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前月比+2000%!!

 小田玄紀です

 先月には200万円台だったビットコインが430万円を超えてイーサリアムも12万円を超えて、暗号資産(仮想通貨)市場は非常に盛り上がっています。そのような中で実は前月比+2000%超になっているものがあるのですが、分かるでしょうか?

 ビットコインやイーサリアムでも+100~150%であり、一部の暗号資産(仮想通貨)で+200~500%となっているものはありますが、そんな比ではありません。

 リミックスポイントの株価や業績・・・では残念ながらなく(今のところは)、実は答えは「電気の市場価格」です。

 電気には事業者が売買する市場があり、日本卸電力取引所(JEPX)という市場が中心的な市場となっています。

 昨年12月からこの市場価格が異常に高騰しています。

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 こちらは昨年12月7日時点のJEPX価格です。平均価格で5~6円/kWhで電力価格が取引されていました。小売電気事業者は相対電源や自社電源、そしてJEPXなどから電力を調達し、需給管理をして電力需要家に対して電気を供給しています。

 電力会社の地域毎(北海道電力管内、東北電力管内、東京電力管内など)で30分単位で需要に応じた電源を調達して供給しており、電源調達価格に加えて託送料(電気を送る費用)や販売手数料や営業経費などがかかってきます。

 急激に暑くなり冷房需要が高まる夏期や急速に寒くなり暖房需要が高まる冬期は一時的に市場価格が高くなることはこれまでもありました。そのような兆候が出てきたのは12月16日頃のことでした。

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 電気は翌日分を当日購入します。上記は12月17日受渡分のJEPX価格であり、平均価格で24~30円/kWh程度になり、最高値が60円/kWhとなりました。

 このような日が数日続くことはこれまでもしばしばありましたが、現在はこの状況が1ヶ月程度継続しています。

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 そして1月8日付けの受渡価格が100円/kWhが平均となり最大120円/kWhを超えました。

 12月7日には5~6円/kWhで取引されていた価格が120円/kWhとなったのです。文字通り+2000%の価格となります。

 今回、注目するべきなのは価格上昇の要因です。これが需要が急増したためということであれば納得できるかもしれません。ところが、前述の12月7日時点の取引量を見ると949,592,450kWhであり、1月8日時点の取引量を見ると900,651,550kWhと実は1月8日時点の取引量の方が12月7日の取引量よりも少なくなっています。

 電気もビットコインと同じで価格は需要と供給によって決まってきます。実は今回の電気市場の価格高騰要因は供給量が追いつかなかったというためになります。

 この要因としてLNGが不足して日本の電力会社が適切に調達出来なかったことが指摘されています。

 LNGは長期保存が出来ずに需要を想定して調達を行っています。日本は海外からLNGを調達していますが、アメリカやオーストラリアのLNG製造拠点で不具合があり、また、パナマ運河が新型コロナウイルスの関係で混雑が続いてしまい計画通りのLNG調達に難航しています。

 日本においては発電全体の40%程度をLNG火力発電に依拠しています。その他、石炭や石油発電で40%程度であり再生可能エネルギーなどは10%弱となっています。

 今回、この主要なLNG火力発電がLNG調達が難航したために供給制限がかかってしまっています。

 こうした状況を受け、日本全国で電力融通をする動きが出ています。石油やガスの備蓄を発電用に優先的に融通する取組みを行ったりしていますが、それでも電力需給は今日の寒波などもあり逼迫しています。

 電力需給が98~99%となっている地域もあり(通常時は80%程度。高くても90%)、これが100%を超えてしまうと家で電気を使いすぎるとヒューズがとんで停電になるのと同じでブラックアウトつまり大規模停電に繋がります。

 このような状況は小売電気事業者に対しても大きな影響を与えます。リミックスポイントの場合は幸いにも相対電源の調達等で一定程度をヘッジをかけることが出来ましたが、JEPXでの調達に依拠していた小売電気事業者は経営が成り立たないところも出てくるはずです。なお、そのような中で小売電気事業者の1社であるLooop社は非常に男気のある発表をしました。

 困っている新電力を助けるための相談に応じるというプレスリリースを昨日出しています。このリリースはかなり勇気がいったものでしょうし、実際に同じような経験をしたことがある人でないと今回の事態は理解出来ないです。

 電力価格の高騰は2~3年に一度程度あり、2017年にも同様の経験をしたこともあり、Looopさんは今回の事態を上手くヘッジすることが出来たために困っている他社をサポートするということを決めたようです。同業者として、この取組みには心から敬意を表しますし、リミックスポイントとしても同じように業界のために出来ることをサポートしていきたいと改めて決意をするきっかけになりました。

 さて、今回の件で諸々の解決すべき課題が浮き彫りになってきました。

 ①市場の価格決定メカニズム
 ②発電方法の多様化
 ③今後の電力価格について

 いくつかありますが、主に3つの点に搾って考察をしていきます。

①市場の価格決定メカニズム

 今回、JEPX価格の高騰の要因としては供給量つまり売り手が減ったことになります。そのため、価格が高騰することは仕方ありません。ただ、だからといって100円/kWhを超えることについては、その価格決定メカニズムがよりクリアにしていく必要はあると考えています。

 今回、LNGの調達価格が上がっていることは事実です。しかし、だからといって100円/kWhにはなりません。LNG価格は100万BTUあたり12月はじめに6ドル程度だったものが20ドル程度にまで上がってはいます。このことから考えても市場価格として20~30円/kWh程度になるということは合理性があります。

 今回、それを超えて100円/kWhとなってしまうのは市場としての価格決定メカニズムに課題があるためと考えられます。売り側も当然100円/kWhで売ろうという意志があって指し値をしている訳ではなく、システム上そのような約定価格になってしまうという構造があります。

 何よりもボラタリティが高いと言われていた暗号資産(仮想通貨)取引所を経営している自分が言うので、ここは間違いないのですが、ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)でさえも急激な価格変動が生じた際には要因分析は行いますし、また、異常値は弾くようなシステムが設計されています(たとえば、市場価格430万円の時に誰かが大量に5万円とかで売りをしても、その売りの約定はされますが市場価格が一気に5万円になるなどはシステム上なりません。サーキットブレーカーのようなもので市場全体を考慮して適切な価格となっていきます)。電力市場の価格決定メカニズムにおいても、もしこうした要素が反映されていないのであれば、早急に是正をすることが求められます。

②発電方法の多様化

 また、もう1つには発電方法の多様化です。今回は日本の総発電の40%を占めるLNGの調達が適切に行えなかったことを起因として、このような逼迫した電力需給となっています。

 2050年までのCO2排出をゼロにする取組みは非常に意義があることだと思いますし、石炭発電所についても原則廃止していくという姿勢については、個人的にはもちろん賛成です。

 ただし、物事にはゼロ・イチという議論はなく、かならずメリット・デメリット、リスク・リターンを考えて判断をしていく必要があります。

 今の日本社会の風潮では原発については反対派が非常に多いです。個人的にはもちろん原発ではない再生可能エネルギーで全ての供給が賄えれば、これほどいいことは無いと思っています。ただ、今回の事態を踏まえて原発を含めた発電方法の多様化については再度検討が必要になります。

 これは非常に皮肉なことなのですが、CO2フリーにするために、もっとも環境破壊が少なく、最も経済的な電源は現在の技術では原発になってしまいます。科学的には究極のCO2フリーな発電方法が原発です。

 太陽光発電について2012年より携わってきましたが、やはり太陽光発電も自然環境への影響はあります。また、夏期は別ですが、今回のような冬期において雪が降ると発電が出来ません。

 風力は可能性があります。今後、洋上風力に政府として力を入れていくことは非常に意義があります。ただ、日本では3年ほど前に小風力が非常に注目されましたが、ほとんど上手くいっていません。これは日本には四季があり、風が一定方向に吹かないためでした。実際に小風力事業に私自身チャレンジしたので、このことは身をもって感じました(当時は日本の主力発電にしていきたいと意気込んでいました)。洋上風力であれば可能性はありますが、まだ確立していない電源に依拠することはリスクがあります。

 地熱発電も可能性があります。むしろ日本では地熱発電に対する投資はもっと行われるべきであり、利用可能な国土面積や地震国家であることからも地熱発電はより注目されるべきです。ただし、これも実際には現在の技術では発電量に限界があります。

 個人的にはバイナリー発電には今、注目をしています。温度50~60度で沸騰するバイナリー発電技術がいくつかあります。これが上手くいけば、温泉などでも発電をすることが可能になります。日本に数多くある温泉(どこでも温泉をひけます)を活用するバイナリー発電は今後、日本にとっては最も注目されうる技術だと考えています。いくつか実証実験を見守っているところですが、これが確立できれば大きくエネルギー環境は変わってきます。

 このように様々な選択肢にはそれぞれメリット・デメリットがあります。ただ、間違いなくいえることは全ての選択肢にメリットだけでなくデメリットもあります。「原発を使わない」という選択肢もメリットだけでなく、デメリットがあります。現在のこのような状況だからこそ、様々な選択肢は考慮に入れて検討をすべきだというのが意見です。

③今後の電力価格について

 なお、今回のようなLNG価格の上昇が続いた場合に、間違いなく電力料金は上がってきます。

 これは電力価格の推移なのですが、工場などの高圧は現在平均で14~15円/kWh、一般家庭などは22~24円/kWhとなります(地域電力によってバラツキはあります)。

 2016年頃は高圧は23~25円/kWh、低圧は30円/kWh程度だったので、電気料金はこれまで大きく下がってきました。これは電力自由化によって小売電気事業者が参入してきたことの恩恵は非常にあると思っています。

 また、今回のLNG価格高騰を受けて、これも小売電気事業者がいない場合には電力会社が恣意的に価格を上げていた可能性は否定できません。現在のJEPX価格が来週中頃に沈静化してきた場合には数円程度の価格上昇で落ち着く可能性はありますが、仮に2月末までなど長期化した場合は、最低でも6~10円/kWh程度の値上げにはなり、最悪の場合は3~5倍に電気料金がなる可能性があります。

 しかし、電力は国民生活や経済活動の基盤です。新型コロナにより経営状況が厳しくなっている中で、電気料金が3~5倍というのは当然に受入れられないことと思います。

 そのためにも、我々小売電気事業者がいるのだと思っています。適切な競争環境の中で、需要家に対して少しでも安い価格で電気を販売していくことで、生活と経済活動を底支えしていくことが出来ます。仮に、以前のような大手電力会社しか電気を販売出来ない場合には、気付かない内に価格上昇がしていた可能性があります。ここに選択肢を与えること。これが小売電気事業者の使命だと考えています。

 もちろん、今も電力会社の発電部門の方は非常に高い志で取組みをして頂いています。また、送電部門の方は災害時などにはすぐに駆けつけ、停電の復旧作業などにあたっています。我々、小売電気事業者も大手電力会社の発電部門から電気を購入し、また、送電部門に託送料を支払って電気を供給して頂いています。そのため、大手電力会社も完全に競合ではなく、大事なパートナーです。

 今回、コロナ渦において実は電気市場で大きな動きがあり、これが今後の国民生活や経済活動にも大きな影響を与えうるということ、まだ多くの方にとって知られていないことなので、ここに現状をまとめさせて頂きました。

 なお、まず我々一人一人に今、出来ることは可能な限り節電をすることです。

 『STOP感染症 and Turn off 電気』

 これが今、日本人が日本のために出来ることです。緊急事態宣言が発出され、夜20時以降の活動は制限をするようにとなっています。もし、政府が20時以降の電力使用を制限するためにこの取組みをしていたとしたら、凄いことだなと思いますが(たぶん、それはないです)、いずれにせよ、余剰電気はなるべく使わないように、皆さん一人一人が意識をして頂けると幸いです。

 2021年1月9日 小田玄紀

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