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電気のはなし

 小田玄紀です

 先日、以下のnote記事で電力市場が異常事態になっていることをお伝えしました。

 この段階においては、この問題が新電力事業者に限った話という認識が関係者の間でも強かったのですが、上記のコラムでも書いた通り、この問題は新電力事業者に限った話ではなく、日本全体のブラックアウト(大規模停電)に繋がる可能性がある話であり、また、JEPX価格の高騰は新電力事業者の経営課題だけでなく、旧一般電気事業者の経営や国民生活・企業経済活動の基盤である電気料金にも影響する話ということが徐々に理解をしてもらえるようになってきました。

 先日のNoteを書いた際にはJEPX価格が100円程度でしたが、その後価格はさらに上昇を続けて、昨日には250円/kWhというさらに高い金額を付けるにいたりました。

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 また、電力需給も逼迫し、1月12日には各地域で90%を超える電力使用状況となりました。

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 北海道、東北地域では電力使用率98%とありますが、これは極めて危険な数値です。仮に電力需給が100%を超える場合は需要が供給を超えてしまうために最悪のケースでは大規模停電(ブラックアウト)に繋がる可能性もあります。

 通常は80%程度にこれが維持されることが適切であり、急激な電力需要が出てきた際にも供給が間に合うことが電力需給には求められます。

 ちなみにリアルタイムの電力受給状況はこちらから見られます

直近だと

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 となっておりやや落ち着いています。これは明日がやや暖かく、暖房需要が減っていることなども考えられます(夜だからというのももちろんあります)。

 さて、今回のJEPX価格の高騰を受けて、今週はいくつかのニュース番組や雑誌などでもこの問題が取り上げられるようになりました。これらの中でいくつか間違った認識に基づく記事もあるため、ここに可能な限り正確な情報をお伝えしたいと思います。

 まず、1つが『新電力に契約しているところは2月の請求金額が3~5倍になる!』というような記事です。

 今回のJEPX価格高騰を受けて、多くの新電力が経営危機に陥っています。これは顧客からの電力料金は当月締めの翌月末払いが一般的ですが、小売電気事業者はJEPX(日本卸電力取引所)から電力を調達する場合に、まず、購入金額以上の保証金を積む必要があり、また、当日約定した分については翌営業日までに支払う必要があります。

 つまり、最大2ヶ月分の資金を新電力は負担する必要があることになります(もちろん、顧客からの電気料金には電源調達コストだけでなく、電気を送る託送料や再エネ賦課金や諸経費も含むため、単純に2ヶ月分にはなりません)。そのため、小売電気事業を一定の規模営むためには相応の資金が必要になってきます。

 ただでさえ、資金繰りが厳しい中で今回、JEPX価格が異常高騰をしてしまったために、資金繰りがさらに圧迫し、経営難となっている新電力が多いことは事実です。

 また、上記の記事に記載のあるように、新電力の中にはJEPX市場価格と完全連動した電力契約を顧客と交わしているところもあります。確かに、こうした契約をしている場合には2月の電気料金が異常に上がってしまうところがあることは事実です。

 ただ、こうした契約をしている新電力事業者は全体の中でもごく一部であり、「新電力と契約をしているから電気料金が上がる」というニュースは誤りです。

 また、市場価格連動型プランというのも様々なタイプがあります。実は、この市場価格連動型プランを国内の新電力事業者で最初に始めたのがリミックスでんきです。

 リミックスポイントでは2015年12月に小売電気事業者の登録を受け、小売電力事業を本格的にスタートしましたが、初期の頃は収益構造が中々確立しませんでした。これは顧客から頂く電気料金は一定額なのですが、JEPX市場価格が乱高下をするために売上が上がれば上がる程、赤字になる可能性がありました。

 当時は主な電力調達先はJEPXだったため、そこでJEPXと連動する燃料調整費制度を導入しよういうことになりました。

 ここで、燃料調整費制度というのが何かということを簡単に整理しておきます。

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 燃料調整費制度というのは、従来は電力会社が安定的に経営を出来るように主な原価である燃料費用について、原油・LNG・石炭の貿易統計価格を基準として電気料金に加算・減算されるものです。この制度により、電力会社は余程の放漫経営をしない限りは安定的な収益が約束されました。

 そして、実はこの燃料調整費はここ数年で大きくその金額が変化してきました。

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 これは平成26年6月時点の燃料調整費ですが、+2.8円/kWhとなっています。当時において低圧需要家の電気料金は平均すると28~30円/kWh程度でした。つまり電気料金の10%相当がこの燃料調整費によって上がっていたことになります。

 他方で

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 これは直近の東京電力の低圧の燃料調整費です。▲5.2円となっています。直近では新電力の参入もあり日本の電気料金は劇的に下がりました。低圧需要家の電気料金は平均すると22~23円/kWh程度となっています。つまり電気料金に対して25%程度がこの燃料調整費によって下がっていることになります。

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 直近2カ年の電力会社毎の燃料調整費の推移がこちらの表になりますが、地域毎によっても大きく差があり、また、この2年間でも全体的に燃料調整費が下がっていることが確認されます。

 この下落要因にあるのが、LNG価格や石油・石炭価格の下落にあります。このため仕入れが下がった分については顧客に還元しよういうことで燃料調整費はここ最近ではマイナスとなっていました。

 燃料調整費制度が、元々は電力会社の経営安定化のために導入されたものであることから、当社のような新電力は電源調達が主にJEPXであることから、JEPX価格に連動した電力プランを導入しようと思い、2016年12月に市場価格連動型プランというものを打ち出しました。

 これは、当時においては小売電力事業で収益を上げることが中々厳しく、売上が上がっても燃料調整費の関係で赤字になってしまうことがあったために経営判断として、この導入を考えたのですが(当時は燃料調整費制度のことをかなり研究しました)、この計画を発表した際に社員・代理店・取引先などほぼ全ての関係者から大バッシングを受けました。。。

 当時は燃料調整費を変えるということはあり得ないという概念が定着しており、そんなことは絶対に出来ない。そんなプランだったら営業はしたくないということを営業社員から言われました。

 その後、様々な試行錯誤を受けて現在導入しているのが、独自の燃料調整費制度です。

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 市場価格連動プランの場合には、今回のようにJEPX価格が急騰した際には顧客の電気料金が異常に高い金額になってしまいます。これは顧客にとって過度に不利益な契約になります。

 他方で通常の燃料調整費制度を導入した場合には、今回のようなJEPX価格高騰した際には事業者として経営リスクを抱えることになります。さすがにこのJEPX価格の場合には、よほどの資本力があったとしても再起不能になる水準かと思います。

 リミックスポイントで採用している独自燃料調整費制度というのは、こういたリスクを平準化するものです。まず、市場価格についても6ヶ月平均を採用しており、また、相対電源の調達を行い市場価格のみのリスクをヘッジしています。

 確かにここ最近はJEPXの市場価格は下落傾向が続いており、市場から調達した方が安く電源を調達できる時期が続いていました。リミックスポイントでも、他の上場企業で小売電気事業を営んでいる企業と収益を比べられて「他社はもっと利益率が高いのに、なぜリミックスポイントは利益率が低いのか」という意見を株主からも頂いたこともありました。

 ただ、ここはリスク・リターンの関係があります。当然JEPXで調達をした方がより高い収益を得ることが出来ますが、事業を行う以上、適正利益というものがあり、また、リスクヘッジは何よりも重要になります。

 また、小売電気事業を営むにあたり大事なことは電力会社とのパートナーシップです。リミックスポイントでは旧一般電気事業者とも日頃から良好な関係を構築しており、ベースロード電源などを購入するなどの取引関係を構築してきました。

 小売電気事業者として旧一般電気事業者は競合・ライバルという関係だけではなく、パートナーという関係でもあります。実際に旧一般電気事業者においても小売部門・発電部門・送電部門と大きく3つの部門に分社化されていますが、小売部門については競合になったとしても発電部門・送電部門については我々小売電気事業者の重要な取引先であり、小売電気事業者は発電部門から電源を調達し、また、送電部門に託送料を支払って電力供給をしてもらっています。

 燃料調整費に関する話から多少それてしまいましたが、いずれにせよ「新電力と契約している需要家が2月以降電気料金が急騰する」というのはミスリードであり、適切な契約関係にあればそのようなことはありません。

 また、もう1つのミスリードが「新電力は電気料金が上がってしまう。やはり大手電力が安心だ」という意見です。こうした意見はこれまでに説明した燃料調整費の仕組みを考察すれば間違っていることが分かると思います。

 燃料調整費は「LNG・石油・石炭の調達価格」によって増減します。今回のJEPX価格上昇要因の1つがLNGガスの価格高騰によるものになります。これが上昇している以上、電力会社の燃料調整費も必然的に上がっていきます。

 燃料調整費は3ヶ月毎の価格調整になるため、3月~4月以降の大手電力会社の燃料調整費も上がっていくことになります。つまり、新電力に契約していようが、大手電力会社に契約していようが、日本の電気料金は今後上昇していく可能性があるのです。

 そして、ここにこそ新電力が存在している意義があると思っています。

 日本の電力価格はここ数年で飛躍的に下がってきました。6~7年間で10円/kWh程度下がってきました(これは3分の1位の下落になります)。この1つの要因は競争環境が生じたことにより、電力会社としても大幅な値上げは出来にくくなったということが挙げられます。

 今回もLNGガス高騰により電気料金の値上げは避けられません。ただし、ここに新電力の存在があることで上昇幅が適正価格に抑えられます。

 これは結果的に国民生活・企業経済活動にとって非常に意義があることです。新電力は大手電力会社に比べて、基本料金を下げるプランを提供しているところが多いです。この場合は、必ず基本料金部分においては大手電力会社よりも安い金額になります。

 各社のプランはマチマチですが、概算では新電力に切替えると従来の電気料金よりも10%程度安くなっています。

 LNGガスの高騰により、今後一時的に電気料金は上がっていく可能性があります。それは大手電力会社で契約をしていても、新電力で契約をしていても同じことです。それであれば、10%程度電気料金が安い新電力にしておいた方が上げ幅が抑制されることになる訳です。

 電気は極めて身近なものですが、電気料金の仕組みなどは多くの人が正しく理解をしていません。もう少し書きたいこともありましたが、長くなってしまったので、まずは今日のNoteはここまでにしたいと思います。

 なお、参考までに今回のJEPX価格高騰によるリミックスポイントのリリースも紹介いたします。

 上記にも述べてきたように、リミックスポイントの場合は低圧需要家(一般家庭などです)については全て相対電源を調達しているために、低圧需要家においては影響が一切ありません。

 高圧需要家においては独自燃料調整費制度を導入しているため、今後のJEPX価格が継続して高値を維持する場合には影響が生じる可能性はあります。しかし、その影響額についても上記で述べた通りに異常な高騰というよりはLNGガス価格高騰による上昇分として適正なものになります。

 また、12月中旬から相対電源の確保に急遽動き、1月分については多くの部分について相対電源の調達も出来ました。こうしたこともあり、電力需要家の方が過度な負担がかからないような対応をさせて頂いております。

 異常事態が起きると偏った情報に惑わされてしまうこともあるかと思いますが、このコラムで少しでも電力業界の現状理解に繋がれば幸いです。

 2021年1月15日 小田玄紀

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