VALIS二次小説 理想が欲しくて 裏世界編Main Story -005(Case of FEI)

「だから目を覚まして、ヴィッテ」

何も映していなかったヴィッテの瞳に、チノの姿がくっきりと浮かび上がる。                                ヴィッテは何度か瞬いた後、きょとんとした表情で問いかけた。

「チノ……?」                           「おはよう、ヴィッテ」                       「あれ……ミューもいる。みんなも」                 「……ヴィッテ!」

手で顔を覆い、泣き出したミューを撫でるヴィッテ。                  その様子を見て、ララだけでなく、ニナやネフィも、安堵の表情を浮かべた。

「ヴィッテ、また君と一緒に踊りたいんだ」

そう言って差し出したチノの手を、ヴィッテはぎゅっと握り返した。

「やー! ヴィッテ、踊るより歌いたい!」

「必要なかったか........」

VALISの楽屋、フェイはその外壁に背中を預けていた。

現実世界でのライブを終えて以来、VALISは「こいつらほんとに生きてるのか?」と疑問に思うほど“壊れて”いた。

そんなVALISに対して、フェイは当初メンバー1人ひとりにフォローをしようと思っていたが、ソートに「手出しは無用」と言われて静観していたのだ。                だが実際には、チノとララの行動に触発される形で、VALISは再起した。

(唯一引っ掛かるのはネフィだが..........ま、何とかなるだろ。とはいえ.........)

あの日のライブを振り返る。                     一緒のステージに立っていたのは、彼女達と同じ、ひとりの少女だった。

だが、そこには決定的な違いがあった。

儚げながら圧倒的な存在感を持つ歌声に震え、彼女の声とVALISの踊りがかみ合い、作品を作り上げている高揚感が確かにあった。

けれどそれは、ひとりの少女の歌声によって作られる作品であり、彼女達は――

(VALISはパーツだった。彼女花譜という作品を作るための.........)

VALISにとっては、これ以上ない絶望だったのだろう。「たった一度で?」と思うだろうが、その“一度”で彼女達が今まで築き上げてきたもの全てに大きな衝撃を与える程、あの少女の才覚は凄まじいものだったのだ。

(ま、多少のダメージは自力で治せるみたいだな。俺は下手に踏み込まず、軽いフォローくらいで十分だろ。ソートのやり方は危険すぎるから、それの後始末もしなくちゃ駄目だと思うけど)

とにかく、今回はなんとかなった。だが、あくまでも...だ。次も同じ結果になる保証は無い。元々の仕事内容から少し外れるが、目の前で一つのグループが壊れていくは見たくない。明日からは毎日サービス残業だ。

そんなことを考えながら、VALISのもとに行こうとしたその時。

――フェイの身体を、横から衝撃波が吹き飛ばした。

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