『君の名は。』って実はかなり『ギルガメシュ叙事詩』なんじゃないかという話
『君の名は。』について
ちょうど今、金曜ロードショーにて『君の名は。』が放送されていますね。
この作品は、2016年に公開された新海誠監督によるアニメーション映画なんですが、何よりももう6年も経ったのか……ということが衝撃です()
この物語は、岐阜県の糸守町という町に住む女子高生「宮水三葉」と大都会東京に住む男子高生「立花瀧」の精神が入れ替わるという、いわゆる「入れ替わりもの」の物語です。
以下ネタバレ注意!
超有名な作品なのでネタバレもクソもない気がしますし、なんだったらこの後の話は全部ネタバレになってしまっているので、警告の意味があるのかわかりませんが一応……
この話は普通の入れ替わりとは一味違います。
この二人の間には実は3年間のタイムラグがあり、瀧は3年前の三葉と、三葉は3年後の瀧と入れ替わっていたのです。
瀧の時間軸(つまり3年後の時間軸)では、三葉は彗星による大災害で亡くなってしまっていました。
二人は、大災害から三葉を含む住民らを守るために奔走する、というのがおおまかなあらすじです。
『ギルガメシュ叙事詩』について
じゃあ一方の『ギルガメシュ叙事詩』ってなんぞや? となりますよね。
モンストやパズドラなどのソシャゲでは、キャラクターとしてギルガメシュなどのメンツが登場しているため、名前だけなら知っている人は多いんじゃないんでしょうか。
この作品は古代メソポタミアの文学作品で、世界最古の文学作品とも言われています。
この物語は、ギルガメシュと無二の親友であるエンキドゥの二人組がさまざまな困難を乗り越えていく冒険譚でして(クソ雑)、当時にしては珍しく政治色や宗教色が薄く、分量も全然多くないので、現代人でもサクッと読めると思います。
で、なんの関係があんの?
で、なんの関係があんの?(復唱)
実は、『君の名は。』には様々な神話的世界観が盛り込まれています。
わかりやすいところで言うと、日本神話・神道・山岳信仰・岩石信仰・アニミズムなどですね。
加えて、彗星の名称である「ティアマト」も、メソポタミア神話の『エヌマ・エリシュ』という作品に登場する女神の名前から取られています。
ですので、ギルガメシュ叙事詩についても、何らかの参考にされているのかなぁと思ったんですけど、調べた感じでは全然それらしい情報が出てこなかったので、もしかしたら完全に私の妄想である可能性もあります()
「夢解き」の話
本題に入っていきましょう。
『ギルガメシュ叙事詩』には「夢解き」といういわゆる夢占いのようなものがよく出てきます。
夢といえば、『君の名は。』の本編でも、ヒロインの祖母「宮水一葉」のセリフでこんなのがありましたね?
作品中ではよく、入れ替わる前の状態を「現実」、入れ替わった後の状態を「夢」と表現されています。
実はこの『ギルガメシュ叙事詩』の夢解きと『君の名は。』の夢がリンクしている説があるんです。
夢①:天空神アヌと彗星
『ギルガメシュ叙事詩』の第二の書板には、このような記述があります。
ここで言うアヌは、天空を司る最高神でありながら、天に浮かぶ星そのものを表していると解釈されています。
つまり、「夢の中で降り注ぐ星々を受け止めようとしたが自分だけでは不可能だった」ということになります。
しかも、続きはこのようになっています。
その後、ウルクの人びとなどの協力のもと、ギルガメシュはアヌを受け止めることに成功します。
これ、めちゃくちゃ『君の名は。』じゃないですか!?
「三葉ひとりでは受け止めきれなかった彗星の飛来を、瀧との入れ替わりを通じて、テッシーやサヤちんなど町の人々の協力のおかげで、なんとか受け止めきる(死者を出さずにやり過ごす)ことができるようになった」
って解釈できませんかこれ!?(早口)
ちなみに、ウルクの人びとの中では、保守的な長老と進歩的な若者の間でちょっと対立があったりもします。
ここら辺ももろ糸守町やないかい!!
夢②:死期を悟るエンキドゥ
いきなりですが『ギルガメシュ叙事詩』の当該部分から読んでみましょう。
エンキドゥは自分が大神の会議にかけられ、死を決定されてしまう不吉な夢を見ます。
そしてエンキドゥはその後、決定的な夢を見てしまいます。
それこそが……
自分が死後の世界である冥界に行ってしまう夢を見てしまい、エンキドゥは自らの死期を悟ります。
『君の名は。』では、三葉の死に先に気付くのは瀧だったので、中盤まではずっと瀧(の中身が入った三葉)が活躍しますよね。
それこそ変電所爆破計画を立てたり、市長を説得しに行ったり、です。
しかし、それでは上手くいかない、三葉じゃないとうまくいかないということに気付いた瀧は、祠のあるクレーターへ向かい口噛み酒を飲みます。
そこで初めて、三葉は夢の中で(つまり瀧と入れ替わっている最中で)自分が死ぬ運命にあるということに気づきます。
これ、めちゃくちゃ『ギルガメシュ叙事詩』じゃないですか!?
瀧と三葉は、黄昏時にあのクレーターの淵で、一瞬だけ二人だけの時を共有しますよね。
一方でギルガメシュはエンキドゥの夢の内容を聞いて涙を流し、病に伏せて死へと向かう盟友と、わずかな時間を共に語らいながら過ごすわけです。
もちろん『君の名は。』は三葉が生還するので、『ギルガメシュ叙事詩』とは全く違うエンドをたどります。
しかし、このエンキドゥが死期を悟るシーンは、三葉が既に滅んだ糸守町を目の当たりにしてへたり込むシーンや、瀧が死者名簿の中に宮水家の名前を見つけたシーンのような感覚がありやしませんか!?
しますよね!?!?
しろ!!!!!
余談
以上、夢に関してこんな共通点があるよ! というお話でした。
しかし、最初にも述べた通り、『君の名は。』にはこれだけではなく様々な神話的表象が用いられています。
黄昏時の話
例えば、さっきの話でも出てきた、黄昏時の一瞬だけ三葉と瀧が邂逅するというところですが、この「黄昏時」には単なる時間的きっかけ以外にも意味があると思われます。
古来より日本では、日が沈む黄昏時の瞬間は、昼の景色から夜の景色へと風景が一気に変化することから、「様々な境界があやふやに混ざる瞬間」と捉えられていました。
ですので、例えば「現世」と「幽世」の境界が無くなると考えられたりしていたわけです。
まさに「瀧」と「死んだはずの三葉」の対比になっていますし、「現在」と「過去」、「祠の境界線の外」と「祠の境界線の内」のような時空間的な対比構造にも昇華されていますよね。
ティアマトの話
他にも、彗星の名前になっているティアマトは、死後に遺体を分割されて天地創造に充てらています。
『エヌマ・エリシュ』では、乳房が山となり、乳や涙が潤沢な水となって豊かな自然を作り出したという描写があり、隕石によって作られたクレーター、そのリム(縁にできる円環状の山脈)、湖、ひいては糸守町全体の豊富な自然を象徴する存在と言っていいのではないでしょうか。
P.S.
このお話は、大学で取った「神話論Ⅰ」の授業のレポート課題で書いたものを、取っつきやすいようにまとめて供養したものです。
パクると「コイツパクったな」ってバレるので注意してね。
とにもかくにも、岩田先生、本当にありがとうございました!
参考文献
新海誠.君の名は。.神木隆之介,上白石萌音出演.2016.コミックス・ウェーブ・フィルム,2016.
ちくま学芸文庫.ギルガメシュ叙事詩(矢島文夫訳).筑摩書房,1998.
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