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むいたりんご

高速バスで相席になったおっちゃんが、「これ、よかったら」とタッパーを差し出してきた。切ったりんごが詰まっていた。すこし赤みがかっていた。「あ、すみません、お腹いっぱいなので」と断った。「そうかい。私にはちょっと多くて、食べてもらえると助かるんだがねぇ」と、おっちゃんは、寂しそうにタッパーを引っ込めた。本当は、お腹いっぱいなどではなかった。むしろ、空腹ですらあった。こういうとき、りんごをありがたくいただくことのできない自分が、本当に嫌だ。

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