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カササギの森のマツが大きく育っています 成長調査報告 by前中久行(GEN代表)

 コロナ感染の状況が落ち着いて2019年以後できなかった中国訪問が4年ぶりに実現しました。8月に3名が現地を訪れ、気になっていた植樹地のその後の状況が確認できました。河北省張家口市蔚県ではこの4年間の植樹が計画通りに実施されていてその後の成長も順調なことを確かめました。山西省大同市では「カササギの森」一帯が緑の大地に変貌していることを再確認しました。
 「カササギの森」は「実験林場」とも呼び新しい多様な植物の植栽実験を含めて植樹した場所です。ここでモンゴリマツやナラの大きさを現地測定してきました。その資料によって現時点での樹木成長状態をお伝えします。
 モンゴリマツ(Pinus sylvestris var. mongolica)の中国名は樟子松です。自生地は大同よりも北方の地域ですが、幹が通直なので大同の北部ではよく植樹されています。大きさを測定したのは2002年に植樹された場所です。ほぼ4m×2m間隔に植えられており、1haあたり1250本の密度です。2010年以後2016年までは毎年幹の直径と樹高を測定していました。今回は期間があいて7年ぶりの測定で、現地滞在時間の関係で今回測定したのは23 本です。これに対応する場所の2010年の樹木数は24本なので枯れたのは1本だけとなります。写真は2023年8月のカササギの森の状況です。

黄色の丸枠のマツが調査対象

モンゴリマツが高さ10m程度までに育っています。すでに下枝おろしされていることが確認できます。取った枝葉は地元の燃料として役立っているのでしょう。
 個々のモンゴリマツの樹高とその平均値の経時的成長が図1です。2010年の平均樹高210 cmが2016年には447cm、2023年には841cmになりました。2018年以後の平均では1年間で55cm程度成長していることになります。大きなものは約1000cmになりました。樹高は順調に成長しています。今後の継続な成長に期待が持てます。


 個々のモンゴリマツの幹直径(樹高の10%の高さにおける直径に換算)とその平均値の経時的成長が図2です。平均幹直径は2010年の6.0cmが2016年には9.4cm、2023 年には10.1 cmになり、太いものは19cmになりました。2016年以後の幹直径の成長をみるとそれ以前にくらべるとやや鈍化傾向があります。枝張面積が大きくなり樹木間で太陽光の相互遮蔽が始まっている可能性があります。


 黄土高原の元々の植生がそのようなものであったかは判然としませんが、高原部分に接する山地の下部は、ナラを主体とする植生であったと想定しています。そこで「カササギの森」ではモンゴリナラ(Quercus mongolica)の植樹をしています。中国名は蒙栎です。モンゴリナラの列と油松の列を交互に配置して2003年に植樹しました。2012年に測定開始して、2016年まで毎年測定していました。今回は7年ぶりの測定です。モンゴリナラ17本について測定しました。モンゴリナラは株立ち状態になり一本一本の幹直径の測定が困難で、株全体の樹高だけを測定しました。
 個々のモンゴリナラ樹高とその平均値の経時的成長が図3です。平均樹高は2012年の70 cmが2016年には118cm、2023年には194cmになりました。2014年から2016年頃にかけて樹高成長が鈍化した時期がありますが、2016年以後は成長再開の傾向が読み取れます。モンゴリナラの樹高成長は比較的緩慢で年によって差がありますが、確実に成長を続けています。すでに果実(ドングリ)の着果を確認しています。地表に落葉が堆積して保水性が高まれば着地したドングリからの芽生えで天然更新も期待できます。


 モンゴリマツ、モンゴリナラともに荒れ地を緑に回復するという初期目的は達成されたと思います。
モンゴリマツについては、樹木間の競合が始まっている傾向があります。次の段階として、場所毎に森林生態の回復、木材生産、下枝の燃料利用など地元が望む目的に応じてそれぞれに適した管理手法を考える時期になったのでしょう。


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