令和5年度司法試験答案例速報(商法)

こんばんは。

今日は、7法最後の、商法の参考答案をアップしていきます。
ゆっくりとみて行ってくださいね。



第1 設問1について

 1 小問1について

 Gは、Aに対し、会社法(以下法名省略。)423条1項の損害賠償請求を、代表訴訟にて適法に提起している(847条3項)が、これが認められるか。

(1)まず、Aは、甲社の代表「取締役」に当たる。

(2)では、「任務を怠った」といえるか。

ア まず、本件では、Aは、甲社を代表して、Eから5000万円で本件土地を買い取っており、これが間接取引(356条1項3号)に当たらないか。

(ア)この点につき、Aは、間接取引に当たらない旨反論する。

そもそも、間接取引は、会社と第三者間の取引であるため、取引安全の保護の要請が高い。そこで、「取引」の当たるかどうかは、外形的・客観的に会社と取締役との間で利益が相反するかどうかを判断して決すべきと解する。

本件では、かかる取引において、本件土地の所有権移転登記手続きを受けるのと引き換えに、代金5000万円を支払っているところ、かかる5000万円は、Aの預金ではなく、甲社の本件定期預金を取り崩すことで行われている。

そのため、かかる態様は、外形的・客観的に、Aに利益となる一方、会社の財産の漏出が生じているため、会社に不利益であり、利益が相反する。

したがって、「会社」が「取締役以外の者」Eと「取締役」Aとの「利益が相反する取引」といえ、間接取引に当たる。

(イ)Aは、株式を有しているのは自分1人であり、取締役会決議は不要と反論する。

確かに、取締役会設置会社では、間接取引を行うにあたって、取締役会を開催し、重要事項の説明をしなければならない(356条1項、365条1項)が、これを行っていない。そのため、423条3項1号の通り、「任務を怠った」とも思える。

 しかし、取締役会を要求するとした趣旨は、利益相反取引が、会社に損害を与え、ひいては株主にも損害を与えるおそれがあることから、重要事項を説明させたうえで取引を慎重に行うことで、かかる利益を守るということにある。しかし、実質的な一人会社の場合、その利害得失は、単独株主である取締役の1人の利害得失であることから、そもそもその間に利益相反はなく、上記趣旨は妥当しないため、取締役会決議は不要と解する。

 本件では、Aは代表取締役であり、B、C、Dは取締役であったが、甲社の発行済株式6万株は、すべてAが保有しており、甲社の利害得失は、結局、Aの利害得失と一致する。そのため、取締役会決議は不要である。

イ したがって、「任務を怠った」とはいえない。

(3)以上より、上記請求は認められない。

2 小問2について

乙社は、429条1項に基づく損害賠償請求を、「役員等」であるAに対し適法に提起しているが、かかる請求が認められるか。

(1)429条1項の性質をいかに解すべきか。

この点、同項は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることから、第三者保護の立場から取締役に課された法定責任である。

 そこで、「悪意又は重大な過失」は、任務懈怠について存すれば足り、「損害」には、広く直接損害と間接損害を含むと解する。

(2)これを本件についてみる。

  ア まず、任務懈怠があるか。

 本件では、乙社に対し、3000万円の債務を負っているところ、その後、Eとの取引を行ったことが、善管注意義務(350条・民法644条)に違反し、任務懈怠といえないか。

(ア)そもそも、経営には、一定のリスクを伴うのが通常であり、裁判所の積極的な介入は、取締役の判断を委縮させ、会社の発展を阻害するおそれがある。そこで、善管注意義務に違反したかどうかは、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見・経験を基準として、当該決定の過程・内容に著しく不合理な点が認められるか否かによって判断すべきであると解する。

 もっとも、取締役が自ら法令違反行為や利益相反行為を行っている場合、このような行為を行う裁量はないため、同規律は適用されないと解する。

(イ)これを本件についてみると、確かに、甲社は、平成29年春頃の時点では、運転資金が枯渇するような状況にはなく、本件債務の発生当時、本件債務を含む甲社の債務の履行のための運転資金が枯渇した場合には、本件定期預金を取り崩すか担保に入れることにより対応することを予定していたため、かかる取引についての判断過程・内容に著しい不合理はなかったとも思える。

 もっとも、平成27年頃から、営業利益は減少し始めていたことから、会社の経理状況は十分に気を遣うべきであった。そして、Eから、本件土地を購入することになったのは、単に私的な紛争が原因であり、単に自分で工面できないために、甲社の預金から5000万円もの大金を取り崩すことを決めたのである。かかる判断は、私的な紛争に会社を巻き込み、その金銭的基礎を揺らがせる行為である。したがって、このような行為を行う裁量はないといえ、上記行為は善管注意義務に違反するといえる。

(ウ)したがって、任務懈怠がある。

イ かかる任務懈怠について、私的な紛争に会社を巻き込み、会社をもっぱら利益のために利用する行為といえ、重過失も認められる。

ウ そして、甲社がかかる預金を取り崩したことで、損害を被り、乙社に対する債務を返済できていないため、乙社に対し、かかる任務懈怠に「よって」間接「損害」が生じている。

(3)以上より、乙社の上記請求は認められる。

第2 設問2について

 1 小問1について

 Iは、831条1項に基づき、株主総会決議取消の訴えを提起しているが、これが認められるか。

(1)Iは、本件では、AをHとともに相続し、株式4万株を準共有している。そこで、Iは、「株主等」に当たり、原告適格が認められるか。

  ア この点、株式を準共有している場合、106条により、株主の権利を行使する者1人を定めて会社に通知し、この権利行使者において株主権を行使しなければならないため、かかる通知をしていない者は、「株主等」に当たらないのが原則である。


 もっとも、同条の趣旨は、権利行使者のみを株主として権利行使できるとして、各共有者の個別的な議決権行使による混乱を回避するという会社の事務処理上の便宜を図ることにある。

  そこで、同条による手続きの欠缺を理由に原告適格を争う一方で、本案において決議の有効な成立を主張するなど、同条の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるような特段の事情が認められる場合には、防御権の濫用に当たり、例外的に「株主等」として原告適格が認められると解する。

  イ これを本件についてみると、上記のように、HとIが株式4万株を準共有しているところ、Iは権利行使者の通知をしていないため、原則として「株主等」に当たらない。しかし、かかる株式は、全部ではないものの、4万株分の議決権が行使されなければ、本件決議1は成り立たないため、かかる場合において、原告適格を争うとするのは、上記の矛盾した恣意的な主張となる。そのため、上記特段の事情が認められる。

   ウ したがって、Iは「株主等」に当たり、原告適格も認められる。

 (2)次に、Iに訴えの利益が認められるか。

 ア この点、役員選任決議の取消の訴えの係属中に、その決議に基づいて選任された取締役ら役員全員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取り消しを求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなった場合、特段の事情のない限り、訴えの利益は否定されると解する。

 イ これを本件についてみると、本件決議1では、B、H、Jが新たに取締役として選任され、かかる取消訴訟係属中に、本件決議2によって、再度、B、H、Jが選任されている。

 したがって、上記のように、再度の決議によって取消を求める決議により選任された取締役がもはや現存しなくなったといえない。

 ウ したがって、訴えの利益は認められる。

 (3)では、上記訴えは認められるか。

   ア 本件では、Hが準共有株式を、Bの同意を得て行使している。

 そもそも、106条本文は、共有規定の「特別の定め」(民法264条但書)である。そして、106条但書は、会社が同意をした場合に、特別規定である同条本文の適用が排除されるものとすることを定めたものと考えられるから、会社が同意した場合は、民法の規定が適用される。そこで、かかる場合、議決権行使は、管理行為として持分の過半数で決すべきものと解する(民法252条本文)。

  Hは、Iも持分を2分の1有しているのにも関わらず、これを全部行使しており、106条、民法252条本文に反する。

 したがって、「株主総会等の・・・決議の方法が法令・・・に違反し」(831条1項1号)ているといえる。

   イ そして、かかる違反によって、Iは議決権行使できなくなっており、「違反する事実が重大でな」いとはいえない(同条2項)。

   ウ したがって、上記訴えは認められる。

 2 小問2について

  Iは、「株主等」に当たり、原告適格が認められるか。

(1)本件では、本件決議1によって、B、C、Dが再任され、取消訴訟を提起したところ、本件決議2でB、H、Kが選任されている。そのため、本件決議2がされたことによって、本件決議1の取消の訴えの利益は失われるのではないか。

  ア この点、上記と同様の基準で判断する。

  イ 本件についてみると、C、Dはすでに退任しており、訴えの利益は消滅しているとも思える。もっとも、本件決議1で選任されたBは残存しており、Bが甲社を代表して、Hの議決権行使に同意しなければ、上記取消事由は存在しなかったのであるから、なお取消をすべき実益がある。

(2)以上より、訴えの利益は存する。

以上

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