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マンガが好きなあなたに「ひら☆マン」をオススメする理由 第13回 「SF×マンガ卒業生対談(後)」

みなさんこんばんは。ゲンロンスタッフの遠野よあけです。
「マンガが好きなあなたに『ひら☆マン』をオススメする理由」、通称「ひら☆スス」第13回の更新です。
前回にひきつづき今回も、富田童子さんと藍銅ツバメさんの対談を掲載します。今回の後編では、富田さんが「ひら☆マン」へ来てぶつかった壁と、それを打破したときのお話が語られています。かなり実践的であり、表現をおこなう人であればおおくの人がぶつかる壁でもあると思いますので、表現を学んでいこうとするみなさんにとっても参考になる部分があるのではないかと思います。

さて。今回は前置きが長くならないうちに、対談本編に入りたいと思います。

『せい☆ぐん』表紙絵

■3

富田:最初の課題って、今年も「自己紹介をマンガにしてください」みたいなやつ?

藍銅:それです。で、どうせならこの機会にどういう風に描いたらいいか相談もしたくて。最近ネタにできる体験をしたんですよ。好きな声優さんのラジオ配信に出させてもらえる機会があって、しかも一緒に打ち上げにも出て、そのあとまた別にお仕事一緒にやって、という体験を8ページのマンガにしようと思ってるんです。

富田:え、めっちゃキラキラした話じゃないですか!

藍銅:キャラクターはこういう感じの絵柄で……べつにギャルじゃないけど、勝手にギャルということにして。百合っぽい感じに。

富田:百合っぽい感じは、マンガ教室に来る受講生は好きですよ。

藍銅:よかった。で、ストーリー展開なんですけど、今こんな感じで考えていて……。

富田:ほうほうほう。

(しばらく初回課題のマンガをどう描くかの話が交わされる)

藍銅:……なるほど。ううん。8ページじゃまとまらない気がしてきた。いちおう16ページまでは描いていいらしいけど、いままでマンガを描いたことがない人間がいきなり16ページいけるか……?

富田:マンガを描くスピードは、絵柄とか話の進め方にもよるからなんとも言えないね。でもとにかく8ページでも16ページでも描いてみて、失敗してみてください。ひらめき☆マンガ教室は「みんないっぱい失敗しよう。ここは失敗が許される教室です」って言われるので。

藍銅:よし。とりあえず失敗するか。

富田:失敗できた人のほうが絶対得られるものが大きいよ。

――ひらめき☆マンガ教室は、失敗したときのフィードバックを素直に受け止めた人の成長はすごい早いですよね。逆に、自分の失敗のフィードバックを受け止めるのに何ヵ月もかかる人もいて、そういう人は伸び悩む時期も長くて苦労してる。

富田:遠野さんすごいわかってるじゃん。

――ぼくはゲンロンスクールがすごい好きな人だから(笑)

富田:失敗の話ともうひとつ、さやわか先生の教えでよく覚えてることがあって。さやわか先生は「ゴールから考えろ」っていうのを口酸っぱく言うんですよ。例えば「〆切というゴールから逆算したら、あと何日しかないから、そこまでに完成させるにはこのくらいの作画にする、ページ数はこのくらい減らすとかを考えるように」って言われる。マンガ教室の同期とか卒業生を見てると、この「ゴールから考えろ」を日常生活でも使ってる人がいっぱいいる。編集さんと話すときとか、なんなら料理をつくるときでもそうで。「逆算すると」みたいなのが頻出語句になってる。ひらめき☆マンガ教室を卒業した人は、日常でもその思考が自然にでてくるくらい考え方を叩き込まれてる気はしますね。だから物語をつくるときも、どこをゴールにするのか最初に考える。それから、決めたゴールは絶対にずらさない。そういうことは何度も言われて教わった気がします。

藍銅:すごい。勉強になる……。

■4

――お二人はスクールの受講前と卒業後で、創作への取り組み方が変わった部分はありますか?

富田:スクール行く前の私は『月刊アフタヌーン』の四季賞で大賞を獲って、そこから本誌連載を目指してネームを練っていた時期がありました。でも全然ネームが全然通らなくて、誰かに助けてほしかったときにひらめき☆マンガ教室を受講したという経緯があります。そのころって自分ではすごい苦悩していたつもりだったんですけど、今思い返すと、四季賞で大賞を獲ったのがそもそもの勘違いの始まりでした(笑)

藍銅:え!

富田:大賞を獲るとそこそこ褒めてもらえたりするわけですよ。その褒めを私は誤解していて、大賞のマンガは自分としては絵をすごいがんばったつもりだったから、「絵をがんばれば売れるんじゃないか、ネームも通るんじゃないか」って思ってた。これはそこそこ絵が描けがちな新人がよくおちいるトラップです。
でも、ひらマンでよく言われたのが、「絵はなんでもいい。下手でもいい。作品が要求するレベルの絵があればいい」ってことだったんです。そこでわりとぶんなぐられた感じになったというか。あくまで絵というのはツールでしかなくて、読者はわたしの自意識に興味がないんだということだと思うんです。そりゃそうですよね。読者はそんなのいらないから。でも、読者は私の自意識に興味がないって事実を認めるのにわたしはすごい時間がかかった。マンガはサービス業だし、水商売だし、エンターテイメントだから、みんなかわいい個性的なキャラが読みたいし、それにしか興味がないし。わたしが自分の武器だと思っていた絵というのはひとつのツールでしかないし。じゃあ逆にツールでしかないなら、それをどう使えばいいか考えないといけない。広い読者層に伝えつつ、その範囲で自分がやりたいこと描くにはどうすればいいか。それを考えるようになって、ひらマン2期の夏ごろにネームが通るんですよ。

一同:おー!

富田:そこでやっと「あーそういうことなんだ!」って納得して。で、それからは意識的その方向で実験しいくことにして、今もそれをがんばっています。私はひらマンに2期と5期で参加したけど、その経験を得られた2期の受講がすごい大事でした。

藍銅:そこが一番大きな変化のポイントだったんですね。夏ごろだと、受講して数ヵ月くらい?

富田:そうそう。私は2期では聴講生だったけど、さやわか先生のホスピタリティに甘えて、さやわか先生に相談しまくっていた。そしたらなんと、わたしの作品には「ドラマがない」「物語がない」とか言われるわけですよ! 「え!? わたし、大賞獲ったのに!」みたいな(笑)

(一同笑)

――自意識高い新人がおちいる典型的な罠にはまっていたんですね(笑)

富田:おかしいでしょ(笑)

――こんなわかりやすい感じの人だったんですね。でもいまはそこを抜け出せているから通過点のひとつとして語れますけど、そこを抜け出せない新人もけっこういるわけですよね。

富田:四季賞って獲ったあとにちゃんと商業で描き続けている人すごく少ないんですよ。卒業制作みたいな賞なんです。自分もひらマンに行かなかったら、そうなっていた気がしますね。

――消えた作家のひとりになっていただろうと。あそこめっちゃ消えますよね。

富田:めっちゃ消える。

藍銅:いまの話を聞いてて、私も講座通う前に小説の賞に投稿してたことを思い出しました。当時はなんとなくラノベ作家になりたいなーって思ってて、少女向けレーベルの新人賞に小説を送ったんですよ。

富田:ふむふむ。

藍銅:少女向けレーベルだから、少女向け小説を投稿したんです。平安時代もので、姫君が出てくる。で、鬼の酒宴で鬼たちが姫君の血肉を喰らうみたいな……。

富田:途中からなんかちがくない(笑)

藍銅:好きなものをぶちこんでいました。わたしが少女のときはこれが好きだったから。

富田:みんなも少女のときはこれが好きにちがいない、ってこと?(笑)

藍銅:そう(笑)。でも血みどろの話はそこでは求めらてなくて(笑)。そのあとSF創作講座に通ってみて、どうもわたしの書きたいこととか文体は、ライトノベルじゃないということに気づいて。でも講座で何作か書いているうちにジャンルとか文体が定まってきて、卒業したあとは自分の書きたいことに近い賞に送るようにして、新人賞が獲れていまは作家やれてる。

――ジャンルとか文体の方針を定めるのに、講座で役立ったことはどんなことですか?

藍銅:実作の自主提出を出すと大森さんがちゃんと読んでくれてて、そのリアクションはすごく参考になりました。なんか流血描写を入れるたびに評価されるから、なるほど、私は血みどろ書いたほうが受けるんだな、って味を占めちゃって。逆に、なんかいい感じに話をまとめると「ちょっと今回は物足りない」みたいなリアクションが返ってきて、あ、ちがうのか、って。

富田:「前みたいな血みどろをもっとくれ」みたいな(笑)

――逆に藍銅さんは、講座でSF小説はあまり書かなかったですよね。

富田:あ、それ思った。「めめ」はSFなのか?

藍銅:SFではないですね。

――大森さんはSFジャンルの専門家だけど、そもそもめっちゃ小説が好きな人なので、一般小説からファンタジーから文学から、なんでも読んでる感じありますね。どんなジャンルの小説の面白さも読める人なんじゃないかな。だから講座でも、この人はSFが下手だけどほかのジャンルを書かせたら面白いっていう受講生がいたら、無理にSF小説を書けとは言わない。面白いものを書いてきてね、みたいな感じ。

富田:へぇー。なんかそのイメージはなかった。

藍銅:わたしもSFの講座だからなぁと思って、一回SFっぽい雰囲気のものを書いて出したら全然評価されなくて。じゃあもういいわ。知らんわって。2回目の課題から妖怪もの書いた。

富田:覚醒のタイミングが早い(笑)。ひらマン3期の由田果さんにちょっと似てる気がする。方向転換の判断がすごく早い。

――由田果さんは最初の授業では、母親と娘の確執の話みたいなマンガを描いてましたよね。それも面白かったけど、さやわかさんの授業を受けて、2回目の課題でもうかわいい女の子や男の子がでてくるマンガに方向転換してた。由田果さんも覚醒のタイミングが早かったですね。

藍銅:本当はそっちがやりたかったの?

――どれも全部やりたかったんじゃないかな。その方向で4回目の課題に提出した「まなかのせなか」ってマンガがすごいよくて。教室の話で、前の席の眼鏡の男の子にちょっかいかけてくる女の子がいて、その女の子はパーカーを着崩したギャルっぽい金髪で、ちょっと八重歯がでていてすごい可愛い。あと、教室でから揚げパン食べてる。

藍銅:えぇ!? 絶対ウケるやつじゃん!

――そうなんです! 完璧でしょ?

藍銅:完璧だ!

――完璧なんだよ! そのマンガの回の打ち上げで、ぼくはひたすら由田果さんを「最高です! あれは最高です!」って30分くらい言い続けてた(笑)

藍銅:ツイッターで安定してバズるやつ。

――実際バズってました。そこからさらに作風の完成度を上げていって、いまあ『週刊少年サンデー』で『君と悪いことがしたい』というマンガを連載している。

藍銅:すごー。すごいなぁ。

――さやわかさんも大森さんも、受講生個別の適性をちゃんと考えて話をしてくれますよね。さやわかさんは自分がかわいい女の子のマンガを読みたいから由田果さんを評価しているわけではない。大森さんも血みどろの小説が好みとかではなく、藍銅ツバメだったらたくさん流血してるときのほうが面白かったよね、みたいな言い方をしてくれる。

藍銅:あ、わたし流血させていいんだ、ってなる。

――自分の好みを横に置いて、受講生に必要なことを教えてくれる。あの作品への接し方は、ぼくもすごい勉強させてもらってます。

富田:さやわかさんは受講生が何をつくろうとしているのか、すごく根気よく聞いてくれる。「こういうことがしたいんですか?」「ちがいます」「じゃあこれ?」「ちがいます」「じゃあこれ?」「あ、それ。っぽい!」というカウンセリングみたいな対話をして、受講生が納得できる言葉が出るまで、粘り強く相手してくれました。

藍銅:SFも、授業で「ここがダメ」みたいな講評をもらうから、みんな飲み会に参加して、大森さんに「じゃあこのダメな部分どうしたらいいですか」って聞きに行く。それでいい返答をもらうのを繰り返してるうちに、なんか成長できてたのかも。

――SF創作講座もひらめき☆マンガ教室も、講師とコミュニケーションをとるなかで少しずつ成長していける場ができていますよね。それが実践できている場って、実はすごく貴重ですよね。
 というところで、そろそろ時間ですので終わっていこうかと思います。おふたりともありがとうございました。

富田:たのしかったー! 

藍銅:わたしもたのしかったー! あ、でもクリスタで枠線を引く方法をまだ教わってない……。

――このあとごはん食べるときに、教えてもらってください(笑)

(2023.3.10 五反田某所)
(聞き手:遠野よあけ、吉田屋敷)


対談後編。いかがだったでしょうか。
「みんないっぱい失敗しよう。ここは失敗が許される教室です」「ゴールから考えろ」「絵はなんでもいい。下手でもいい。作品が要求するレベルの絵があればいい」など、今回の記事では「ひら☆マン」の授業で語られるかなり重要度の高い部分がピンポイントで紹介されていました。言葉にしてみればそこまで珍しい話ではないですが、こうしたポイントをきちんと身につけるにはそれなりの試行錯誤が必要になってくるものです。そして「ひら☆マン」は、その試行錯誤を行う教室であり、試行錯誤のフィードバックも十分に感じ取れる教室です。

もしこの対談がおもしろかったり、話されている創作論について興味や共感を覚えられた方は、ぜひ「ひらめき☆マンガ教室」第7期へご参加ください。そうした点に反応したあなたなら、決して損はしないと思います。

申し込み締め切りは3月11日(月)正午までです。

それでは、また明日の更新でお会いしましょう。(遠野よあけ)

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