性質よりも原因の話

「イラストを描ける人は漫画も描ける」わけではないし、「漫画を描ける人はイラストを描ける」わけでもない。その要は話をSNSではよく見かける。イラストは1枚絵だけで背景やストーリーを見せる。一方漫画はコマの連続により時間の流れを作って複数ページにわたりストーリーを見せる。見せ方や作り方が異なっているので、イラストと漫画、一方を作れるからといってもう一方も作れるとは限らないというのが私がこれまで見てきたSNSでの論拠だ。

しかし、現実にはそれでも「イラストを描ける人は漫画も描ける」という言説がまかり通っている。イラストと漫画の性質の違いを説明して誤解を解くよりも、その誤解が広まってしまっている原因について考えていく必要があるのではないかと私は考える。

原因の一つとして考えられるのは、実際に「イラストも漫画も描ける人」が存在していることにある。商業漫画で活躍している作家の中には画集を発売したり個展を開いている人たちも数多くいる。そのような作家は著名な作家であることが多く、その実績を見た人は「漫画を描ける人はイラストも描ける」と思い込んでしまうのだろう。心理学における認知バイアスの一つで、先入観や経験則による誤った判断と言える。

さらに考えられる原因としては「漫画」や「イラスト」、そして「絵」の境界が非常に曖昧なこともある。「漫画」も「イラスト」も「絵」を描くイラストだから画力が必要になる。漫画の表紙絵は広義「イラスト」だとも言えるし、イラストもセリフを入れれば「漫画」になり得る。絵にセリフを入れただけでは「漫画」ではないという意見もあるが、風刺画のような1コマ漫画は漫画でとイラストにセリフを入れただけのものは漫画ではないと客観的に説明することはほぼ困難なことだろう。

私に至ってはどうだろうか。私は漫画もイラストも描いている。漫画の方は大手出版社で受賞し、イラストの方も個人間の依頼で稼ぎを得るほどには実績がある。少なくとも「漫画ではない」「イラストではない」と言われることはないだろう。だとすれば、「漫画もイラストも描ける」の敷居はそれほど高くはないのかもしれない。

「漫画を描く」ことも「イラストを描く」ことも、その作品に価値があるかどうかは別として「描く」だけならばそれほど難しくはない。少なくもどちらか一方ができるならば、もう一方が全く描けないということはないだろう。カラーを描いたことがない漫画家がいたとしても、白黒でもイラストは成立するのだから。ただ、いわゆる「一流」のようなものを目指すとしたらどちらも極めなければならないので、それができる人は限られているといったところだろうか。
私は漫画もイラストも「描ける」とは思っている。しかし、人によっては私のそれは「描ける」とは言えないと考える人もいるのだろう。つまるところは個人の主観によるのかもしれない。

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