リスクを取らないリスク

リスクをとることを恐れているそこのあなた
ビジネスマインドチャンネルです

今回は、堀古 英司氏著書の、
リスクを取らないリスク
について解説していきます!

この本は、リスクは本当に恐れるべきものなのか?
リスクを取らないとどうなるのか?
について書かれた一冊です!

それではさっそく本書の要点を3つお伝えしていきます

要点1
人間はリスク回避の性質を有すること、リスクを取るには相応のリターンが必要なこと、リスクとリターンのバランスは需要と供給により変化する、というリスクに関する3つのルールを意識したい。

要点2
日本はリスクを取らないリスクという概念に乏しく、その結果、アメリカの景気後退の波を受けてしまった。リスクを取るリスクだけでなくリスクを取らないリスクも考慮し判断すべきだ。

要点3
現時点で将来考えられるリスクを想定し、起こるべきリスクへの対応策を考えておいた上で、必要な対象については積極的にリスクを取ることが大切だ。

チャプター1! リスクに関する3つのルール

リスクとは「損失を被る、又は不利な状況に陥る可能性」を意味する。出来るだけ不利な状況に陥りたくはないが、転職や投資など、時にリスクを取る決断が必要なときもあるだろう。不利な状況を回避するには、リスクに関する三つのルールを理解しておくことが重要だ。一つ目は、人間は本来リスク回避本能を有していること、二つ目は人間にリスクを取らせようとすればそれなりのリターンが必要だということ、三つ目はリスクとリターンのバランスは需要と供給により変化することだ。

投資とギャンブルは似ていると思われがちだが、両者は別物だ。ギャンブルは投資に見合ったリターンが用意されておらず、むしろコストを支払うようになっているからだ。但し、バブル期のように、投資も「投機」になってしまうケースもあり、その際は判断が必要だ。

また、リターンの大きさは、先に述べたルールの三つ目のように、需要と供給により変化する。リスクを取る人が少なければ少ないときほど、リスクを取る人は有利になるのだ。

それでは、リスクの担い手がいないとどうなるかについて
アメリカ金融危機の例で見ていこう

2008年9月、金融史上に残る大惨事ともいえる「リーマン・ショック」が起こる。しかしそれ以上にインパクトが大きかったのは、リーマン・ショックと前後して起こった世界最大の保険会社AIGの破綻懸念だ。AIGは損害保険や自動車保険のみでなく、金融に対する保険も取り扱っており、世界最大の保険会社だった。AIGが破綻すれば、取引を行っている世界の金融機関は総倒れの様相をも呈し、更なる悪循環に陥っただろう。

自分の代わりにリスクを負ってくれている保険会社が危なくなれば、そのリスクを自分が負わなければならなくなる。すると人々は貯蓄に走り、進んでリスクを取る人はいなくなり、経済は一気に冷え込む。

このときに必要とされていたのは「リスクの担い手」なのだ。資本主義の自己責任の原則からすれば、そもそもの発端である住宅バブルを起こした張本人の金融機関が、いざ危機に陥って政府に救済の手を求めるのはおかしい。しかし、アメリカ政府は、金融破綻が住宅バブルの関係ない市民にまで及び、世界経済に大きな影響を与えることを勘案して、大手金融機関に公的資金を注入することを決めた。同時に、金融危機が終了するまで、自己責任のルールは適用しないということにした。

そもそもこのような金融危機が生じたのは、住宅市場の状況が先に挙げた三つ目のルール「リスクとリターンのバランスは需要と供給で決まる」から逸脱したためだ。住宅バブルに興じて人々がリターンばかりを追求し、いざバブルが崩壊した時にはリスクを取る人が誰もいなかったのだ。

これほど大きな出来事でなくとも、経営や消費など、身の回りには様々な経済活動があり、そこには常にリスクとリターンが存在する。リスクの担い手がいないと経済活動が成り立たない、ということは常に意識していきたい。

お次は日本金融政策の「リスクを取らないリスク」の例 を見ていく。

アメリカと日本では中央銀行の目的に大きな違いがあり、この違いが、長期に円高・ドル安をもたらすことになった要因といえる、と著者は分析する。アメリカでは、中央銀行の目的として「雇用最大化」、「物価安定」、「適切な長期金利」の3つが定められている。

一方日本では、その目的は「物価安定」であり唯一の使命となっているのだ。例えば、雇用情勢が悪化すればアメリカでは金融緩和策を実施するが、日本では特段の策は講じないということになる。その結果、日米間の金利差が縮小し、外国為替相場で円高・ドル安が進行しやすくなる仕組みだ。つまり、2008年のリーマン・ショック以後数年の間に円高・ドル安傾向が現れる事態は予想可能であり、実際に3年後の2011年10月には1ドル75円代という史上最安値を更新した。
著者は、こうした、アメリカの金融危機以後に生じた円高は、日本政府や日本銀行が何も手を打たなかったこと、つまりリスクを取らない姿勢が原因だったと考える。リーマン・ショック以後のアメリカ経済は疲弊・衰退しており、状況打破のため連邦準備銀行は国債の購入を開始した。それは市場でのドルの量の増加を意味するが、日本としては特段の策を取らなかった。その結果としてドル安・円高を引き起こし、通貨供給量の少ない日本に景気後退の波が押し寄せることとなってしまったのだ。当時の日本は円高だけでなく巨額の借金を抱えていたが、通貨発行と市場からの国債購入という打開策を取らなかったために、アメリカの金融危機の「輸入」を防ぐことが出来なかったのだ。

何かを実行した際のリスクだけでなく、実行しなかった際のリスクも分析し、どちらを選択するかの判断を行う姿勢が重要である。

チャプター2!広がる格差

アベノミクスにより株価は大きく上昇したが、一向に自分の給与に反映されないと感じる人は多いのではないだろうか。それはそのはず、株価が上昇したメリットは、株主でない限り受けられない。株主は株価下落時に大きなリスクを負うが、上昇時に恩恵を享受できる。また、給与決定時に景気は一つの勘案材料でしかない。

また、アベノミクスによる消費税増税は財政赤字減少を目的とし、法人税引き下げは景気回復を目的としている。日本の直近の課題は景気回復であり、経済成長が最優先課題なのだ。しかし、その結果、経済成長と表裏一体の関係にある経済格差の拡大は免れないと著者は予測している。

格差から起こりうる問題点は幾つかある。一つ目は心理的な問題だ。具体的な資産水準などではなく自分より高い生活水準にあると思われる人を見て感じてしまう恐怖や焦りだ。横並びの意識の強い日本ではなおさら強く感じられるかもしれない。二つ目は貧困といった社会問題だ。貧しい個人や家庭では十分な医療や教育が受けられなくなってしまい、最悪の場合犯罪の増加などにもつながる恐れがある。また、それらにまして憂慮すべきなのは、格差が拡大しすぎて資本主義が維持出来なくなった場合(努力をしてもご褒美がない状態を指す)、経済が成長しなくなってしまうことだ。

今後数十年後には、日本は現在よりも格差が拡大している可能性が高く、そういった状況下で個々人の取るべき方策は何かを考えていく必要がある。

チャプター3!年金カット

年金問題は日本人に共通するリスクの一つだ。特に少子高齢化や人口減少が進む日本では深刻な問題となりつつある。年金問題の致命的な欠陥はシステムにある。日本の年金制度は賦課方式だ。つまりは、現役世代が支払う年金保険料がそのまま受給者の支給分となっている。これは人口増加社会において成立する制度であり、人口減少社会下での年金制度では成立しない。

置き去りにされてきた年金問題だが、いくつかの解決策、緩和策は考えられる。まず、経済成長を優先課題とし,財政状況を改善させて、少しずつでも資金を積み立てていくことだ。また、年金の支給開始年齢を引き上げることも有効と考えられる。引退時期を遅らせて現役人口を増やせば、年金支給分が減少するだけでなく年金保険料徴収も増加が期待できるからだ。

日本の年金制度は厳密にいうと完全賦課方式ではなく、支給に使われない資金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が年金積立金として運用している。運用内訳をみると元本保証はあるがほとんど利益を生まない国内債券が6割を占めており、まさに「リスクを取らないリスク」が顕在化している状態だ。そこで、運用方法をより積極的なものに変更していくというGPIF改革の議論が活発化している。年金積立金は長期性資金であるため長期運用に向いており、株式での運用比率を高めるのは自然な行いである。そこであえてリスクを取らない運用方法を採用したのでは、かえってリスクが高まる。

しかしながら、年金問題はその規模があまりに大きいため、将来は年金支給額の減額もありうる、と想定しておくのが現実的である。

チャプター4!リスクを取る前にやっておくべき重要なこと

いくつかのリスクを想定し検証してきたが、リスクを取る前にするべき重要なステップがある。それは、現時点で将来考えられるリスクを明らかにしておくことだ。想定されたリスクに対し何の対策も打ち出していないと、不確定要素が多すぎて、取るべきリスクを思い切って取れなくなる。積極的にリスクを取っていくためには、ほかに起こり得るリスクの存在を明らかにし分析して対策を講じておくことが重要だ。

ここでは、身近に想定されるリスクの例として、まずは生命保険を挙げたい。生命保険は万一の事態に備え措置を取っておくための手段といえるが、必要性が低い方には加入はお薦めしない。例えば独身で扶養家族がいない場合、夫婦共働きであり万一の場合でも生活に支障が出ない場合、健康で65歳以上生きる自信のある方の場合などは、あえて生命保険に加入しなくてもよいといえるだろう。

次に住宅に関するリスクを考える。将来的には人口減少に伴い空地や空室の増加が予想されるため、以前ほど住宅の高価格化は見込まれず、若いうちから住居を購入する必要性は少ない。住宅を購入するということは、リターンを得るために運用できるキャッシュを取られてしまうということで、そのこと自体はまさに「リスクを取らないリスク」なのだ。住宅を購入しても、なるべくキャッシュの打撃を受けないようにするための、事前に注意すべき点は以下の4つである。一つ目は貸出を考えて便利な立地の物件を選ぶこと、二つ目は比較的手頃な価格帯の物件を選ぶこと、三つ目は自分の収入で賄える範囲の住宅ローン設定にすること、四つ目は現金があっても出来るだけ住宅ローンを利用し購入することだ。

総評
本書は、金融機関での勤務経験が長い著者が、リスクを取らないリスクを考えてこなかった日本経済の現状及び今後の展望に関し、256ページにわたり具体例を交えて詳細に解説した注目の一冊である。本書は第10章から成り、その中から一部を抜粋し上記に再構成したが紹介出来ていない内容も多々ある。
海外から日本経済を見ている著者だからこその視点が満載であり、経済に明るい人も疎い人も読みごたえを感じられる良書である。是非手に取ってご覧頂きたい。

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