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植物を育てる(6)by立花吉茂

 前回までに、野生植物の種子は、硬実、休眠などの性質があって、簡単には発芽しないことを述べてきた。野生植物にとっては、生き残りのためにこの性質のDNAを獲得していたのである。しかし、これを人が育てようとして種子を蒔いたとき、少ししか生えず、また何年もかかったり、不揃いなのは管理上大変都合が悪い。そこで「促進処理」の発想が生まれる。
 
硬実種子の促進処理
 まず硬実種子であるかどうかの確認がいる。種子の周囲に果肉があればそれは硬実種子ではないから休眠打破の処理がいる(後述)。硬実種子は周囲に皮があるだけであり、しばしば翼や飾り物がついていることがある。

1. 浸水
 まず水に浸すのは、空の種子(皮だけ)の選別である。これは水に浮くから取り除く。そのまま1晩置くと吸水したものはふくらんでいるはずである。
 吸水した種子は間違いなく発芽するはずである。過半数がふくらんでいたら次の処理の必要はない。すぐ蒔き床に蒔けばよい(蒔き床の詳細は次回参照)。


2. 促進処理
 大部分のものが吸水しなかった場合は、a)熱湯処理か、またはb)濃硫酸処理をおこなう。
a)熱湯処理 マメ科の種子ならコップに種子を少量入れて熱湯(100℃)を注ぐ。完全に冷めてから、もう1晩浸水しておく。大部分の種子がふくらんでいたらOK。蒔き床に蒔く。少しの種子しかふくらんでいなかったら、選別してから再度熱湯処理をおこなう。2度やってもふくらまない場合は、濃硫酸処理に切り替える必要がある。
 吸水したかどうか、分かりやすいものもあれば、分かりにくいものもある。分かりにくい場合は少しだけ発芽試験にかけるのが良い。ガラスシャーレか植木鉢に蒔いて、暖かい場所において1か月程ようすをみる。たいていは発芽するが、出ない場合は濃硫酸処理である。
b)濃硫酸処理 濃硫酸は98%が使いやすい。50%以上なら有効である。瀬戸物か硬質ガラス容器に種子を入れて(半分以下)濃硫酸を注ぎ、一定時間後に濃硫酸を捨てて水洗する。そして、中和する。中和には通称タンサンと呼ばれている重炭酸ソーダの飽和溶液を用いる。そして何回も水洗を繰り返してから蒔く。濃硫酸の処理時間は1~15分位である。
(緑の地球72号 2000年3月掲載)

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