実らない果実

 光だけがあったのだ。
 たった一つの、それが全ての。
 いつしか光は二つに分かれ、
 見る見るうちに、四つに割れて、
 八つに開いて十六に散り、
 どんどんどんどん小さくなって、
 隙間が生まれて虚無すら芽生え、
 気付いたそこには、闇が生まれる。
 明暗の狭間に熱の差が迸り、
 灼熱と氷結が碁石のように縄張りを競う。

 そして、
 その反動で温暖な果実が形造られる。
 たった一つの、それが全ての。
 いつしか果実は二つに分かれ、
 見る見るうちに、四つに割れて、
 八つに開いたその一つを差し出す。
「これは智慧の実、無知でいることこそが罪、分かる?」

 まず果実が存在し、そうして果樹園が作られる。
 経済とはそういうものだ。
 
 果樹園とは私だ。
 そこには薄白い光が揺蕩い、まだ刻もない。
 濃霧めいた白夜を幾星霜と越え、
 そうして果実をもぎる者が現れる。
 
 土塊から寂しく生まれたものは、
 おのれの肋を加工して伴侶となるべき形を捏ねる。
 こうして無知のまま互いの肋から同輩を作り、
 見る見るうちに四つに割れて、
 八つに開いたその頃に、
「何だかね、いつまでもこんなじゃ生きてる価値がないと思うの、分かる?」
 シャクシャクと音を立てて果実を頬張る。
 その断面、小さな虫喰い穴、
 薄い緑色したワームがのんびりと動いている。
 それが私だ。
 次の一口が果肉と共に私の身体も咥え込む。
 嚥下され、坩堝のような胃の腑へと。
 もぞもぞと蠢いてやがて温かな子宮へと辿り着く。
 そこには薄赤い光が揺蕩い、まだ刻もない。
 私は生まれ出るために、しばし眠りに着く。

 差し出されたそれはまるで土塊のようで、
 味も香りも分からない。
 ごくりと飲み込み、しばらく経って
 おくびとともに感じるこれが、
 なるほど智慧というものか、
 いやはやどうして俺はノーパン、
 色々困惑している間に私は精巣に辿り着く。
 いつしか私は二つに分かれ、
 見る見るうちに四つに割れて、
 あれよあれよと増え続け、蠢く多量なイキの良い精虫、
 それも私だ。
 
 ペニスは私で、誘う舌先も私。
 地に溢れる者が全て私だとしたら、
 所詮お前達は実らない果実。

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