地元に帰る。(飲食店編)

かつて、調布に、世間でもちょっと有名なバーがあった。
名前は「ジャクソンホール」。
矢沢あいの漫画、『NANA』に出てくるお店だ。

漫画に出てくるお店の内装、メニュー、店員は
現実のそれと同じだったので、
NANAが人気だった当時は、
ほんとうに日本中から聖地巡礼でファンが訪れていた。

そして、漫画にも登場するジャクソンホールの店長、
佐藤公一さんは、ぼくが出会った中でも数少ない、
男が惚れるカリスマだった。
荒々しくて大雑把でいじめっ子体質だったけど、
おおらかで、よく人を見ていて、つよくてやさしかった。
カラオケで歌いながら、
「みんないつもありがとうな」って、よく泣いていた。

ぼくがハタチ前後のころ、
なぜかジャクソンホールのお店の人たちと仲良くなり、
佐藤さんたちに連れられて、
よく朝まで飲んだり、昼までカラオケしたりしていた。
ほんとうにあの頃はたくさん酒を飲んだな、、と思う。

その後、店は移転し、
そのタイミングで佐藤公一さんは店を辞め
(雇われ店長だった)
佐藤さんについていくように、
店員のほぼ全員も一緒に辞めていった。
ジャクソンホール自体はまだあるけれど、
みんなが辞めるのに合わせて、
ぼくもお店には行かなくなった。

それから、10年。
もうジャクソンホールの人たちと会うことも
なくなっていたけど、
ここ数年で、当時の店員さん達が調布に
あたらしいお店を出しはじめた。
調布の飲み屋業界なんてせまいので、
そういう情報はすぐに入ってくる。

前置きが長くなってしまったけれど、
先週末、
親戚のちょっとした集まりがあって
実家のある調布に帰った。
そしてなんとなく、
ジャクソンホールの人の出した焼き鳥屋に
はじめて顔を出してみた。

ぼくはちょっと期待していた。
10年近くぶりにあって、驚かれて、
いじられたり喜んだりしてくれることに。
もうぼくもおとなになったので、
お土産の日本酒も用意していった。

ちょっと照れながら、
おそるおそるドアを開けると、
10年前、たくさん遊んでもらったお兄さん
(いまでは店主)から声をかけられた。

「あ、しゅんごじゃん。
いま混んでるから、そこ座ってて。」

軽いな!
「おおおー!」って驚いてもらったりとか、
なんなら、握手を求められて再会を喜んだりとか、
そういうのを期待していたぼくは、
思いっきり肩透かしをくらった。
なんか、3日前にも来たお客さんみたいな扱いだった。

でも、そのおかげで、
10年の隙間があっという間に埋まったような気がする。
「ご無沙汰しててすみません」とか、そういう言葉を用意してたんだけど、
使う必要はまったくなかった。
そして、まるで10年ぶりじゃないかのように、
ダラダラと近況を話しながら、
ちょっと普段よりはハイペースでお酒をあけて
「またそのうち来ます」と、店をあとにした。

たぶん、これが新宿とか銀座のお店だったら、
こうはいかないような気がする。
調布という住宅街で生活をしていた僕らは、
心のどこかで、
これからずっと地元に関わって生きていくし、
会おうと思えば、いつでも会えると思っている。

もう会いたくても、二度と会えない人はたくさんいる。
再会しても、話すことがないだろうなって人もたくさんいる。
だけど、地元は人を繋ぐし、話題も繋ぐ。
どこかで繋がっているのだ。

帰る街があってよかったなーと、
今日、有楽町の人混みを歩きながら
そんなことを考えた。

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