新マンのこと

 ついこないだ、コロナのせいですっかり足の遠のいた都心の特撮ショップに出かけた時の話。
 ウルトラマンジャックとか宇宙怪獣とかのソフビをチェックしてのだけど、いまひとつピンとくるものがない。せっかく来たのでなんか買っときたいなと思いつつ、焦って選んでも失敗しそうなので、ひとまず店を出て、腹ごしらえをすることにした。
 昼飯ごときに予算をかけるつもりは毛頭ないので、コンビニで一番安いカップ麺を買う。お湯を注いで三分間、駐車場の片隅に胡坐を組んでふたを取り、そこで初めて割り箸をもらって来なかったことに気付いた。あーあこんな時にウルトラブレスレットがあればフォークやナイフやらに変形させられるのになあ、とか思った矢先に差し出される塗り箸一膳、「良かったら」と鈴の転がるような若い女の声がして、そちらの方を見上げると目元も涼しい気立てもよさそうな町娘、というか、ははあ、これはと思った次第。
「これはこれはかたじけない。早速使わせてもらいましょ。ずずずずずーっと、これはうまい。ささ、よろしかったら、おまえさんもどうぞ一口お食べなさい」
「あ、いえ、私は、あの、なんだか急に差し込みが」
「おっと、そいつはいけねえ、おうちの方まで送りましょ。さあ、あっしの背中におのりなせえ」
と、嫌がる娘を無理やり背負い、手足、身体を縄で縛る。
「おろしてください」
 娘は言うが、「親切へのお返しでさぁ」と耳もかさない。
「あのぅ、おしっこがしたいのです・・・・・・」
 消え入るような娘の声に、
「お前さんのような別嬪さんのおしっこなら、うふふ、それもまた一興、ほらほらわしの背中でしなされ」
「よくもまあそんな性癖丸出しのセリフを言えたもんですね、放してください、警察を呼びますよ」
「黙って聞いてりゃこの大狸、いけしゃーしゃーと愚にもつかねえ繰り言三昧、とっくに正体はばれてるんだ、この団三郎!」
 しばらく、間。
「郷秀樹は団次郎」
 しばらくの、間。
「え、違うの?」
という事件があったらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?