影響力の武器

仕事で影響力を持ちたいと思っているそこのあなた
ビジネスマインドチャンネルです

今回は、国を代表する社会心理学者の一人であるロバート・チャルディーニによって書かれた
影響力の武器
について解説していきます。

本書は私も何度も読んでいますが、ビジネスマンにとっては間違いない最高の一冊です。

それではさっそく本書の要点を3つお伝えしていきます!

要点1
日常の判断を行う際、私たちは自動的反応を用いることが多い。この簡便反応の利点は、単純な思考で物事に対応できる経済性と、より早く正確に適切な対応が出来る効率性にある。

要点2
承諾誘導は、大きく6つのカテゴリーに分類できる。返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性である。これらの原理は社会の中で生きる人間にとって不可欠な心理的反応であり、効率的に判断を下す助けとなっている。

要点3
しかし、この自動的反応はある刺激で一定の行動を促す作用があるため、この仕組みを利用した商用活動などにより、知らぬ間に行動をコントロールされる恐れがある。

チャプター1!影響力の武器

最近アリゾナにジュエリーの店を開いた友人から相談の電話がかかってきた。なかなか売れないトルコ石を半値で売りさばくよう店員に指示したが、店員は2倍の値段で売ると勘違いしてしまった。
しかし、数日後には全ての宝石が売れたという。一体何故なのか。

これは、エソロジーと言われる動物研究の成果から証明できる。
鳥の行動は、ある刺激を与えると一定の動きをする機械的な行動パターンがあるという。テープレコーダーのボタンを「カチッ」と押すと「サー」とテープが回るように。

例えば、ヒナ鳥の鳴き声を聞くと母親は世話を始める、といった具合だ。
実は、このような動物の行動パターンが人間にも当てはまるというのだ。
エレン・ランガーらによる人間行動の実験の一つに、人に頼みごとをする際に理由を添える方が成功率は上がる、というものがある。しかも、一概に正当な内容でなくとも「理由」だと相手が理解すると承諾率が上がるのが興味深い。

「理由」が引き金となり「承諾する」という一定の行動に出ているのだ。
この行動パターンを冒頭に紹介したジュエリーの話に当てはめると、「高価な物=良質」と考える顧客層が、値段の上がったトルコ石は価値があると考え購入したと推測される。

上に挙げたトルコ石の事例は簡便法に賭けた選択と言える。
人間は複雑な社会環境の中で俊敏な判断を求められており、その対処法として簡便法に頼ることは一つの有効な手段なのだ。
例えば、「判断のヒューリスティック」というものがある。発言の中身を吟味し判断するのでなく、例えば「専門家」という地位でその人の発言内容を正当化してしまう心理現象だ。

ほとんどの人は行動パターンについて無知であり、何も考えることなく機械的に行動している。しかし、この種の行動は危険も孕んでいる。わざと引き金を真似ることで利益を得る人がいるのだ。
例えば、価格をかなり釣り上げることで商品価値を高めて売る(本当の商品価値とは異なる)、ということだ。

また、人間の知覚には「コントラストの原理」と呼ばれる心理現象がある。これは、二番目に提示された商品は一番目に提示された商品の見せ方次第で価値が異なって見える現象で、実際に洋服や不動産、自動車の販売に用いられる手法である。
操作しているように見せずに相手を操作する、つまり「影響力の武器を行使している」と言える。

チャプター2!返報性

「返報性」とは、他人が何らかの恩恵を施したら似たような形でお返しをしなければならない、と考えてしまう心理状況を指す。相手に対し恩義を感じるこのルールは社会に広く浸透し、人間の社会性の構築に貢献してきた大きな存在だ。

しかし時に、このルールを悪用する人たちに行動をコントロールされるケースがある。

心理学者デニス・リーガンがある実験を行った。
作品評定をお願いした2人に対し、1人にだけコーラの差し入れをした。
その後、2人にチケット購入をお願いしたところ、差し入れを受け取った方が多くチケットを購入したという。相手に借りがあるという気持ちから不必要な要請を受け入れてしまったことが分かる。
また、普通なら承諾に有利に働くべき相手に対する好意の有無に関係なく返報性のルールが優位に働いたことも判明した。つまり、怪しげなセールスマンなど相手に不快な印象を感じてもルールに従い要求を承諾してしまう可能性があるのだ。

返報性には、頼んでいないのに勝手に親切を施されることで恩義の感情が生まれる、という特徴もある。
この特徴を利用されると、親切を受ける側の人は自分の身を他者に委ねるほかなく、不公平な結果に陥りがちである。

また、わざと過大要求を提示した後に本来の要求を出す「拒否したら譲歩」という手法がある。これは、譲歩してくれた相手に対し自分も譲歩すべきだ、という心理に基づく。
この手法を用いると、要求する側が都合良く流れを組み立てているにもかかわらず、受け入れた側は自分の交渉力により相手を譲歩させたという満足感があるため、承諾した側に不満が残りにくいという。

返報性のルールに翻弄されないためには、他者の申し出を受け入れる際に内容をよく吟味して受け入れる姿勢が必要だ。好意による申し出であれば快く受け入れ、戦術に基づく申し出であれば、返報性のルールを適用する必要はなく自由に判断してよいのだ。

チャプター3!コミットメントと一貫性

現実は何も変わらないのに、ひとたび馬券を買うと買う前より勝つ見込みが高まる気がするのは何故だろうか。これは一貫性を通したい欲求によるもので、一度心に決めるとそのコミットメントと一貫した行動を取るよう圧力がかかり、前の決定を正当化すべく行動しようと考えるのだ。これは生活のあらゆるシーンで応用され、人間の行動の動機づけとなる大きな原動力となっている。

しかし時に、一貫性に固執するあまり自分自身をだまし行動に移してしまう危うさもある。ただ何も考えず一貫性を保つように状況判断することで、仮に望まない結果だと分かっても一貫性に基づく理屈で現状を一切受け入れなくなるという結果になりがちだ。この行動パターンを商法に利用し、収益の分散化に成功した玩具メーカーの事例などがある。

「承諾誘導」という方略は、私たちにコミットメントさせるよう仕向け、一貫性の圧力により承諾せざるを得ない状況を作り出すものであり、実際に中古車販売などで利用されている。また、コミットメントの内容に段階を踏み、小さな要請から始め最終的には本来の要請を承諾させる「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」という方略もある。コミットメントによる新しい自己イメージに一貫するよう、様々な要請を承諾してしまう状況に陥ることを知っておく必要がある。

コミットメントが効果的に影響を及ぼすには4つの条件(行動する、公衆の目にさらす、努力を要する、自分の意志で選ぶ)が揃う必要がある。積極的コミットメントにより自己イメージが形成され、そのイメージとの一貫性により行動を起こし、更に自己イメージが強固なものになる。自分の行動が将来の価値観や態度に大きく影響を及ぼすのだ。また、自分自身で行動を選択すると責任は自分にあると考えるようになり、長期にわたるコミットメントを確証することになる。

チャプター4! 社会的証明

テレビ関係者は、番組を盛り立てるため効果的に録音笑いを利用する。
すると、視聴者はその機械的な笑いにつられ面白い番組だと感じてしまうという。これは社会的証明の原理に基づく行動である。「社会的証明」とは、他人が何を正しいと考えているかに基づき、物事が正しいかどうかを判断する心理状況を指す。実際に、社会的証明に合致した行動を取ると間違いを犯すリスクは減る傾向にある。

また、他人の模倣による効果は子供にも見られる。しかし、この行動パターンを逆手に利用し人をコントロールすることも可能だ。録音笑いの例のように、人は本質的な部分でなく一過性のものに自動反応してしまうからだ。例えば、教団の布教集会にサクラを混ぜておく、広告主が「この製品は一番の売れ行きだ」と強調する、というように、社会的証明を用いた勧誘手法は様々な場面で利用されている。

社会的証明による行動は、自分自身に確信が持てない時や状況が不明確で判断材料に欠けるときに顕著に現れ、他者の行動を正しいと期待し受け入れる傾向にある。しかし、同様の状況下では、他者もまた同様の判断をしていることを忘れてはならない。この状況が蔓延すると「集合的無知」という現象が生じ、多くの人がいるのに誰もが行動せず傍観してしまう悪循環を生み出すことにもなる。道端で発作が起きた時などの切迫した状況で助けを求めたいならば、周囲の人たちの責任の曖昧さを軽減すること、つまり具体的に誰にどうしてほしいかをはっきり伝えることが重要になる。

社会的証明の原理が生じるもう一つの条件は類似性である。どう振る舞うべきかを考える際に自分と類似した他者の行動を参考にする傾向を指す。それを示す悪い事例の一つに、自殺が報じられるとその後自殺や事故が連鎖的に起こることがある。カリフォルニア大学のデイビッド・フィリップスはこの事象を、ゲーテ作「若きウェルテルの悩み」の発表後自殺者が相次いだ事件になぞらえた「ウェルテル効果」によるものだとしている。また、ボクシングなどの暴力的な報道がされた後は殺人事件が増えるという別の研究結果もある。類似した他者の行動が恐るべき影響力となるのだ。

社会的証明の原理は生活のあらゆる行動に関連し、この原理に基づく行動は大抵正しく価値あるものだ。そのため、この影響力の武器が及んだ時に防御反応が作動しないことが、問題を起こす原因となる。誤った社会的証明の原理に影響されないためには、意図的に歪められた情報があることを知ること、情報を鵜呑みにしないことが大切だ。

人は、人や物に対し判断を下す場合、それに関する情報全ては使わずほんの一部の情報から判断するものだ。大抵それで正しい決定を下せるのだが、一つ間違えると明らかに異なる結果を導いてしまう恐れもある。

しかし、速いペースの現代生活の中では、上記で紹介したような簡便法を使う機会はより一層増えているのが現状だ。人間の脳のメカニズムは複雑な状況に対応できる能力があり、その能力により科学技術を急激に発展させ、現代の情報化社会を創出した。一方で、人間は自動的で原始的な「反応」に後退させて判断作業を効率化し、しかも成功率や信頼性が高いため頻繁に利用している。つまり、人間の能力は現代という流れの変化を扱うには不適切になりつつある。注意すべき点は、簡便反応の頻度が増すと、信頼性の高い情報が何かの意図で歪められ、誤った行為を行うよう誘導された場合に、罠に陥る頻度が増すということだ。

私たちにできることは、簡便反応を逆手に利用し巧みに騙そうとする相手から逃げたり素直に要求を受け入れてしまうのではなく、積極的にボイコットするなど様々な手段に訴えることが必要である。

総評
本書は、米国を代表する社会心理学者の一人である著者が、人間の心理を利用した承諾誘導について、6つのカテゴリーをテーマに496ページにわたり考察している大作です。
数多くの実験や事例を基に説明されており、また、文章に堅苦しさはないため、ページ数の割にとても読みやすくどんどんと内容に引き込まれていく一冊でありました。
今回だけではまだまだ紹介出来ていない内容が数多くあるため、是非手に取って一読されたい一冊です!

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