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世界の森林と日本の森林(その7)by 立花吉茂

乾燥地帯の森林
乾燥地帯といっても砂漠やステップやサバンナのような草しか生えない乾燥地ではなく、一応森林のできる乾燥気候地帯(B気候)の意味である。日本は全国的にA気候つまり湿潤地帯だからB気候地帯はないが、世界にはB気候地帯が多い。ユーラシア、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリアの各大陸のほとんどがB気候といってもよいくらいだ。お隣の中国は東部沿岸地域のみA気候で西部の大部分はB気候である。しかも最も乾燥した砂漠地帯が広い。
なにごとにも中間があるが、気候帯も中間帯つまり移行帯が存在するケースが多い。われわれが造林のお手伝いをしている中国山西省もその移行帯に位置する。しかし、山脈などの影響で、移行帯がなく、急に変わる場合もある。たとえばメキシコの東部は、中央高原から急に下降するが、その線上から急変して湿潤地帯に入る。BからAへの急変である。
 
暖帯落葉樹林
日本にも暖帯落葉樹林があるが、その境界ははっきりせず、常緑樹が混じったりすることが多い。クヌギ、アベマキ、コナラ林などであるが、尾根ひとつ越えれば変わってしまうような小スケールのものである。
暖帯とは温帯の南部で亜熱帯に接する地帯である。暖かさの指数では当然120を超えている。だから雨量が十分なら、常緑樹林が成立するのであるが、水が不足するから落葉樹林になる。それは一年を平均的に雨不足の場合もあれば、季節的に乾季、雨季的になる場合もある。
中国のほぼ中央部、揚子江中流域の南部に長沙という都市があり、その街はずれの自然保護地にあった暖帯落葉樹林は印象的であった。緯度的には亜熱帯に近いが、大陸であるため、温度の高低差が強く、寒さに弱い樹種は育たないようであった。ナンキンハゼ、エノキ、チャンチンモドキ、キリ、トウカエデなど日本の街路樹としてなじみのものばかりだった。
 
ユーカリの林
ユーカリの木はオーストラリアの特産品であるが、これは一応常緑樹である。一応とことわったのは、緑といっても褐色がかった銀色で、緑とはいいがたい色合いだが、落葉樹ではない。乾燥に強く、本来なら暖帯落葉樹林になるべき気候帯に発達している。日本で栽培するとかなり緑色が出るのだが、原産地ではまさに銀色であった。1属300種という大きな属だが、熱帯から亜熱帯まで分布しており、山の尾根筋に分布する種類や谷底の湿地に生える種類もある。オーストラリアは乾燥した大陸で、雨の降る時間で植生帯がはっきりと分けられる(図)。


同じような気候帯の世界各地に植林されているが、北米カリフォルニア、マダガスカル、南米ウルグアイに多く植えられて、まるで野生のように広がっている。日本にある古い木はグロブルスというタスマニアに多い寒冷地むきの種類で、江戸時代末期から明治の初期に宣教師がもたらしたものであるといわれている。多くの種類が導入されたが、湿潤日本には適せずいつしか消えてゆき、このグロブルス種だけが残っている。
(緑の地球第53号(1997年1月)掲載)
 


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