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素人が源氏物語を読むーー帚木(4)ファーストコンタクト


空蝉と光源氏のファーストコンタクトの場面は、ちょっとヘン。それは、身分というものをおぼろ気にすらイメージできないがゆえの誤解なのかもしれないけど。

まあ、ちょっと聴いてください。

・空蝉さんの身分は微妙

空蝉さんは身分がなかなか微妙なのですよ。もともとは従四位の父の娘、殿上人の娘。その父が二年前に死んじゃって、遠国の偉いさんの妻。いまの旦那さんは従六位。

これがどれくらい下がるかっていうと、六位って聞いて思い出すのは、これ。光源氏の息子・夕霧が幼馴染みの雲居の雁って女の子が好きだったんだけど、最初についた位が六位で、六位風情に嫁げないよね、って皆に笑われるほどのことのようです。この「位」は素人調べ、山川の資料集で役職名から逆算してみました。

・ファーストコンタクトで拒む空蝉さん

とある夜に、光源氏と空蝉さんのファーストコンタクトがありました。既婚者の空蝉さんは「身分違いだから」って拒みます。まあ、拒否るのは妥当だなあ、賢明だなあ、と思って1000年後の読者である私は読むわけです。「あんたなんかイヤ」と言えないような相手に「身分違いだからごめんなさい」って言ってるんだろうと。

・拒む理由って、そこなんスか?

ところがですよ、旦那さんのことなんか、微塵も出てこないんですよ。「よろめきそう、でも、あたくし夫のある身ですもの」というような葛藤はまったく無い。旦那さんのことを思い出すという記述は無いの。

で、じゃあ何で逃げるかというと「身分が比較的高かった娘時代だったら、ときめきながら再訪を待てた」。でも「いまはランクダウンしたから不釣合にもほどがある、夢を見たくない、辛いから」なんですって。

身分が違うから彼と恋したくないんですよ。何なの、それ。真面目に言ってんの? そこなの?

「身分の高かった父の生前で娘時代だったらウェルカムなのに」とその後も何度も言っています。

う~ん、そんなもんなんですかね。
旦那さん、かわいそう。

・「父の女」疑惑

それで、なお凄い設定なのは、空蝉さんの父親は彼女を帝に入内させたかったんですって。えー、帝って桐壺帝じゃん。桐壺ラブ、藤壺ラブっつっても政治と結婚の世界は色々あるのね。ま、それはおいといて。そりゃあねえ、入内、帝の寵愛を受けるかも、って想定で生きてたひとが、そんなバカにされうる六位の妻となりゃあ、旦那さんのことは思い出さないのも無理はないかもしれないなあ。

で、ここで疑うのは、光源氏の「父の女」フェチです。実父に寵愛される藤壺に横恋慕する光源氏ですもん、実父に寵愛されたかもしれない女も守備範囲でも、ありえそうですよ。

まあ、ここは素人の憶測ですが、こんなふうにあれこれ当て推量するのも、楽しさのひとつのような気がします。


それにしても。身分、イメージしにくいなあ。

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