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令和5年司法試験答案例速報(刑法)

暑い日々が続きますね。

司法試験を受験された方々、本当にお疲れさまでした。
まずはこの自由時間、せっかくですから、堪能してください。

友人と遊ぶもよし、趣味に没頭するもよしです。
合格発表まで素直に楽しめないかもしれませんが、ここまで全力で頑張ってきたあなたならきっと大丈夫です。


さて、今日は、刑法の参考答案をアップしておきます。
こちらも参考程度で閲覧ください。

なかなか難しかったなあと感じました。

第1 設問1について

 1 小問(1)について

 甲に詐欺未遂罪(刑法(以下、法名省略)250条、246条1項)が成立するとする立場からは、以下のように説明することが考えられる。

(1)ア まず、「欺」く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事実を偽る行為をいう。そして、実行行為は、構成要件的結果発生の危険性を有する行為をいい、かかる実行行為性の判断においては、行為者の計画等も考慮できると解する。また、かかる実行行為があった時点で、実行の着手が認められると解する。

イ これを本件についてみると、詐欺罪は、その手段として、人を欺いて交付を求める文言を述べるという手段・態様を限定した犯罪類型であるため、その実行行為たる「欺」く行為が認められるためには、交付要求文言が含まれている必要があるとも思える。しかし、かかる文言が必要と解すると、その交付要求行為が欺罔行為で、その時点に着手が認められるところ、行為態様が限定されている犯罪でも、このような法益侵害の現実的危険性が早期に認められ得る段階で着手を認めるべき類型がある場合もあり得、行為態様が限定されていない犯罪類型では、このような着手の前倒しが認められないとすれば、行為態様が限定されている犯罪でも同様に解しないと一貫しないため、妥当でない。

そのため、実行行為性及びその着手が認められるためには、必ずしも交付要求文言は要しない。

このような前提で考えた場合、基本的には、交付要求がなされるのは、A宅を訪問したときであると考えられるが、某月2日正午、甲がAに電話をし、「これから警察官がそちらへ向かいます」と述べたことは、あらかじめ現金をA宅に移動させた上で、後にA宅を訪問して警察官を装って現金の交付を求める予定であった甲に対し、現金を交付させる計画の一環として行われたものといえ、その内容は、Aの交付の判断の基礎となる重要な事項であったし、かかる文言は、Aに現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれていたといえる。

ウ したがって、かかる電話の時点で、「欺」く行為及びその着手があったといえる。

(2)次に、かかる行為によってAは錯誤に陥っているが、結局、Aから現金をだまし取ることはできていないため、交付しておらず、未遂にとどまる。

2 小問(2)について

(1)(1)の説明に基づくと、➄の時点で実行の着手を認めることになりそうである。

(2)もっとも、本件では、連続的に、計画の一環としてAに電話がなされていることから、より早期に、実行の着手を認めることができないか。

ア この点、上記より、実行行為の判断に当たっては、行為者の計画等も考慮できる。

イ 本件についてみると、上記欺罔行為に至るまでに、2回の電話を行っている。1回目の電話は、某月1日午前10時に行われており、その内容としては、単に警察官を装って周辺地域を担当することになったことを告げるのみであり、本件欺罔行為と密接な関わりがあるとまではいえない。

  他方、2回目の電話は、某月2日午前10時に掛けられており、欺罔行為と時間的に接着しているし、内容として、警察官の指示の下、現金を引き出させ、自宅に移動して保管させるというものであり、これを行うことで、後の欺罔行為を行いやすくなるため、必要不可欠な工程としての電話であったといえる。そして、警察官を装ってかかる電話を受ければ、特段の障害なく後の欺罔行為を行うことができる。

  したがって、2回目の電話は、上記欺罔行為と密接で、客観的な危険性を有するため、この時点で、着手が認められる。

ウ 以上より、➂の時点で、実行の着手が認められる。

第2 設問2について

 1 乙・丙の罪責について

(1)乙・丙が、Bを縛り上げて300万円を奪った行為に、Bに対する強盗致傷罪(240条前段)の共同正犯(60条)が成立しないか。

ア まず、「強盗」に当たるか。236条1項の要件を検討する。

(ア)まず、「暴行」とは、財物奪取に向けられた、相手方の反抗を抑圧するに足る程度の不法な有形力の行使をいう。

本件では、Bの手足をロープで縛っており、かかる行為をすれば、一般に被害者は抵抗ができなくなるし、口を粘着テープでふさいでしまえば、被害者は助けを呼べなくなることから、これらの行為は、Bの犯行を抑圧するに足る程度の不法な有形力の行使といえ、これらは財物奪取に向けられている。そのため、「暴行」に当たる。

(イ)次に、300万円という「他人」B「の財物」を、「強取」している。

(ウ)また、乙・丙は、かかる行為を行っていることは認識・認容しているため故意(38条1項)もあり、不法領得の意思も認められる。

(エ)したがって、乙・丙にそれぞれBに対する強盗罪が成立する。また、乙・丙は、「ジジイを・・・縛って、金を奪ってしまおうぜ」と共謀し、共同して上記行為を実行しているため、共同正犯となる。そのため、乙・丙は「強盗」に当たる。

イ では、「人」Bを「負傷させた」といえるか。

(ア)本件では、Bが負傷したのは、CがBのロープをほどいて自ら立ち上がろうとした際にしびれて転倒して頭を打ち付けたためであり、因果関係がないのではないか。

 この点、因果関係の存否は、条件関係の存在及び行為の危険性の現実化の有無で判断するところ、乙・丙が縛らなければかかるしびれは生じないのであり、条件関係は認められる。また、Bの立ち上がり行為が介在しているが、そもそものしびれの原因は、乙・丙による上記行為にあり、しびれがあるのであれば、転倒のおそれも当然にあり、これによる危険が現実化したといえる。

 そのため、因果関係は認められる。

(イ)そして、実際にBは転倒して、前置2週間を要する頭部打撲の傷害を負っている。

(ウ)よって、「負傷させた」といえる。

(2)以上より、乙・丙の上記行為には、Bに対する強盗致傷罪が成立し、かかる罪責を負う。

2 甲の罪責について

(1)甲が、Bに対し、「これから警察官がそちらへ向かいます」と述べた行為には、Bに対する詐欺罪の実行の着手があり、後述のように、乙・丙が財物を強取したことから、交付行為がなく、300万円の取得について、欺罔行為によって得られたとは言えないため、Bに対する詐欺未遂罪(250条・246条1項)が成立する。

(2)では、甲が、乙・丙に対し、Bから300万円をだましとってくるように指示した行為に、強盗致傷罪の共謀共同正犯(240条前段、60条)が成立しないか。

ア そもそも、共同正犯において一部実行全部責任の原則が認められる根拠は、相互に他人の行為を利用・補充し合って犯罪を実現した点にある。そこで、➀共謀、➁共謀者の一部による共謀に基づく実行行為が存在し、➂正犯意思があれば、実行行為の分担がなくとも共同正犯が成立すると解する。

イ これを本件についてみると、甲は乙・丙に対し、高齢一人暮らしの男性Bがうそを信用し、300万円を自宅に用意している旨を告げ、計画通り、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言って、300万円をだまし取ってくるように指示しており、乙・丙はこれを了承している。そのため、Bに対する詐欺罪に関する➀共謀はあるものの、Bに対する強盗の共謀は存しない。

  また、乙・丙は、途中まではかかる共謀の下に動いていたが、道中で、乙が、Bを縛り上げてしまえば、より確実に現金を手に入れることができると考え、丙と、Bを縛って300万円を奪う別の共謀をしている。乙・丙は、Bの口をふさぎ、手足を縛って300万円を強取したのであるから、これは、当初の共謀と因果関係のある行為ではなく、乙・丙の独自の意思決定、共謀により行った行為であるから、➁上記共謀に基づく実行行為とはいえない。

ウ したがって、甲の上記行為には、Bに対する強盗致傷罪の共同正犯は成立しない。

(3)以上より、甲の上記行為には、Bに対する詐欺未遂罪が成立し、甲はかかる罪責を負う。

第3 設問3について

事実6について、丁に業務妨害罪(233条)の成立を否定しつつ、事実7について、丁に警察官5名に対する業務妨害罪の成立を肯定する立場からは、以下のような説明が考えられる。

1 そもそも、公務も原則として業務としての保護に値するが、強制力の行使を内容とする公務は、暴行・強迫に至らない手段による妨害行為を排除する権能が認められているため、業務妨害罪による別途の保護を与える必要はない。そこで、業務妨害罪にいう業務には、非権力的公務が含まれるが、強制力を伴う権力的公務は含まれず、公務執行妨害罪(95条1項)の「公務」には、広く公務一般を含むが、強制力の行使を内容とする公務を妨害する行為については、業務妨害罪は成立しないと解する。

  もっとも、偽計による妨害は、強制力によって排除することはできないため、非権力的公務のみならず、強制力を行使する権力的公務も偽計による妨害から保護する必要がある。そこで、偽計が用いられた場合には、233条の「業務」には、すべての公務が含まれると解する。

2 これを本件についてみる。

(1)まず、事実6の丁の行為につき、警察官は、強制力を伴う権力的公務であるため、基本的に、公務執行妨害罪の対象となる。そこで、同罪が成立するか検討するに、警察官Dは「公務員」に当たり、逮捕状に基づく逮捕行為という適法な「職務」行為(刑事訴訟法199条)を「執行するに当たり」、丁は、怒号しながら両手を広げて立ちはだかっているものの、これは、「暴行」には該当しない。そのため、公務執行妨害罪は成立しない。また、権力的公務であり、業務妨害罪における「業務」にも当たらず、業務妨害罪も成立しない。

(2)次に、事実7の丁の行為につき、同様に、公務執行妨害罪を検討するに、こちらについても、「暴行」「脅迫」に当たらない。

他方、本件は、Y署に対し、「Y署近くの路上で、通り魔に刺されました。すぐに来てください」という嘘を言っており、これは警察官らを欺罔する「偽計」に当たる。このような場合、権力的公務であっても、業務妨害罪における「業務」に該当する。

かかる嘘により、更なる通り魔事件発生への警戒等を行わざるを得なくなることで、乙を追跡できないことになる危険性が惹起されており、「妨害した」といえる。

そして、故意も認められる。

したがって、丁の上記行為には、警察官5名に対する業務妨害罪が成立する。

以上

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