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MYC遺伝子について解説。

MYC遺伝子とは、細胞の増殖や代謝などに関与する転写因子をコードする遺伝子で、がんの発生や進行に重要な役割を果たすがん遺伝子の一つです。
MYC遺伝子は、塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)とロイシンジッパー(LZ)という構造モチーフを持ち、DNAに結合して標的遺伝子の発現を調節します。
MYC遺伝子は、分裂促進シグナルに応答して活性化され、細胞増殖や代謝を促進する遺伝子の発現を上昇させます。一方、MYC遺伝子は、アポトーシスや分化などの細胞の運命を決める遺伝子の発現も制御します。
MYC遺伝子の発現は、細胞周期や組織の恒常性に応じて厳密に調節されていますが、がん細胞では、染色体の転座や増幅、変異などによってMYC遺伝子の発現が恒常的に高まります。これによって、がん細胞は増殖や代謝の能力を獲得し、アポトーシスや分化の制御を逃れることになります。

MYC遺伝子に関する最新の研究成果の一つは、MYC遺伝子の発現が高いがん細胞の代謝特性を利用した新たな治療法の開発です。がん細胞は、正常細胞と比べて、グルコースやアミノ酸などの栄養素を大量に消費し、乳酸やアンモニアなどの代謝産物を多く産生します。このような代謝の変化は、がん細胞の増殖や生存に必要なエネルギーやバイオマスを供給するとともに、がん細胞の周囲の環境を酸性化やアルカリ化することで、正常細胞の機能を阻害し、がんの進展を促進します。
MYC遺伝子の発現が高いがん細胞は、特に代謝の変化が顕著であり、グルコースやアミノ酸の取り込みや代謝産物の放出が増加します。このような代謝の特性を標的とすることで、がん細胞の増殖や生存を阻害することができると考えられています。

例えば、国立がん研究センターの横山明彦チームリーダーらの研究グループは、MYC遺伝子の発現が高い膵臓がん細胞の代謝特性を利用した新たな治療法を開発しました。彼らは、ゲノム編集技術を用いて、膵臓がん細胞で約2万個の遺伝子を個別に破壊し、ゲムシタビン抵抗性の原因となる遺伝子を探索しました。
その結果、DNAの構成成分であるデオキシシチジンをリン酸化する酵素DCKの機能低下が、ゲムシタビン抵抗性の主原因の一つであることを見出しました。さらに、DCKの機能低下が、MYC遺伝子の機能と、グルタミンをエネルギー源として利用する能力を高めることを発見しました。
そして、これらの機能を抑える働きをもつ薬剤(MYC阻害剤、グルタミンアナログ)が、ゲムシタビンの効かなくなったがん細胞に有効であることを明らかにしました。
この研究成果は、膵臓がんの標準的治療薬であるゲムシタビンの効果がなくなった症例に対する、新たな治療法の開発につながるものと期待されます。

MYC遺伝子に関する最新の研究成果のもう一つは、MYC遺伝子の発現が高いがん細胞の分化能力を利用した新たな治療法の開発です。がん細胞は、正常細胞と比べて、分化の程度が低く、未分化な状態にあることが多いです。このような未分化ながん細胞は、増殖や移動の能力が高く、抗がん剤に対する耐性も強いです。一方、分化したがん細胞は、増殖や移動の能力が低下し、抗がん剤に対する感受性も高まります。
MYC遺伝子の発現が高いがん細胞は、分化の抑制に重要な役割を果たしていますが、一定の条件下では、分化の誘導にも関与しています。このような分化の能力を標的とすることで、がん細胞の増殖や生存を阻害することができると考えられています。

例えば、庄内地域産業振興センターの岡田斉主任教授らの研究グループは、MYC遺伝子の発現が高い白血病細胞の分化能力を利用した新たな治療法を開発しました。彼らは、白血病細胞に分化誘導剤であるビタミンA誘導体(ATRA)を与えることで、MYC遺伝子の発現が低下し、白血病細胞が分化することを見出しました。さらに、分化した白血病細胞は、抗がん剤に対する感受性が高まり、細胞死が誘導されることを発見しました。
この研究成果は、MYC遺伝子の発現が高い白血病細胞に対する、新たな治療法の開発につながるものと期待されます。

HOXA9がMYCと協調して白血病を引き起こすメカニズムを解明|国立がん研究センター (ncc.go.jp)

膵臓がんの薬が効かなくなるメカニズムを解明 治療が困難となった膵臓がんに対する新たな治療法開発へ | NEWS RELEASE | 近畿大学 (kindai.ac.jp)

ゲムシタビン抵抗性膵臓がん、MYC遺伝子やグルタミン代謝が新規治療標的候補に-近大 - QLifePro 医療ニュース

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