさえいればいい。あそこに行きたいな、と一瞬思いついては、通り過ぎてしまい、一度地下に入ってまた地上へ出たら、思ってたのと同じように雲っていた。私は緑ばかり、いつも目で追っている。
自分の作ったうたは、誰にもうたとして認められていないかもしれない。

イヤホンが片方、充電が切れて、左耳からだけ小さい音量が流れている。いろんなピアノの曲を、今日は聞いている。アナウンスもよく聞こえる。音楽よりもよく聞こえる。しかし左耳だけはずっとなにかしらのピアノがシャカシャカと鳴りつづけている。消えてはいないけれど、存在が周りに馴染みすぎて、ほとんど目立たない。つよめの雨、なんだか気持ちわるくなってきた。とんでもなく曇っている。電車を降りたらどうやって帰ろう、傘もない、時間もない。

空はコピー用紙みたいに真っ白。盛り上がっているピアノ。遅刻をしてもしなくても、お金があってもなくても、全部どうでもいいような、濡れてる、湿ってる、コンクリート。校舎の四隅は黒ずんでいて、重苦しくそびえ立っている。真っ白とグレーと、クスノキの新芽のあかるい緑が、世界を美しくしている。あき地はやがて、お花畑になる。芝生の湿った公園には誰もたち入らない。カキの木のツヤツヤした新しい葉に触りたくて、あちらこちら探しまわってみるけれど、車窓からならすぐ見つけられるのに、私の歩ける範囲にはなかなか、なにも触れない。

大雨、こころもとない屋根の、駅のベンチで雨宿りをする人たち。あっというまにやんで、不安だけを残した。世界は緑のために。こんな美しい緑をもてあましている。緑はとどまることを知らない。

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