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世界を豊かに:世界経済フォーラムの「Forging New Pathways」のレポートを読んでの考察

数週間前からSNSでこちらの記事を何度か見かけた。「新しい技術が金融をどのようにトランスフォームさせているか」。当然読まない手はない大好物のトピックである。世界経済フォーラム(World Economic Forum)の英語の記事であった。

記事自体はAI, IoT, クラウドや5Gなどのテクノロジーがビジネスにも消費者にも良いチャンスを提供してくれ、以下の3つの形でインパクトは出始める、と書いてある。

1. Increased automation and embedded financial services simplify daily activities - 金融のサービスというのはどんどん人の必要な行動に埋め込まれていき、人の暮らしが便利になる。車に財布が埋め込まれている(日本でいうETC)なんかもその一部。
2. Cross-industry partnerships flourish allowing customers’ financial and non-financial services needs to be addressed simultaneously - 業界内や金融の壁を越えたパートナーシップを進めることが必須。保険会社が自動で色々タスクを進めてくれることで顧客への負担を減らすことなどが書いてある。
3. Customers will not think about financial services - そんな必要な行動に埋め込まれたりつながったサービスであれば人は将来金融サービスのことを考えないかもしれず、それが一番大きな結果である。

記事はそのように締めくくっているのだが最後にリンクがあり、実際のレポートもあると。。。

実際のレポート - 「Forging New Pathways: The next evolution of innovation in Financial Services」

ふむふむ。「金融サービスのイノベーションの次の進化」。

面白そうだ。クリック。。。ひょえーーーーーー😨、英語の207ページのレポートww。そんなことでちょっと数週間おいてありましたが、やっぱり面白そうなので読んでみました。実は世界経済フォーラムは毎年「Future of Financial Services」(金融の将来)のシリーズのレポートを書いているとのこと。すみません、個人的にはちゃんと読んでいませんでした。でも今回面白かったので過去のもちょっと読んでみたいし、これからはちゃんと毎年読みたい。

何のためのレポートか?

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(レポート10ページ)

200以上の専門家やエグゼクティブそして100以上の先進的な金融サービスの企業へのインタビューによる情報である。ちょっと気になるのが日本の金融のロゴは一つもなくNTTデータと日立。。。?!ただ最後まで読むとメガバンクなどにもクレジットがあるので日本の金融の意見が入っていなかったというわけではなさそうである。

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(レポート11ページ)

このレポートはエグゼクティブ、当局やポリシーを作る側の人たちに対して新しい技術が「どのように新しい価値を作りだすことができ、業界の戦略の形にも影響をするか」などの観点を提供すること。

このレポートで注目する技術

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(レポート14ページ)

このレポートで注目している技術は
1) AI
2) Quantum computing
3) Augmented / Virtual reality (AR/VR)
4) Internet of things (IoT)
5) Cloud computing
6) Task-specific hardware(TSH)
7) 5G networking
8) Distributed ledger technology (DLT)

正直、え?AR/VRとかIoTとか5Gなんて金融の世界ではまだまだでしょ?ところでTask-specific hardwareって何?というのがこのレポートを読み始めた印象だった。ただその印象は読み進めるに詰めて変わることになる。そしてこのレポートはこの技術たちを組み合わせることによって金融業界を変えていくのだ、という話をしている。

クラウドの重要性

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(レポート15ページ)

このレポートでは上に書いた8つの技術を様々な組み合わせての活用例などを出し、金融にどのようなインパクトやチャンスを及ぼすかを述べているが、その中でもクラウドとAIが最もコアであり、その中でもクラウドが色々なサービスとつながるコネクティビティを作ると書いている。確かにクラウドの重要性はいつも話されているが、このようなすべての新しい技術との接続のレイヤーであるといえばクラウドに色々なワークロードを動かすことが未来の技術を活用する最低限に必要なことだというのは納得しやすい。

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そして23ページではドイツ銀行とグーグルの10年契約のパートナーシップなんかが取り上げられている。過去にITで10年契約というとビルやデータセンターなどの契約でしかあまりなかったと考えられる。そう考えると今や「クラウド」というのは一部のシステムを構築する例外ではなくて、金融でも普通のデータセンターと同じような基本的なインフラとして考えられているという例でもある。

「状況認識」:顧客の必要なタイミングと価値を予測

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また26ページではこれらの技術やデータがつながることにより、顧客からの重要なフィードバックループができ、顧客がサービスが必要な時を予測することができると話している。よく
・まだ音声認識のスマートデバイスより自分でスマホで必要なものを探したりアクションしたほうが早いという意見を聞く

まさにここで、音声認識のスマートデバイスも受動的に命令に従っているだけなので、何も予測をしていないのである。この予測が可能にならなければ機械が人間に「本当に便利」「自分でアクションをするより早い」と思わせる世界は来ない。そこで💡。ここで必要なのがIoTと5Gなのである。機械が単に受動的なだけではなく人間の必要なことを必要な時に予測してくれるためには、部屋に一つ音声認識デバイスがあるだけでは全くのセンサー不足でありとあらゆる場所に色々なタイプのセンサーが状況を把握し色々な予測ができないといけない、その為にIoTの出番なのである。そしてその膨大なデータを様々な場所や状況から集めるためには今のネットワークでは力不足で5Gネットワークの出番なのである。ここでさっきまで「まだ早い」と思った技術の一部であるIoTや5Gが既に金融でも必要であることをが想像がつくのである。

そしてこのレポートなかには様々な技術の組み合わせと、その活用の仕方など紹介されているがとても理解しやすいのが1)融資(lending)と2)保険の例であった。

融資:Just-in-time-lendingその他

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63ページから67ページにまとめてあるが、融資のプロセスなどもビジネスの成長度やリスク度、必要な経費、資本コストなど様々なデータからニーズやチャンスをある程度はじき出せることも考えられる。少々乱暴な例であるがアマゾンが必要な本を必要な時に予測してくれること、そして実は本をそのユーザーの近くの倉庫まで動かしているかも、と言われている例に似ている。融資の世界でこれが可能になるにはビジネスのデータなどを理解する今よりはるかに複雑なセンサーやロジックが必要となる。AI, Cloud, DLT, TSH, 5G, IoT総出になるとこのレポートは述べている。

また融資ではなく投資であるが78ページにはバケーションに行くウェブサイトに投資の機会が埋め込まれている例なども記載がある。こちらも金融が他の体験の中に「埋め込まれる」という例でとても興味深い。この場合もAI, Cloud, DLT, IoT, 5Gと必要な技術は多い。

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保険:Dynamic life + health insurance

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105ページから116ページまで保険のユースケースなども書かれているが、保険の世界でIoTが役に立てるということは想像しやすいと思う。ここでも書かれている例は
・買い物をしていると、健康に良いモノをバスケットにいれれば保険会社からリワードを受けることができる。
・運動をしていることをフィットネストラッカーから理解し保険会社からリワードを受けられる。
・個人的な生活習慣を機械が理解し「もっと健康的に」生活をするコツなどを送ってくれる。
・車に搭載されたセンサーが運転手の運転のクセを理解し、保険のプレミアムを調整する。
・車の事故時もセンサーが色々なデータを保存しており、保険の交渉の役にも立つし、事故時に必要なサービスなども理解しプロセスしてくれる。

これが可能になるためにはAI, Cloud, IoT, 5Gの技術の組み合わせが必須である。

こんな将来を可能にするには?

さてこんな将来を可能にするために必要だとされているもの、当然色々とあるのだが気になったこと2点。1つ目がPETs (Privacy Enhancing Technologies)。このレポートの中ではその必要性があちこちで言及されている以外はあまり書いていないが、日本語ではプライバシー強化技術などと訳されている。このような将来を可能にするためにはかなりのビジネスのデータや個人のデータを機械がプロセスすることが必要になる。当然「生の状態」でそんなデータをプロセスさせることはとても危険なので、プライバシー、個人情報を保護したままデータをプロセスさせる仕組みが必要になる。

また2つ目また最後に197ページにこのレポートは将来の金融機関の絵というのは
Ecosystem-oriented - 業界の壁はどんどん薄くなり、金融・非金融の壁ですら「埋め込み」がおこりわからなくなる。
Customer-obsessed -どんどん少なくなる顧客の時間と注意を勝つためには高度なパーソナライゼーションや早いスピードでフィードバックを取れる仕組みなどで「恐ろしいほど顧客に執着した」サービスが必要になる。
Coordinated and agile - データや技術に支えられて組織化されていながらアジャイルに動き、決断をすることなどが必要。
になると締めくくっている。

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他にも興味深いことが山ほどこのレポートには書いてあるが、それ以上書くとこちらの記事も200ページになってしまうのでここまでにしておく。実際に興味がある方はレポート是非読んでみてください。

こんな複雑な技術たちを使ってまでの効率化は必要なの?

さて色々な例を見たが、このような技術を使えば確かに人の世界は便利になるかもしれない。ただし注意深く進めなければ個人のプライバシーを必要とするデータが流出するリスクなどをはらんでいる。そんなリスクを負ってまで進めることは必要なのでろうか?そこは「必須である」と思いたい。

コロナ危機でも分かっていることだが、世界のリソースというのは限られている。ただし人間というのは生産と消費を呼吸のように行うことで経済活動を行っている。コロナ危機でも気づいたことではあるが、人間は一度行ったこの製品と消費の量というのを一気に少なくするのはとても難しいし長期的には可能ではない。今コロナではあるが生産を抑えようとすると色々な企業が苦戦しているのがその証拠である。生産と消費を続けながら「世界を豊かにする」には限られたリソースを活用し生産の効率化するしか方法はないのである。

・色々なデータを活用して機械が人間の判断をサポートする
・業界の壁を越え、多業界で顧客目線のソリューションを作る
・自分の関わる業務も常に効率化のチャンスを探し続ける

などを進めなければ自分の関わっている業界だけではなく、世界が豊かになるチャンスというのがどんどん離れてしまっていく、ということもとても考えさせるし、プレッシャーを感じた。

そこで日本の立ち位置は?

日本に関していえばデジタル競争力は27位。

GDPが世界3位でデジタル競争力27位ってどういう事だろうってとても考えさせられる。やはり考えられるのは
・現在の豊かさ vs. それに反する非効率さ
が存在するということで効率を上げる方法を見つけないと豊かな将来から離れる振れ幅はとても大きい国が日本なのかもしれない。現在日本はとても豊かで住んでいる人たちの生活の質(Quality of Life)も高い。ただし世界経済フォーラムに書かれているような技術とちゃんと向き合い、フル活用していかないとこの生活の質が将来的に一気に落ちるかもなどと考えるとかなり恐ろしい。

もっと今すぐできることは?

IoTとか5Gとか量子コンピューターとか大事なのわかるけど今すぐ手が出せないよ、という方。「確かに」ということでもう少し現在に近い目線で「真のDX」なんてテーマで最近話したものがあるので参考になれば。

また来る10月9日(金)にFIT2020オンラインカンファレンス(金融国際情技術展)にて、SMBC日興様とステージに上がって、今の時代どのように会社のカルチャーなども変えて、真の顧客への価値づくりを進められるか、などのトピックについて話します。無料なので是非サインアップして聞いてみてください。

「ニューノーマル時代を勝ち抜く金融での働き方 - SMBC日興証券 & シンフォニー」10/09 (金) 12:40-13:30
(以下のリンクよりサインアップできます)

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今回のレポートを読んで自分が今進めている事が将来世界を豊かにする方向性としては間違えていないと感じることもできた。
・セキュアなインフォメーションハイウェイを更に広げる事
・そのハイウェイはデータがエンドツーエンドで暗号化されていてプライバシーが守られる
・そのハイウェイはオープンAPIを持ち、様々な企業社内アプリや他のアプリと連携でき業務の効率化を進めることができる
・そのハイウェイでは機械が人間をサポートして協業できる形が存在する
・もっともセキュリティ・コンプライアンスのニーズが高い業界の金融をハブとして他の業界をつなぐこともできる

そんな
・世界を豊かにする努力
・機械が人間をサポートし共存する業務効率化

などの改革を進めて行く仲間も探しているのでご一緒に仕事をしたい個人の方たち、企業の方たち気軽にお声がけください。😎

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