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令和5年度司法試験答案例速報(民訴法)

今日もお疲れ様でした。

本日は、民訴法の答案例をアップします。
とても難しい問題でしたね・・・。現場で解かれた方は本当にお疲れさまでした。

またゆっくりみていってください。

第1 設問1について

 1 (a)について

 そもそも、民事訴訟法(以下法名省略。)には、違法収集証拠を排除する明文上の根拠規定は存在しない。

 もっとも、法は、裁判は公正に行われるべきとされ、信義に従い、誠実に行われるべきであるとされる(2条)。そして、違法収集証拠については、これに基づく事実認定は、かかる公正な裁判に資さないため、同条に従い、排除されるべきである。

 そして、民事訴訟は、私的自治の訴訟法的反映であるところ、実体法上違法である行為を訴訟法上適正な権利の実現として許容するのは、かかる法の本質的構造に反する。

 そこで、実体法上違法となる行為によって収集された証拠については、これを訴訟において用いることはできないと解する。

 2 (b)について

 これを本件についてみると、XY間において、甲債権、乙債権に関する紛争が顕在化した後、XY間で話し合っていたところ、Xが休憩のために席を外したタイミングで、YはXの机上のノートパソコンを勝手に開き、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールを閲覧している。そして、Yは、かかるメールのすべてを自己のUSBメモリに保存している。このようなYの行為は、秘匿性が高く、Xのプライバシーの要保護性が高いメールを勝手に閲覧して、さらにはすべて保存する行為であり、実体法上、プライバシー権侵害として、不法行為(民法709条)が成立する。

 したがって、かかる手段によって収集された証拠は、違法収集証拠として、排除され、証拠能力は認められない。

第2 設問2について

 1 (ア)ないし(ウ)の各心証に基づく判断は、第1審の判決内容を、控訴人Xにとって不利益に変更するものとして、不利益変更禁止の原則(法304条)に反し、できないのではないか。

(1)(ア)について

 (ア)の判断は、第1審では、Yによる弁済の主位的抗弁を認めず、Xによる弁済の主位的抗弁も認めず、乙・丙債権の相殺を認め、甲債権による請求を認容したのに対し、Yによる甲債権の弁済の主位的抗弁を認め、甲債権による請求を認めないという判断である。かかる心証を抱いた場合、Xの控訴を認容し、第1審を破棄して自判し、請求棄却判決を出すことができるか。

 かかる判断は、甲債権がそもそも認められなくなり、その不存在に既判力が生じてしまうし、Yによる主位的弁済の抗弁を認めてしまうと、Yの乙債権による予備的相殺の抗弁は、解除条件が成就することで、判断がなされなくなり、Xによる乙債権の弁済の再抗弁も主張自体失当となるうえ、Yは実体法上、乙債権を失わないため、別訴による乙債権の訴求を許すことになり、乙債権不存在に既判力を生じさせる機会を失ってしまうことになる。

 したがって、第1審の判断内容に比し、上記の点で不利益であるため、かかる判断は、不利益変更禁止の原則に反する。

 かかる場合、裁判所としては、控訴を棄却するにとどめる判決をすべきである。

(2)(イ)について

 (イ)の判断は、上記第1審に対し、Yによる弁済の主位的抗弁及びXによる弁済の主位的抗弁を認めず、丙債権の不存在を指摘し、Yの予備的相殺の抗弁を認めるというものである。かかる心証を抱いた場合、控訴審は、第1審を破棄し、自判し、請求棄却判決を出すことができるか。

 (イ)の心証に従って判断をしてしまうと、確かに、弁済の抗弁については判断は変わらず、乙債権は第1審同様、相殺によって消滅するため、その不存在にも既判力が生じ、この点でも変わりはない。もっとも、かかる心証に従った場合、そもそも甲債権の不存在に既判力が生じてしまう。

 甲のみが控訴しているという状況で、かかる判断をすることは、不利益変更禁止の原則に反する。したがって、控訴審は、控訴を棄却判決をするにとどめるべきである。

(3)(ウ)について

 (ウ)の判断は、上記の第1審に対し、Yによる主位的弁済の抗弁は認められず、Xによる主位的弁済の抗弁は認めるという判断であり、乙債権が弁済によって消滅することになる。確かに、このような判断の場合、Xの控訴の理由に沿うことにはなりそうである。しかし、同時に、Xは、乙債権が丙債権による相殺の抗弁ではなく、弁済の抗弁で消滅したということになり、このような判断(すなわち、乙債権不存在)については、既判力が生じないため、乙債権不存在の既判力を得る機会を失うことになっている。

 ここで、不利益変更禁止の原則は、処分権主義(246条参照)に基づき導出される原則であり、かかる主義からすれば、実体法上の権利義務ないし法律関係の存否については、当事者の自由に任せられるべきであるため、たとえ形式上、当事者に不利益な変更となっても、当事者がかかる結論を許容するのであれば、かかる意思を尊重すべきである。

 したがって、本件では、控訴を認容し、第1審判決を変更して、自判し、請求を認容する判決を下すべきである。

第3 設問3について

 1 課題1について

(1)まず、前訴において甲債権の存在が認められ、これが確定しているところ、かかる判決の効力が、補助参加人Zに対しても作用するか。

ア まず、いかなる範囲に既判力が生じているか。

(ア)この点、既判力は、「主文に包含するもの」につき生ずる(114条1項)ところ、審理の弾力化の観点から、訴訟物の存否の部分について既判力が生じると解する。また、既判力の正当化根拠は、手続保障に基づく自己責任にあるため、手続保障が与えられた「当事者」間に生じるのが原則である(115条1項1号)。

  そして、当事者は、事実審の口頭弁論終結時までは、訴訟資料を提出することができ、かかる時点までは同手続保障が及んでいるといえるため、既判力は、事実審の口頭弁論終結時を基準として生ずると解する。

  また、114条1項との整合性及び反対債権の不存在のみ既判力を及ぼせば、紛争解決として十分であるため、相殺の抗弁が認められた場合には、反対債権が不存在であることに既判力が生ずると解する。

(イ)そのため、本件では、XY間において、事実審の口頭弁論終結時に、「XのYに対する甲債権が存在すること」、「YのXに対する乙債権が不存在であること」、「XのYに対する丙債権が不存在であること」に既判力が生じているといえる。

イ では、かかる既判力が、Zに作用するか。

この点、Zは、Yの保証人であるが、115条1項2号ないし4号のいずれにも当たらない。したがって、前訴判決の上記既判力は、Zに対して作用しない。

(2)そうであるとしても、実体法上、Yの主債務が不存在であれば、付従性によって、Zの保証債務も消滅するはずである。そこで、当事者間に既判力の拘束力があることが、当事者と実態法条、特定の関係のある第三者に対して、反射的に有利又は不利な影響を及ぼす、いわゆる反射効が認められないか。

ア この点、反射効の性質は、当該時効につき裁判所に審判させないという点で既判力と同様の性質を有するものであるところ、既判力は訴訟法上の効力であると解されるため、確定判決によって実体法上の権利関係が確定することはないと考えるべきである。

そこで、実体法上の拘束力を認める反射効は否定されるべきであり、あくまで既判力の拡張の問題として考えるべきと解する。

イ これを本件についてみると、反射効は認められないため、前訴確定判決によって、Zに拘束力は作用しない。

(3)以上より、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく拘束力は、Zに作用しない。

2 課題2について

Zが任意に保証債務を履行した上、Yに対して求償する場合、Yは、求償債務を否定するために、甲債権の存在を争うことができるか。前訴確定判決により、甲債権は存在するものとして既判力が生じ、Yは敗訴しているところ、かかるY敗訴により、YZ間に参加的効力が生じることで、Yはかかる主張を行えないのではないか。

(1)そもそも、46条の趣旨は、補助参加人は、被参加人と共同して訴訟を追行した以上、敗訴した場合に生じる責任も共同して分担することが公平であるという点にある。

 そこで、同条の「効力」とは、訴訟当事者間における既判力とは異なる参加的効力を意味すると解する。

 そして、その範囲は、同条の趣旨に鑑み、被参加人敗訴の場合に、補助参加人・被参加人間に生じる効力であって、判決主文における訴訟物の判断のみならず、判決理由中の判断についても生じると解する。ただし、判決理由中の判断については、基準の明確性の観点から、判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断に限り、参加的効力が生じると解する。

(2)これを本件についてみると、まず、参加的効力の範囲は、甲債権が存在していること、Yによる弁済の事実及びXによる弁済の事実が存在しないこと、乙債権と丙債権は相殺によって消滅したことを客観的範囲とし、Y・Z間を主観的範囲として、かかる効力が生じている。

 次に、本来であれば、Yが敗訴した場合、その後のZの求償請求訴訟において、Yが参加的効力を援用し、主債務は不存在であるのだから、保証債務は不存在ないし弁済は無効であって、求償は認められないと主張することが通常の事例である。しかし、本件では、Yが敗訴しており、Zが求償請求訴訟を提起した後、Zが、主債務は存在していたとして、弁済の有効性を主張するという構造にある。そのため、Z側が、このように参加的効力を援用できるかがまず問題となるが、そもそも上述したように、参加的効力の趣旨は、敗訴責任の公平な分担にあるため、敗訴した結果生じる法律関係については、参加人・被参加人いずれについてもこれを受忍すべきである。そのため、確かに通常の場合と異なり、Z側が援用しているが、その主張は、前訴判決による帰結そのものであり、不当な主張ではなく、保証債務の存在それ自体については、これを援用させてもY・Z間に不公平な結果となるわけではない。したがって、Z側がこれを援用することは許される。

(3)以上より、前訴確定判決の効力たる参加的効力は、Y・Z間に及んでおり、Zが上記のようにこれを援用することは許される。

以上

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