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経営に活かしたい先人の知恵…その41

◆なぜ子孫の代で衰退するのか◆


 経営の世界をフィールドワークにして40年超になるが、改めて痛感しているのが、組織を持続することの難しさだ。一代で企業を立ち上げ、名を成した経営者は数多くいるが、終わりを全うできなかった経営者もまた多い。首尾よく事業承継できたとしても、その後衰退する企業も目立つ。

 持続的に成長できず、終わりを全うできない組織が多いのは、昨今の日本に限った話ではない。二代目、三代目と続くにつれて弱体化していくことは、古の中国も同じだった。唐の二代目皇帝・太宗が反面教師とした随は、建国者の楊堅こそ、優良なリーダーであったが、3代と持たずに崩壊してしまった。

 太宗もこの点が気になっていたようで、「昔から、子孫の代になって国が乱れることが多いのはどうしてだろうか」との問いを、側近に投げかけている。房玄齢の答えは次のようなものだった。

 「君主の幼い子どもたちは、庶民と接することもなく成長し、幼い時から豊かで高い地位にあるために、世間知らずで、何が真実で何が偽りかも理解できません。また、国家を治めるについて、何が安全で、何が危険であるかを、まったく知ることがありません。これが子孫の代で乱れが多い理由であります」。

 子孫の代で乱れが多いのは、日本も同じだ。江戸時代の川柳に、「売家と唐様に書く三代目」、とあるし、現代でも、隆盛を誇りながら衰退した企業は数えきれないほどある。その原因は、房玄齢の指摘通りと考えて間違いない。

 高碕達之助氏(東洋製罐創業者・元通産大臣・初代経済企画庁長官)は、組織をダメにする二代目の共通項として、「一にジェントルマン(格好をつける)、二に吝(お金はあるのに、出すべきときに出さない)、三にビジョンなし、四に人を信ぜず、五に度胸なし」と挙げている。

 後継者の育成には、房玄齢、高碕氏の指摘を反面教師とすればいい。君主の子ども、社長の同族といえども、乳母日傘で育てなければよいのだ。成功する後継者は、まさにそういうタイプだ。太宗は二代目皇帝だが、父親と創業の苦労を共にしてきただけに、房玄齢の指摘とは縁遠いタイプであり、それ故に、希代の名君に成り得たのだ。

 日本では、創業者の評価が高くなる傾向にあるが、本稿その3で書いたように、私は後継者も同様に評価されてしかるべきだと考えている。私の取材経験の中で、パッと思いつくだけでも、ユニクロ柳井正氏、星野リゾート星野佳路氏、シマダヤ牧順氏、ハンズマン大薗誠司氏…らが高く評価したい後継者として浮かんでくる。

 私は後継経営者たちに、小林一三氏創業の東宝で、二代目社長を務めた清水雅氏が残した、次の言葉を伝えるようにしている。「初代の財をなした人の話は、いつ聞いても頭が下がる。でも私の感じでは、二代目の方がよほど難しい。背中にいつも見えざる重荷と煩わしい人目とがある。これを克服して、立派に事業を繁栄させている二代目は、よほど偉い人だと思っている」。

 日本経済復活のためにも、後継者の活躍を期待したい。

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