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世界の森林と日本の森林(その13)by 立花吉茂

導入と馴化
 前回に引き続き、他国の樹種を導入して育てる実験のお話。
 大阪市立大学付属植物園には日本の植物の樹林型以外にアメリカ区、オーストラリア区、ユーラシア区、アジア区があり、そこには大阪で育つ可能性のある植物が移入され、植えられている。苗を植えてからもう30年以上経っているので、育つものは育ち、枯れるものは枯れて、歯抜け状態になっている。比較的枯れずに育っているのは中国の植物が大半を占めるアジア区である。他の区も温度条件では育つ可能性があるのだが、降水量、湿度の違いから病虫害にやられたものが多いようだ。その点中国の東南部は日本とほとんど同じような降水量、湿度なので日本の照葉樹林と似た環境である。大阪は中国東南部に似て、世界の他の温帯地方に比べて病菌や害虫が多く、それだけ生態系が複雑なのだということができる。他国の植物が育つには、温度条件がほぼ等しいこと、雨量もあまり違わないこと、土壌条件も近似していることが挙げられる。しかし世界の温帯で日本とまったく同じ雨量の場所は少ない。
 気候的に似ているのはアメリカ合衆国東南部だが、そこには常緑樹はあっても種類が少なく、照葉樹林は成立していない。
 
生きた杉の輸入
 インド洋の南西部マダガスカルのすぐ東側にフランス海外県のレユニオンという島国がある。そこには、日本のスギが植林され、みごとに育っている。日本の造林樹種が海外で成功している唯一の例だろう。これには同国営林署の熱心な技術者の存在がある。日本に来てスギの面白さにひかれ、種子を導入して多数の苗をつくり、日本と同じ気温の高地に植えたのだ。レユニオンは南回帰線に近い熱帯だからだ。
 2000m以上の場所でみごとな成林があり、日本に帰ったような気がした。そして、農業試験場を訪ねてまた驚いた。熱帯、温帯の世界中の果物が標高別に全部そろっているのだ。責任者は「ないのは日本の柿だけだ」と言っていた。帰国後大量の柿の種子を送り届けたから、いまでは全部そろっていることだろう。ここの成功は、営林署の人も農業試験場の人も非常に熱心であり、知識レベルも高く、植物愛好家であったことだと思う。「日本のようにハード面だけかためるんじゃなくて、ソフト面が大切なんだ」とつくづく考えさせられた。
(緑の地球60号1998年3月掲載)

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