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人工的に日陰をつくってマツを植える~陰坡と陽坡(3) by 高見邦雄(GEN副代表)

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 乾燥した痩せ地に育つのはマツです。しかしマツは日向斜面にはむかないし、植える場所はほとんどが日向斜面。この矛盾を解決したのがある整地方法です。それはなにか?
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 乾燥がひどくて土地も痩せている、そんな土地でも育つ木といえば、なんといってもマツです。大同では主にアブラマツ(油松)とモンゴリマツ(樟子松)を植えました。ところが「陰坡的松樹、陽坡的柏」(日陰斜面のマツ、日向斜面のコノテガシワ)という成句が示すように、マツは陽坡に適さないのです。大同での緑化の課題は、面積が広く、緑化の進んでいない陽坡をどうするかでした。

 私たちは大同県(現雲州区)聚楽郷で1999年から采涼山プロジェクトに取り組みましたが、ここは典型的な陽坡。大同県と新栄区、陽高県との境界に采涼山(2144m)があり、その南麓に建設したのでこのように呼びました。

 大同市林業局で40年働いたベテラン技術者・侯喜さんが、大同事務所の技術顧問として陣頭指揮をとりました。とくに重視したのが植える前の整地です。等高線に沿って幅50cm深さ25cmほどの溝を掘り、掘りあげた土を溝の下手(南)に積んで土手をつくります。すると、溝と土手とで高さ50cmほどの土の壁ができます。マツの苗を溝の底に、この壁に沿わせて植えます。すると、その土の壁が人工的な日陰斜面になるわけです。小さいんですけど、苗も当時は地上部15~20㎝の小さいものなので、それが効果を発揮します。

 2004年の会員総会で吉良竜夫先生に記念講演をしていただきました。先生は自分のフィールドのモンゴルでの話をされました。そこでは天然更新のカラマツが人工的に植えたかのように一列に並んでいるのだそう。なぜでしょう? 倒木がつくる日陰に落ちた種だけが育つので、そのように一列に並ぶ。講演が終わるとすぐに私は先生のところに行き、大同の整地方法を紹介しました。すると先生は「そこまでの工夫をしているんですか」といって、感心しておられました。

 この整地法には、もう一つ意義があります。6~8月が大同では雨季なんですけど、その時期にこの作業をするので、「雨季整地」と呼んでいました。黄土は乾くとカチンカチンに固いんですけど、水を含むと軟らかくなるので、まずは作業がしやすいわけです。

 それで先ほどの溝と土手とを、等高線に沿って3m間隔でつくります。そして溝の底に株間1mで苗を植えました。これで1haあたり3300本を植えることになります。いまではずっと大きな苗を植え、1haあたりの本数は1230本ほどに減らしています。

 6~8月の雨期には、年間降水量400㎜の3分の2以上が集中します。隣りの溝と土手との3mの間に降った雨は、下手の溝に集まり、そこで土中に浸透します。9月になると気温はぐっと下がり、蒸発が抑えられます。そして10月末になると最低気温は氷点下になり、その雨水は凍結して、土中にそのまま保存されます。

 翌春4月に苗を植えるんですけど、地温の上昇とともに凍結水が融けて苗を育てるわけです。春に雨はほとんど降らないけど、前年の雨期の雨を保存しておいて、翌春の植栽に利用するわけです。この地方を知り抜くなかで生まれた草の根の技術ですね。

 このような整地を実施すると、すぐにわかる変化が草の背が高くなり、色が濃くなることです。そこの土地に水分が増える結果ですね。マツの苗にも効果的であることははっきりしています。
 あ、そうそう。この小さなマツの苗、植えた年とその翌年、冬の入り口に1本ずつ土を被せて埋めてしまいます。酷寒の乾いた風と春先の野ウサギの食害から守るため。そして4月初めに掘り出します。手間がかかったんですね。

 2023年8月に現地を訪れると、2000年前後に植えたモンゴリマツは樹高10mを超えて育っています。1本の樹木もなかった起工式から、ここまでくるあいだに、このような工夫がありました。

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