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『鉄鳴きの麒麟児』が大好きだった僕らは、『ピークアウト』も大好きになれるのだろうか

さようなら、麒麟児

 
 真剣(マジ)かよ、編集長(カネポン)!?

 俺は動揺していた。『鉄鳴きの麒麟児』から同『歌舞伎町制圧編』を経て10年ほど続いていた麻雀漫画、『キリンジゲート』が連載打ち切りのため最終回を迎えると知ったからだ。

 『鉄鳴きの麒麟児』は渋川難波プロが闘牌を監修する、いわゆるリアル系麻雀漫画だ。確かに劇中で繰り広げられる麻雀は中級者以上の知識が求められるマニアックなものが多いが、魅力的な登場人物たちが織りなすドラマを追いかけるだけでも充分楽しめる。作者であるウヒョ助/塚脇永久先生がTwitterに上げている1ページ漫画を読んでいればわかるのだけど、ウヒョ助先生は素晴らしく漫画が上手い。
 また、続編となる『キリンジゲート』では主人公を麻雀知識ゼロの女の子にいったん交代し、初心者への間口を広げる工夫もなされていた。Mリーグによって増えた”観る雀”層にも読んでもらえるような作品になっていたと思うのだが……『近代麻雀』編集部的にはそうではなかったようだ。

 もしかしたら編集長の耳元で「もっと漫画でもMリーグコンテンツ増やしましょうよ! ショウマツの純愛とか……」などと甘い言葉を囁いたメフィストフェレスがいたのかもしれない。というかそんなの俺が読みたい。

 元々俺は立ち読みした『近代麻雀』でたまたま『鉄鳴きの麒麟児』に出会って以来、長いこと『麒麟児』目当てで本誌購読を続けてきた。それが『キリンジゲート』連載終了とあっては、いよいよ『近代麻雀』購読も卒業か……と思っていた矢先。


 びっくりする速度で新連載が決まっていた。

 普通の編集部なら「お前の今やってる連載打ち切るけど、なんかお前の漫画は人気だから翌月から新連載な!」という話は出ないと思う。……そう思うのだけど、あいにく『近代麻雀』にそんな理屈は通用しない。
 なんてったって渋川プロが第20期雀王を獲った時も、「渋川さんが勝ったら掲載、負けたらボツ」という頭のおかしい条件でほかならぬウヒョ助先生にお祝い漫画を描かせた雑誌である。

  ちなみに、上記のツイートに1件だけついたイイネは金ポン本人のだ。

 ライブ感溢れる決定に色々なことを思わないでもないが、何にせよウヒョ助先生の漫画が引き続き『近代麻雀』で読めることには違いない。『キリンジゲート』最終回を見届けた俺は、新たな始まりの時をただ待った。

こんにちは、ピークアウト

 
 そして5月1日。待ちに待った新連載と表紙の高宮さんに胸を高鳴らせつつ、買ってきたばかりのキンマを開く。

 タイトルは『ピークアウト』。新宿・歌舞伎町から物語が始まった『鉄鳴きの麒麟児』に対し、北海道・旭川が舞台になっている。

 主人公の名前は城丸雪兎(しろまる・ゆきと)。特徴的な金髪と名前の響きが、どこか白鳥の翔ちゃんを想起させる。
 彼は顔も覚えていない元クラスメイトの葬式にラフな格好で参列するといういい加減ぶりを開幕から発揮するばかりか、その母親から涙ながらに渡された遺品を「やっ いらねっス」と無碍に断る。実に見事なクソっぷりである。やっぱり翔ちゃんには似てないかもしれない。違う意味で冥府感はあるけど。

 高卒でフリーターをやっているユキトは、自分を純白の麻雀牌「白」になぞらえ、いつか「すげえ何者か」になるのだとうそぶく。しかし既に地元を出て進学・就職している友人たちに言わせれば、彼は「思い出話と人の悪口ばっか」のつまんねぇ奴である。

 ……こんな男に、新しい物語の主人公たる資格があるのだろうか?

”キリンジパパになる前の鈴司”としてのユキト


 思えば『鉄鳴きの麒麟児』にも、麻雀によって”何者か”になろうとする若者が登場した。Aランク大学に通いながらも凡庸な高学歴社会人のひとりになることを良しとせず、雀ゴロになって倍以上稼ぐと豪語するネト麻高段位者・稲作がいい例だろう。

 それに比すると、前作の主人公・桐谷鈴司は第1話の時点で”ネット麻雀高段位者・キリンジパパ”であり”小梅のお父ちゃん”であった。物語が進む中で鈴司なりに成長はするものの、彼の目的は”娘・小梅を麻雀で養う”そして”元妻・華子を麻雀で救う”であり、”何者かになる”というフェーズはいったん通過している。

 しかし、高卒フリーター・特にやりたいことはないが麻雀だけは好き……というユキトの境遇は、華子と出会う前の鈴司をどこか想起させる。”何かの拍子で結婚し、そこからネット麻雀にのめり込んだユキト”の姿が『麒麟児』シリーズの主人公・鈴司という見方もできるだろう。

 卓を囲んでくれる友人がいなくなったユキトが、ネット麻雀に打ち込むようになる……可能性としてはある話だが、『麒麟児』シリーズにおいて鈴司が選ばなかった道が1つある。

 それが、”麻雀プロになる”という道だ。

 『麒麟児』シリーズでも麻雀プロがしばしば登場するが、鈴司はその世界に飛び込むことなく、最初から最後まで一介の雀ゴロであった。個人的には歌舞伎町を制覇し、代打ちで名を成した鈴司がいよいよプロ雀士に……という展開を夢想したりもしていたのだが。
 そもそも、結婚する前の鈴司に麻雀プロと交流があるような様子もないため、”プロ雀士になる”という発想自体が彼の中になかったのかもしれない。

 まだ何者でもないユキト。彼が”桐谷鈴司の別の可能性”だとするなら、その道の行く先を大きく左右するのは……勿論、麻雀プロとの出会いだろう。 


 ところでユキトが亡きクラスメイトから託された遺品、それはとある麻雀プロのサイン色紙だった。曰く、「日本で一番強い麻雀プロ」……


 その名も、高原星二(たかはら・せいじ)

 

 ……ん?


 たかはら・せいじ。

 たかはr……せいじ……ん……???

 何かやってる気配が漂っているが、ページをめくる手を進めよう。

 結局友人たちから見捨てられ、一人寂しくユキトが向かったのは雀荘。大盛況の店内で彼を待っていたのは──
 

星人・たかはら襲来


Mピーク東京アスラズ所属・高原星二プロ(51)


一旦待って。


…………。


……。

たかはるじゃねーか!!!


 いやー……やられた!! 確かに「Mリーグファン必見」のアオリはあったけど……まさかここまでやってくれるとは!!

 そりゃあそうだ、「日本で一番強い麻雀プロ」なんて肩書のキャラクターを登場させるならこれほど打って付けのモデルはいない。なんてったって天下のコロコロの紙面にまで載った男である。
 今や小学生が「なーなー、麻雀で最強なの誰だと思うー? 俺たかはるー!」「ちがいますー、ほりしんごですー!」などとそこらの道端で他愛もない喧嘩をしていてもおかしくないし、そこに「でも最強位を2連覇してるのは瀬戸熊さんだよね?」とマジレスして白い目で見られているメガネの少年(通称:ハカセ)がいたりしても不思議ではないのだ。いやまぁ今はまだないかもしれないけど、近い将来はそうなる。きっとそうなる。


 ……えーと、何の話だ?


 さておき、こんな麻雀が強くておもしろいおじさんに出会ってしまったら……ユキトの人生は変わってしまうに決まっている。そりゃあもう……劇的に!!

 今はまだまっさらな「白」の彼が、これから雀士として、人間としてどう成長するのか、そして冥府を背負ったりどっかの組の若頭みたいな風貌の青年と熱い友情を育んだりしてしまうのか、はたまた予想すらできないそれ以上の何かが待っているのか……。

 当分、『近代麻雀』の購読はやめられそうにない。

最後に


 金ポン……いや、金本編集長、真剣感謝(マジサンキュ)な!!

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