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トウヒ(雲杉) by 高見邦雄(GEN副代表)

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 2024年に新しく蔚県で植えることになったトウヒ(雲杉)。生育がよく、幹のまっすぐな、きれいな木で、大木の森林をみたときは感激したものです。私たちもたくさん苗を育てて植えたんですけど、冷涼な気候に適し、本領を発揮するのは高地です。
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 継続中の河北省張家口市蔚県における緑化協力、2024年は陽眷鎮鄭家窰村で、アブラマツ(油松)とトウヒ(雲杉)をそれぞれ10ha、18,450本、合計20ha、36,900本を植えることになりました。アブラマツは定番中の定番ですが、トウヒをこれだけの面積植えるのは私たちも初めてです。
 
 トウヒといって、すぐに思い浮かべてもらえるのは、クリスマスツリーのドイツトウヒでしょうか。本来のクリスマスツリーはモミですが、日本で多く使われるのはドイツトウヒです。トウヒは松かさが下向きにつき、モミは上向きにつきます。中国に13種あるマツ科トウヒ属のうちで、河北省や山西省に分布するのは、青杄(Picea wilsonii Masters)、白杄(P. meyeri Rehder & E. H. Wilson)、雲杉(P.asperata Masters)の3種で、多くは前の2つです。
 
 大きな面積を植えるのは初めてと書いたのですが、大同の協力拠点で大量の育苗をしましたので、なじみは深いのです。クリスマスツリーでわかるように、幹がまっすぐで、姿形がいいので、公園とか住宅とか街路樹とか需要は多いのです。

大同で育苗中のトウヒ

 多く育てたのは、青杄と白杄です。2種を並べれば、どちらがどちらか私にもわかったんですけど、1種だけ出されてもわかりません。蔚県でこれから植えるのも、おそらくこの2つが混じったもので、ふつうは「雲杉」で通ります。
 
 大同で最初にトウヒの育苗を始めたときは、大同から南西に200kmほどの芦芽山から幼苗を採ってきて育てました。20年以上も前のことです。海抜1700m以上の高山に、直径50cm以上のトウヒの大木が生い茂っていて、それはそれは圧巻でした。
 
 林野庁OBの相馬昭男さんがいっしょで、それをみて車が完全に停まるのを待たずに走り出しましたよ。フォレスター症候群といわれるものがあって、その1つが「フォレスターは大きなまっすぐの木をみるとうれしくなる。大きなまっすぐな木がたくさんあるのをみるともっとうれしくなる」なんですけど、まさにそのとおり。

トウヒと相馬さん

 大樹の下の薄暗いところで、精一杯、枝を横に広げ、少しでも太陽光を自分のものにしようとするトウヒの幼苗は、芽生えてから何年もたっていたようです。それを思いだして蔚県の技術者に尋ねたら、いや、苗圃で育てれば3~4年で50cmくらいに育つ、とのことでした。そして樹高1.5mくらいになれば、それからの生育は速いとのこと。
 
 宝塚市の自宅付近の公園にドイツトウヒが植えられていて、若苗のうちは育ちがよくて、姿形もよかったのに、大きくなると形が崩れ、上のほうが枯れるものもあります。同じようなことが大同でも起こっていました。あれって、なぜでしょう?
 
 彼らの生育適温にくらべて、気温が、とくに夜間の気温が高すぎるようです。日中に光合成をして、呼吸作用で夜間にも消費するんですけど、気温が高いと消費量が増えるよう。光合成量を呼吸による消費量が上回ると、体力がなくなり、病気になったり枯れたりするそうです。光合成量は葉の量、近似的には幹の断面積に比例し、呼吸による消費量は樹木の体積に比例するので、木が大きくなるほど呼吸による消費量の比率が高くなります。これから温暖化がすすめば、りっぱに育っていた森林に害が及ぶこともあるのでしょう。
 
 おいおい、じゃあ、これからトウヒを植えるってのはどうなんだい?陽眷鎮鄭家窰村の造林地は海抜1600mの高地ですので、すぐには心配はいらないでしょう。しかし気候崩壊とまで言われはじめたいまの温暖化、ある線を超えて、森林が壊れるようなことがあれば問題は一挙に深刻化します。

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