世界の森林と日本の森林(その9)by立花吉茂
日本の森林
日本の森林は、南西部の照葉樹林と北西部の落葉樹林、それに北海道の一部に針葉樹林があるが、南の森林ほど構成樹種数が多い。それは南ほど暖かいからである。世界各地では暖かいことよりも雨の量がそれを決める地域の方が多い。日本はおしなべて雨量が多く、年間1,000ミリ以下のところはほとんどないからである。先進諸国でこ
れ程森林に恵まれた国はない。樹種数の多さは抜群である。この多様性があるがゆえに日本は緑が多い。森林を切り倒しても多数の樹種からなる二次林ができるのである。
照葉樹林構成樹種の種子発芽
かつて、西日本にはシイ、カシを中心とした常緑樹が茂っていた。これらは社寺林などに残されているが、不思議なことにその種子の発芽についてはほとんど調査されていない。先般この欄でドングリ類の発芽のデータと二次林の先駆植物の種子発芽についてふれたが、ここでは形態分類上の2群の発芽の違いを図示してみた(図)。
日本には15種のカシ(ナラ)がある。分類学上はコナラ属と呼ぶ。先日の朝日新聞に英語のオークは樫ではなく、楢だ、とか、いや樫でよいとか漢字で書いていた。生物学では混乱を避けるためにカナで書くことになっている。樫はアカガシ亜属、楢はコナラ亜属に属するからはなしは簡単だ。この両者の発芽の特性が全く違う。常緑のアカガシ亜属では、秋に熟して落ちた種子は、越冬してから、春になって根と芽をいっせいに伸ばす。落葉性のコナラ属では落ちたらすぐに根だけを伸ばし、翌春に芽を伸長させる。寒い地方に分布する落葉性の種類は、ドングリを食べるリスやネズミからの食害をふせぐために根だけを出しておくのであろうか? そこまでは考えすぎだろうか? ともあれ分類学上の2群と発芽特性の2群が一致しているのが興味深い。
(緑の地球55号(199年5月)掲載)