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世界の森林と日本の森林(その12)by 立花吉茂

導入と馴化
 われわれがおこなっている黄土高原の緑化にはアブラマツとモンゴルマツが用いられているが、昔、これらが黄土高原に繁茂していたという確証はない。もしこれらが不適であったとすれば、この緑化の仕事は失敗に帰する。そうならないためには、なんとか昔の植生を知るための努力をしなければならないし、またより適当な樹種の導入が必要になる。また地域ごとに雨量などが不安定、不規則なため、これらの正確なデータの把握も必須である。この必須の3点はまだほとんど調べられていないまま、毎年植樹がおこなわれている。筆者はこの点に危惧を抱いている者の一人である。
 ここでは3点のうちの導入と馴化の問題にからむ過去の経験をご紹介して批判をあおぎたい。
 
アクリマチゼーション(Acclimatization)
 自然の分布地域とよくにた気候環境の別の地域に植物を移し植えると、気候がぴったりの場合は90%以上が定着して繁茂する。あまりぴったりでない場合は90%以下、かなりよくない場合は数%しか定着できない。しかし、定着した株が親となって2代目の種子ができ、その苗が育つと、こんどは定着率が少し上がる。7~8代重ねると90%以上の株が定着するようになる。これは典型的な例であり、いつもこうなるとは限らないが、このような人為的分布領域の拡大は、その植物の多様性のなかから、そこに適した遺伝子をもっていた個体が生き残ったことを意味する。多様性の大きさは種によって異なり、まえもって予測することは不可能にちかい。
 
暑さと乾燥の馴化
 寒い地方から暖かい地方へ移された植物は、最初10~20年はよく成長するがやがて成長率は低下し、害虫や病気で枯死する株が出現する。これは、寒い地方は、暑い期間が短いから、それに馴れた植物は、暖かい地方の暑い長い夜の呼吸消耗によって、昼間の光合成でえた養分を使い果たしてしまい、マイナス成長になって衰弱し、病虫害が引き金となって枯れると考えられる。適当な降水量のある地域から乾燥した地域へ移された種もまた同じような事が起こっていると考えられよう。
(緑の地球58号 1997年11月掲載)

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