VALIS二次小説 理想が欲しくて深脊界市編Main Story -033(Case of FEI)

――AM11:56――第十七機械類製造工場。


とあるビルの屋上。その手すりに寄りかかり、双眼鏡で新たな標的を眺める。                                この工場では、公社隊が使う警備ロボや深脊界市を闊歩する機械を製造、整備を行っている。ここを叩けば、今後の行動も楽になるだろう。

今回の作戦は、分身を使った囮による陽動作戦だ。

まず、分身体が堂々と正面出入口から入り暴れる。                   警備の戦力が分身体に集中している間に、裏口から侵入した本体が製造中、あるいは完了した機械を破壊し、設計図等のデータを奪う。勿論、元々データが記録されていた機材を破壊することも忘れない。

さて、そろそろ始めよう。

×   ×   ×

銃声が轟く。けたたましく鳴る警報に紛れて、幾つもの怒号が響く。

「おい、侵入者だ!警備が突破される前に機械とデータを移送しろ!」         「製造途中のやつは諦めろ!データは重要なものだけ本部に転送すれば良い!」                                   「この前第三自然法則解析応用研究所に出た奴だ!急がねえとここも潰されるぞ!」

そんなやり取りを聞きながら、音を一切立てずに工場を歩く。              やがて工場内を走り回る作業員達を見つけると、1人ずつ気絶させ公社隊に関わる記憶を観測、消去する。

道中で見つけた機械を全て破壊し、データ管理室へ向かっているその時―――

「よぉ兄ちゃん。悪ぃけど、これ以上好き勝手暴れられちゃ困るんだわ」

何処からともなく現れた大男に警戒する。                     その大男は全身に大量の銃や弾倉マガジン手榴弾グレネードの類いを装備しており、防弾プレート入りのタクティカルベストの上からでも分かる程鍛え上げられた肉体を持っていた。                                  大男は1枚のチップを取り出すと、こちらに見せつけるように突き出して再度口を開く。

「お前さんが探しているのはこれだ。管理室の端末に記録されていたデータは既に消去されている。この工場のデータが欲しけりゃ、俺から奪うしかねぇよ」                                        「...............あんた誰だよ」                            「おっと、こりゃ失礼。俺の名はアーロンだ。公社隊とやらに雇われてここに来た。『現実世界向こう』ではアメリカの陸軍所属だった。今はもう退役しているがな」

「ッ!?」

『現実世界』から来た.............アメリカの元軍人!?まさかそんな奴と敵対することになるとは............                        とはいえ、奴の言葉通りなら目的の情報を手に入れる為にはあのチップを奪うしかない。そして、その為には奴を倒す必要がある。                  大男はチップを胸ポケットに入れながら、続けてこう言う。

「お前さんの目的は解ってる。こいつが欲しいんだろ?俺にはこいつの価値なんて分からねぇ。欲しけりゃくれてやる。ただ.............力ずくで奪え」

次の瞬間、目にも止まらぬ速さでアサルトライフルを構えると、躊躇いなくフルオートで発砲してきた。                     反射的に業火絢爛バーニングルビーの火炎放射で防ぐも、特殊な弾頭なのか火の中から赤熱した弾丸が身体を掠める。単純な威力に加え、高温で炙られたことで上昇した温度のせいで、余計にダメージが蓄積される。

電磁支配エレクトリック

数万ボルトの電撃を束ね、武器ごとアーロンを撃ち抜こうとするが―――

「ほう、これがお前さんの“能力”ってやつか。だが良いのか?チップが壊れちまうぞ」

そうだ。チップが壊れてしまったら終わりだ。なら電撃は使えないか。          そんな一瞬の思考の隙を逃さず、アーロンが凄まじい速度で距離を詰めてくる。構えられているのは――先ほどのアサルトライフルではなく、セミオート式のショットガン。

(ヤバッ!)

攻撃ではなく防御なら大丈夫。そう思い、全身に電流と磁力を纏う。だが―――

「ッ!...............かは」

........

絶縁加工された銃弾。想定外の隠し球に対応出来ず、無数の散弾を浴びたフェイの身体が僅かに浮く。                       1発では足りないとばかりに、2発3発と立て続けに人体の急所に散弾を撃ち込まれる。そしてついに―――









「悪ぃな兄ちゃん。これが俺の仕事なんだ」









心臓が、吹き飛んだ。

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