イヤイヤ虫、さようなら!
子育て支援拠点での発達相談の時、イヤイヤ期の対応について助言することがあります。
僕も3人の子どもを育てる中で、イヤイヤ期の子どもたちの洗礼を受けたこともあります。ただ、割と上手にその時期を乗り切ったのではないかと思います。
割と上手に乗り切ったとは言え、子どもが「イヤイヤ」な状態になり、それを宥めるのに、精神的に辛かったです。いつもは可愛い我が子と思っているのに、この時ばかりは、
「そんな事で怒り出すの?」
「ここではやめてくれ!!」とひたすら焦り出すことや
「こいつは悪魔の申し子か!」と思うことや
「あ〜、ここに置いて逃げたい。」と何度思ったことか。
もちろん、そんなことはしていませんが。
普段、いろいろな子どもたちと接して、保育者や保護者に助言をしている僕でさえ、上記のような悪魔の囁きに似た思いが湧き出てきます。
本当に大変です。「イヤイヤ期」がなければ、子どもはもっと可愛いのに!
そうは言っても、子どもに取って、「イヤイヤ期」は自我が発達してくる大切な時期です。そして自己主張をすることで、親との心理的一体感からの分離の練習をしている時期でもあります。
成長することは嬉しいが、でもそんなに反抗心なくてもいいのにと思ってしまう時期でもあります。
さて、イヤイヤ期を乗り切るために、時間的余裕と精神的余裕があり、あらかじめ対応策を用意していればなんとか乗り越えられると思います。そうは言っても、時間的余裕や、精神的余裕がない時は、自分の子どもでも瞬間的に嫌いになってしまいます。
敵もさるもの。この時間的余裕がないとき、精神的余裕がない時をわざと狙って「イヤイヤ」を始めるのではないかと、疑う時があります。
発達の専門家と言っても、家では普通のお父さんになってしまいます。玄関に入った瞬間に職業上の仮面が外れてしまいます。そうなると、家族の前ではなかなか職業上の仮面を被ることはできません。家では、素の自分が出てしまいます。
子どもの「イヤイヤ」に対して、当時は比較的上手に対応できたと自分では思っていましたが、今振り返ってみると、上手な対応ができているとは言えないかもしれません。詳しくは子どもたちに聞くしかありませんが、残念ながら、子どもたちは当時のことを覚えていないようです。
さて、イヤイヤ期の子どもの「イヤイヤ」への対応策ですが、基本的に子どもに予告をしておくようにしています。
例えば、一緒にスーパーマーケットに行く時、お店に入る前に
「今日はお野菜を買いにきました。おやつは買いません。それでいいですか?」
「うん」
「お店の中は、転んで怪我をすると痛いので、歩きます。いいですか?」
「うん」
というようなやり取りをしてからお店に入ります。ときどき子どもがどうしてもお菓子が欲しい、アイスが欲しいと言われた時には、
「今日は、〜して頑張ったから特別だよ。」
「今日は暑いから特別だよ。お母さんには内緒だよ。いい?」
「うん。」
(家に帰ると、「お母さん、アイス美味しかった。」なんてこともありました。)
おかげでお店の中で子どもが寝転んで駄々をこねるようなこともなく、お買い物をすることができました。
子どもお機嫌が悪い時や、眠たい時、親が急いでいる時などに、「イヤイヤ」がやってきます。そして、「イヤイヤ」にお互いふりまわされて疲れ果ててしまうことが多いと思います。そんな時にもってこいの方法があります。
NHK教育の「すくすく子育て」を見ているときに、大日向雅美先生(発達心理学の有名な先生です)のお子さんがイヤイヤ期の時のエピソードを話していました。
ある日ベランダで一緒にあそんでいると、だんだんと機嫌が悪くなり、とうとう「イヤイヤ」と言い始めたそうです。さすがの大日向先生もただのお母さんに戻ってしまい、どうしていいのか困ってしまったそうです。お互いに引っ込みがつかなくなって、疲れてしまい、どうしたものかと悩んでいたそうです。そんな時に思いついたのが、「イヤイヤ虫」です。
「イヤイヤ虫さん、ぴっ。」と言って、お子さんから「イヤイヤ虫」を取る仕草をしていたそうです。3匹取る真似をして、「イヤイヤ虫さんを取ってあげたよ。」と言ったところ、お子さんの機嫌が持ち直し、なんとか話を聞いてくれるようになったそうです。
それから、お子さんがイヤイヤを言い出したら「イヤイヤ虫さん、ぴ!さようなら」とするようになったと語っておられました。
なるほどと思い、自分の子たちにも同じことをするようになりました。
子どもが「イヤイヤ」と駄々をこね始めたら、
「〇〇ちゃんには、イヤイヤ虫がいるね。このイヤイヤ虫をとってあげるね。」
そう言いながら、子どもの服をちょっとつまんで、
「イヤイヤ虫、ピッ。イヤイヤ虫、ピッ。イヤイヤ虫、ピッ。イヤイヤ虫いなくなったよ。」
と穏やかに言います。楽しそうに。ここで話を聞いてくれるぐらい落ち着いていたら、ゆっくりとお話をして行きます。まだ機嫌が治っていない場合はもう何回かイヤイヤ虫をとってあげます。
こんな具合に子どもを落ち着かせて行きます。
この方法は、子どもがイヤイヤをしているのではなく、「イヤイヤ虫」がイヤイヤをさせているんだよね、と子どもにメッセージを伝えることができます。子どもを悪者にしない方法になります。そして親も腹を立てないで対応することができます。
保育所や幼稚園でも使うことがあります。特に幼稚園のこだわりがつよく、癇癪を起こすとなかなか気持ちが戻らないお子さんに対しても行ったことがあります。
流石に敵もさること、3匹取っただけではダメでした。5匹目を取ってようやく話を聞いてくれるようになりました。
この方法で、大体の「イヤイヤ虫」は退治できます。
「イヤイヤ虫」の他に、「泣き虫」「怒り虫」などがいます。これらの虫さんたちには悪いのですが、随分と活躍してもらっています。
子どもを悪者にしないで、虫さんのせいにして落ち着かせることができるので、安心して使うことができます。また、服をピッとひっぱるので、なんとなく身体から出ていくイメージや身体感覚として伝わるようです。
年齢的にも、現実とファンタジーの世界が曖昧な年齢なので、言葉で説明したり宥めたりするよりも良い方法ではないかと思っています。
多分、本当のことではないのだけれども、つまり想像上の虫だと子どもはわかっていても、それがあたかも本当のことのように感じることができるのだと思います。アンパンマンやバイキンマンがいると思っているのと同じように。
発達心理学的な視点で考えると、見立て遊びとごっこ遊びの芽生えがそこに見ることができます。
『見立て遊び』とは、例えば『おままごと』や、お砂場で砂で作ったものがケーキやクッキーとして遊ぶことです。
『ごっこ遊び』とは、見立て遊びをしながら、他者とそのイメージを共有して遊ぶことです。親子でおままごと遊びをすることや、お砂場で、お砂で一緒にケーキを作ることなど、こうした遊びを他者とその遊びの世界を同じイメージを持ちながら遊ぶことになります。
こうした心の働きは、鬼ごっこやかくれんぼ、ドッジボールやサッカーなど、ルールのある遊びへと進化していきます。
イメージの共有は、ルールの共有という能力の前段階に当たると見て取ることができます。
話を元に戻すと、「イヤイヤ期」には「イヤイヤ虫」が役に立つこともありますから、一度お子さんのイヤイヤ虫をとってみてはいかがでしょうか。
ただ、くれぐれも大人にはしないでくださいね。小馬鹿にされていると思い、かえって『怒り虫』が大量に発生することもあり、大変危険な成虫に変身することもありますので。
気をつけてくださいね。
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