なぜ我々SANUは木を植えるのか?
SANUが、釜石地方森林組合様、株式会社ADXと実施した岩手県釜石市での植林の取り組みが、大変光栄なことに岩手日報さんの一面(2022年10月17日朝刊)に掲載されました!
岩手日報2022年10月17日朝刊、許諾を得て転載をしています。
地元新聞の一面記事。SANUのサステナビリティーの取り組みに背中を押していただいた感覚でした。折角の機会なので、本取り組みの背景を記載させていただきます。
・・・というきっかけで書き始めていたこの文章ですが、もう一つ大きなニュースが!
SANU CABINの建築に関する取り組みが、Wood Design 2022 最優秀賞 (環境大臣賞)をいただきました。受賞はもちろん我々SANUだけでは無く、ADXさん、二葉測量さん、そして、釜石地方森林組合との共同での受賞です。
木の素晴らしさ、岩手・釜石地方の皆さんへ感謝。そんな事が少しでも伝わればと思い、乱文ながら綴ります。
福島弦と釜石の出会い
私、福島弦と釜石市の出会いは、2017年に遡ります。
当時ラグビーワールドカップ2019日本大会組織委員会に勤めていた私は、意気揚々とマッキンゼーからスポーツの世界に転職してきたものの、なかなか自分の力を発揮するフィールドを見つけられず、悶々とした日々を過ごしていました。
愛してやまないラグビーを仕事として選んでおきながら、自分自身を発揮できるフィールドがない。悩みに悩んだ末「もう、辞めようか」と思った矢先に出会ったのが、釜石市のお仕事でした。
被災した地域の、復興の一つの歩み。新しい復興スタジアムの建設と、アジア初のラグビーワールドカップの開催。このテーマに、自分の中の情熱の火が灯りました。
そこから、東京都と岩手県釜石市を往復する日々が始まりました。東京駅から新花巻駅まで3時間20分かけて新幹線に乗り、新花巻駅から釜石市内まで2時間かけて車を運転する。片道5時間を日帰りで移動したりしていた日もありました。
その往復の日々の中で、私には忘れられない瞬間があります。ある夏の日、新花巻駅から釜石に向かう道中でした。暗くて長いトンネルを抜けた途端に、三陸地域の深い深い緑の森が目に飛び込んで来ました。ハンドルを持つ手にぐっと力が入り、全身に鳥肌が立った感覚を今でも鮮明に覚えています。
「ああ、なんて美しいんだろう。」
北海道で生まれ育った自分にとって、自然はいつもすぐそばにある存在でした。ただ、東京に出てきてからどこか自分と自然の距離が離れてしまっていた。釜石との往復の日々は、そのことを改めて僕に思い出させてくれる機会でした。
ラグビーワールドカップの12開催都市の中で、唯一スタジアムを持っていなかった岩手県釜石市。震災の記憶をきちんと後世に伝え、また釜石・鵜住居地域が持つ豊かな自然を世界にアピールするスタジアムとして、釜石鵜住居復興スタジアムが新設される事になりました。スタジアムの座席には、山火事被害にあった地元釜石の木が活用されました。私は、そういった取り組みの中で、釜石地方森林組合の皆さんや、参事の高橋さんと知り合う機会を得ました。
大好きなラグビーの仕事に就きながらも腐りかけていた自分にとって、あのとき全力で情熱を注げる仕事を釜石の皆様に頂戴し、心から感謝しています。スタジアムのオープニングイベント後にスナックで釜石市役所の方々と飲んで一人号泣した夜や、ワールドカップ当日にスタジアム上空の快晴の青空にブルーインパルスが飛んだ瞬間など、生涯忘れられないお仕事をさせていただきました。
そして、せっかくご縁ができた岩手県釜石市の皆さんとの関係が大会の終了と共に終わってしまうことに寂しさを覚えつつ、2019年11月のSANU創業と共に、釜石に通う私の日々は終わりを告げました。
SANUと釜石の出会い
それから4年の時を経た2021年、株式会社SANUのCEOとしてSANU CABINの初期50棟の完成に向けて全速力で進んでいたある日のこと。建築設計・施工のパートナー企業であるADX 代表の安齋さんから一本の電話がありました。
「弦くん、本間くん、木が無いわ。このままだとキャビンが立たない。」
その日はエイプリルフールでもなかったし、安齋さんは無骨な工務店の3代目で気軽にブラックジョークを言うタイプでない。すぐさま事態の深刻さを認識しました。
コロナ禍に伴って木材の輸入量が急激に減り、我々が調達したい国産の木材の需要が一気に高まったことが原因でした。このころから「ウッドショック」という言葉が紙面やニュースでも語られるようになりました。日本国内に豊富な森林資源を保有しながら、輸入材に頼ってきたツケが回ってきたような現象でした。
本間と私は知り合いを頼りに片っ端から電話を掛けましたが、「この時間軸では提供は難しい。」「原木はあるが製材所がパンクしていて難しい。」「検討はできるかもしれないがコストが全く合わない。」など、厳しい状況が続きました。
そんな中で私は、可能性は低いかもと思いながらも「釜石市」のことを思い出していました。釜石市役所の友人である浦城さんを通じて、釜石地方森林組合の高橋さんにコンタクトを取ってみたところ、「福島さんのためだったら、なんとかできないか考えてみたい。動いてみたい。」という心強いお返事をいただきました。
そこから、高橋さんは、製材所を見つけるために岩手県内外を駆け回ってくださいました。高橋さんに奔走いただいた結果、初期のSANU CABIN50棟分の木材の確保が実現していきます。
SANUはなぜ木を植えるのか?
木というのは、人類にとって大切なパートナーです。我々が雨風をしのぎ安心して生活できる建築の資材になったり、生態系の保全や土砂災害リスクを軽減してくれたり。そして、何より気候危機・平均気温の上昇の直接的な原因になる温室効果ガス、CO2を吸収するという特別な存在です。
こちらのグレタさんの動画はそれを端的に説明してくれていますので、ぜひご覧下さい。
SANU CABINの50棟の建築で使った本数は7,500本。樹齢50年以上の杉材を活用させていただきました。木は樹齢30年を超えるとだんだんCO2を吸わなくなっていきます。伐採適齢期を迎えた木を間伐して切り出し、その代わりに新しい若い木を植えることでその木の成長の過程でより多くのCO2を吸収してくれる。それが木を植えた理由です。
建築において排出するCO2を上回るCO2量を吸収する(植林した木がCO2を吸ってくれるため)”カーボンネガティブ”を目指す取り組みになります。
では、我々SANUは50年後の森を見据えて、どんな木々を植えていくか。キーワードは、「多様性」でした。単一の杉のみを植えるのではなく、広葉樹であるコナラやカラマツを植えていく。山肌・地形に合わせて適切な木を植えることで発育を促すとともに、多様な品種の森を作ることで生物多様性の復活や土壌の回復を意図した取り組みとなります。
自分たちで植えた1,053本が持つ意味
我々は、サステナビリティーや自然との共生というテーマに向き合う会社です。同時に、スタートアップとして大きな資金調達をし、一人でも多くの人にSANUのサービスを届けるために日々スピード感をもって事業を成長させています。
どうしてもビジネスの論理がパワーを持つときに、自分たちが「自然との共生」に立ち戻ることができる原体験を作りたかった。それが、今回チーム全員で釜石の地に木を植えに行った理由です。
釜石市の沿岸のがたがたの山道を、ワゴン車が上がっていくこと20分。美しいリアス式海岸を望む厳しい傾斜の山肌が、我々の植林の舞台でした。2017年の山火事で消失した713haの山肌に木々を戻していく活動になります。
急こう配をよじ登り、桑を入れ、苗木を差し込み、がっちり土で踏み固める。黙々と作業を続けること約 5時間、結局我々が植える事が出来た本数は 1,053本でした。2,000本を目標にしていましたが、到底及ばず。改めて、森づくりの厳しさを体感しました。
7,500本までの残りの本数については、釜石地方森林組合の皆様が、2023年の春頃までを目途に植えてくださることになっています。
また、同時に森づくりは植えて終わりではなく、そこからが始まりです。植えた後の最初の5年は木が育つための下草刈りなど大変な作業が待っています。森林組合さんの皆さんに聞くところ、植樹よりももっと大変な作業とのことです。SANUとして森づくりのタフさを体感的に学びながら実践していきたいと思います。
我々SANUは建築を進める過程で、生き物である木を切って建材にし、開発対象の土地の木を切って建築をさせていただいています。その事業に従事する我々自身が、1本の木を植えることのハードさを皮膚感覚として持つことができた、そんな体験でした。
SANUがどれだけ棟数を拡大しても、どれだけ事業成長に対して貪欲に向き合っていても、自然を相手に事業をする者としての謙虚さを忘れないこと。改めてそれを胸に刻みました。
自然好きのヤツはだいたい友達
先日SANUの社員3人と一緒に白馬岳に登ってきました。一歩ずつ歩いていくと、これまでの人生で出会ったことのない風景にたどり着く。その瞬間を仲間たちと共有する。壮大な自然を前にすると、人間は謙虚になると思っています。そして、自然は常に対等に人間に接します。時には残酷なまでに命を奪ったり、時には心を震わせる姿を見せてくれたり。
バリューチェーンが巨大化しすぎて見えにくくなっていますが、自然が健全な状態でない限り人間が生きられないことは自明です。
途切れてしまった人と自然の糸を紡ぎなおす。豊かな森の中で深呼吸する気持ちよさ、暁の海を見つめる時の心のやすらぎ、そんなライフスタイルを提案することで、地球・自然を好きになる人を増やしていく。そして、その人たちが明日の自然を大切にしていく。
そんなミッションを抱きながらTEAM SANU一同で、事業を運営しています。
SANU CABINは、子供たちからよく「木のおうち」と呼ばれて、絵日記に登場します。木のおうちに通っていた子供たちが30年後に社会のリーダーになって、人と自然の豊かな共生に向けてワクワクするようなビジネスや活動を展開してくれたら最高ですね。
釜石で植えた木は成長するまで50年かかります。SANUもそんな長い時間軸を見据え、本質を見失わずに、一歩ずつ進んでいきます。
長々と失礼しました。私を育ててくれた北海道の自然に想いをはせながら書いてみました。SANUでは、まだまだチームメンバーを募集しています。ご興味がある方は、ぜひリクルートページからご応募ください!
最後に、ADXさん、二葉測量社さん、釜石地方森林組合さん、Wood Design賞最優秀賞やったね!また、うまいビールを一緒に飲みましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?