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ミルクボーイにとって、マンゲキは“救いの場所”でもあり、“試練の場所”だった

『M-1グランプリ2019』の優勝で、その名を世に轟かせたミルクボーイ。
よしもと漫才劇場の設立時から所属している彼らだが、昔はその場に馴染むことができず「居心地が悪かった」と、意外過ぎる当時の心境をあらわにした。

マンゲキは、月2回の劇場出番生活から救ってくれた

──よしもと漫才劇場(以下、マンゲキ)が7周年を迎えるということで。ミルクボーイさんはお二人とも、マンゲキ設立当初からいらっしゃいましたよね。

内海:いました。というか、僕らはマンゲキになる前の「5upよしもと」を卒業して、あべのハルカスの9階にある「SPACE9」ってところに追い出されてたんです。そこは楽屋とかもホンマ狭くて。

駒場:今いるこの部屋の広さが、ちょうど舞台と楽屋を合わせたくらいです。間に薄い壁が1枚あって。

──8畳くらいしかないお部屋ですが……。

内海:「SPACE9」、ほんまに「スペースないやん」言うて。

──お名前、そこから来てるんですか?(笑)

内海:ホンマにかかってるんちゃうか?(笑)。 そこにアインシュタインさんとかもいました。28期より上が、劇場を卒業やったんですよ。見取り図とか、29期までは5upよしもとに残ってたんですけど。僕らは27期なんで、5upよしもと卒業になってSPACE9組になったんです。売れてた人はNGK出てたりもしたんですけど、僕らは出れてなかったんで。月2回出番があるかどうか。

駒場:うん、それぐらい。

内海:それで、5upよしもとが漫才劇場になるってことで、卒業組がまた劇場に戻れたんですよ。僕らホンマによかったです。

駒場:助かりましたね。

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──お二人にとって、漫才劇場は救いの場所のような?

内海:救いです。しかも漫才劇場は、漫才中心でいくぞって方針だったんで「やったー!」って感じでした。

「居心地が悪かった」。部活で言う“下手な先輩”ポジション時代

──ちょうど先日、『アメトーーク!』で「よしもと漫才劇場芸人」が放送されていましたね。

駒場:『アメトーーク!』に出てた人たちはみんなでワイワイしてましたけど、僕らは売れてない先輩やったんで、リーダーみたいな感じでもなく……。一応おったけど、みんなに「メシ行こう」みたいなのもできないし。

──この取材の前に行った見取り図さんの取材では、「劇場は部活みたい、楽屋は部室みたい」というお話が出たのですが。

内海:そうですね。例えば野球部でも、レギュラーメンバーやったら部室も楽しいと思うんですけど、僕らは下手な先輩みたいな感じやから、すぐに帰ってましたよ。居心地悪かったですね。

駒場:知らんOBみたいな。

内海:後輩が後輩に「今日メシ行く?」って誘ったりするのを見てて。僕らお金ないから奢れないけど、一緒におったら奢らなアカンから、出番の合間とかは劇場の外に出て行ってましたね。お正月やったらお年玉を後輩にあげたりするけど、それもあげれないんですぐ帰ってました。

駒場:お年玉ジャンケンとか後輩が後輩にやってるのを見て、聞こえへんフリしてたな。

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──心が痛くなるお話です。では、昔はそこまで劇場メンバーと馴染むことはなく?

内海:仲良くしたいけど、奢れんから行かれへん。

駒場:自分らだけの問題ですよ? 後輩からしたら「この人奢らへんから嫌い」とかは絶対にないんで。でも、自分たちからしたら居心地はそんなによくない。「申し訳ないなあ」って。

──救いの場所でもあるけど、居心地はよくない?

駒場:“試練の場所”でもありましたね。

内海:先輩がどんどん減っていったんでね。気づけば自分たちが上になってたっていう。

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「谷」から「山」へ。

──マンゲキ設立時である7年前と、今のミルクボーイさん、それぞれ漢字1文字で表すとしたら何でしょう?

内海:「谷」と「山」ぐらい全然ちゃいます。7年前は、一番何にもやってない時期ですね。

駒場:2014年か。

内海:2014年の『THE MANZAI』で、初めて賞レース1回戦で落ちたんですよ。(気合いを入れるために)坊主にしてみたけど、別にネタ作るわけでもなく。一番の暗黒時代。マンゲキができたから劇場には戻れたけど、そんなすぐにやる気になるわけでもなく……どん底ですね。

駒場:僕も何もしてなかった、漫才に向き合ってなかったですね。

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──まさに「谷」の時代ですね。M-1優勝などで「山」となっていくわけですが、2021年のマンゲキでの印象的だったエピソードはありますか?

駒場:初めて劇場のフェス(9月12日開催『もっともっともーーーっとマンゲキろくでなしの日』)に通しで出ました。今まで、フェスも1分ネタコーナーくらいしか出番なかったんです。今回は「マンゲキ学園」みたいな設定があって、僕らが校長と副校長の役をもらえて、オープニングからエンディングまで7時間通してコンスタントに役がありました。カウントダウンライブとかも、年越しの一瞬だけ出て、ワーって盛り上げてすぐ帰るとかばっかりやったんで。

──7時間ぶっ通しって、結構体力を使いますよね?

駒場:総合MCの見取り図とか、令和(喜多みな実)の河野とかはもっとしんどかったと思いますけど、一応僕らもずっとひな壇におったり、何かしらずっと役があって、それがちょっと嬉しかったです。

──良い思い出ですね。

駒場:やっと良い思い出が。

内海:あと、上方漫才協会大賞の大賞を取りました。賞レースではなくて、漫才劇場自体の賞なんです。その前の1年間の成績・頑張りを認めていただいた感じです。取った時は泣いてまいましたね。

駒場:そうやなぁ、あれ1月か。去年の話になっちゃうんですけど、12月に「グランドバトル」っていう漫才劇場の中で1番大きなバトルで優勝したのも嬉しかったですね。「極メンバー」(芸歴が上のメンバー)で隔月で戦うバトルイベントで、今まで全然上の順位に入れてなかったから、初めて優勝したのは嬉しかったです。

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いつまで経っても大楽屋、ずっと金がない同期……マンゲキ七不思議

──ミルクボーイさん流「マンゲキ七不思議」を作っていただきたいなと思いまして。

内海:僕は楽屋の件ですね。この取材の前に見取り図が言ってたらしいですけど(笑)。どんだけ漫才劇場で売れてたとしても、個人の楽屋は作ってもらえないという。ゲストには楽屋作るんですよ? かまいたちさんとか銀シャリさんとか先輩やったら納得するんですけど、すゑひろがりずとかニューヨークとかも楽屋あるんですよ。

駒場:東京から来たら、後輩でもゲスト扱いやもんな。

内海:でも僕らは大楽屋で、ドーナツ・ピーナツと一緒に座ってるという(笑)。

駒場:マンゲキに“所属”してるからやろなあ。

内海:そういう、ルールはちゃんと守る、特別扱いはしない、っていうのもなんかいいですけどね、逆に。

──見取り図さんは、ミルクボーイさんが大楽屋なのが七不思議なのではなくて、内海さんがまだ怒ってることが七不思議だと仰っていました(笑)。

駒場:なるほど(笑)。

内海:納得いかへん。

駒場:(内海は)諦めへんねん。僕はもう、大楽屋のさらに外の大広間……廊下みたいなところで着替えてますね。昔から馴染めてないままってのもあるんですけど、すぐ帰れるから外におろうってのもありますね。

内海:森ノ宮でもそうですね。あそこは結構部屋があるんですけど、それでも楽屋がないです。ネイチャーバーガーは楽屋ありましたけどね、めちゃくちゃ若手の。「ネイチャーバーガー様」やあらへんねん(笑)。

──(笑)。

内海:どうなってんねんって。

駒場:でも支配人に言いはせんねんな。

内海:言いはせえへん。

駒場:波風は立てへん(笑)。

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内海:最近は一日9ステとか出番をいただいて、いろんな劇場を回らせてもらうことも多いんで、1個の劇場の楽屋にずっとおることもないですし。

駒場:ほかの七不思議は、ネイビーズアフロの皆川が袖でずっと人のネタを見てる。あと、翠星チークダンスの木佐も袖におる。出番ないのに袖におるっていうのは七不思議じゃないですか?

──その日一日、出番がないのに?

駒場:はい。「今日マンゲキ出てないやん」って皆川に聞いたら、「NGKあったんで。マンゲキにミルクさん出てたんで」って。同じネタするからこっちも恥ずかしいし、「何の勉強にもならんで」って言うたら、「いやいや、同じネタでもいつも一言ぐらい変えはるじゃないですか」とか言うて、ずっと袖におるんですよ。

──勉強熱心というか、本当にお笑いが好きな方なんですね。そういう、芸人さんだけが知ってる情報は貴重です……!

駒場:僕らからしたらありがたいですよね。あと、セルライトスパの大須賀がずっと将棋してたんですけど、“強そうに見えて弱い”っていうのもおもろかったです(笑)。難しい顔してずっとやってるから強いんやと思ってたんですよ。でも他のヤツに聞いたら「大須賀さん弱いですよ」って(笑)。

内海:他で言うと、(ダブルアート)真べぇがめちゃくちゃ痩せましたね。40キロぐらい。昔、オープニングアクトで「デブ芸人」っていうのがあって……ストレートな名前なんですけど(笑)。僕と真べぇと、大自然の白井と、カバちゃんと、清水ミカっていうメンバーで。清水ミカは痩せたうえに芸人辞めちゃって、カバちゃんは新喜劇に行って、白井も東京進出して、真べぇも痩せてしまったんで、「デブ芸人」で残ってるのが僕しかいない(笑)。

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──(笑)。同期の方々の七不思議はありますか?

駒場:(タナからイケダ)田邊が、ずっと金がない。

内海:田邊は駒場によくお金借りてましたね。借りるって言っても、どっちも売れてないんで1,000円とかなんですよ。30歳超えて1,000円の貸し借りってヤバイでしょ。

駒場:「(1,000円借りて)何になんねん」って聞くんですけど、「いやもう、マジでないねん」って……。

──……痺れますね。1,000円の貸し借りって、返ってくるものなんですか?

駒場:僕が絶対返すように言います。折れたらあかんなって思って。借りに来るのは早いけど、返すのは遅いんですよねぇ。夜中にも借りに来たことあります。

──悲しい七不思議です。劇場自体のお話はいかがでしょう?

内海:大楽屋のソファーがほんまにボロボロなんですよ。でもみんな平気で座ったり横になったりしてて、考えられへん。ガムテープで止めてたりしてるのに。

──だいぶ年季が入っていると。

内海:家のをあげたいんですけど、持ってくるのもなあっていう。

駒場:あと、劇場の客席側のトイレにウォシュレット付けたいなってずっと思ってます。お客さん側のトイレが未だについてなくて、普通の洋式トイレなんですよ。お客さんもウォシュレットあったほうが絶対心地いいじゃないですか。

──楽屋側のトイレはウォシュレット付きなんですか?

駒場:楽屋側はなんかのキッカケで付いたんですよ。

内海:トイレ、1個しかないもんな。人数に合ってない。

──1個なんですか!?

駒場:楽屋側に1個、舞台袖に1個。

内海:そして舞台袖のは暗いですね。洗面所と小のところにはあるんですけど、大のところの上に電気がないんですよ。だから昼しかできひん。

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正反対な過去。お笑い大好き少年だった駒場と、M-1を知らなかった内海

──改めて、お二人のお笑いの原点を教えてください。

駒場:ほんまの最初は、新喜劇。コンビを「良いな」と思ったのはダウンタウンさんですね。オンエアバトルにも中川家さんとかが出てはる時期だったので、そこからコンビのお笑いが好きになっていきましたね。今でも新喜劇も好きなんですけど。

──新喜劇はNGKに観に行かれてたんですか?

駒場:小学校の頃は沖縄に住んでたんで、大阪の親戚から新喜劇のビデオを送ってもらって日常的に観てて。長期休みに大阪の親戚の家に行って、その時にNGKに連れていってもらってました。

──NGKは、マンゲキとはまた別の思い出の地ですね。

駒場:そうなんです。NGKのグッズの新喜劇タオルとか新喜劇のれんとか、よく買ってもらってました。NGKの自販機に、新喜劇メンバーの絵が描いてあるお茶の缶があったんですけど、それも家に持って帰って、洗って飾ってたりとか。

──生粋のお笑い大好き少年。

駒場:最近僕らがタオルになれたんですよ、よしもとグッズとして。それをオカンが「あんたずっとタオル買ってて、それになれたなあ」ってめっちゃ喜んでて。親戚に配りたいって言って、そのタオル30枚ぐらい大量に買ってましたね。

──かなり感慨深い話です……!

駒場:そうなんですよ。オカン、タオルをすごい思い出として覚えてたんやっていうのが。

──内海さんはいかがですか?

内海:僕はお笑い番組は好きでしたけど、大学の落研でコンビ組んでオーディション受けるまでは、そこまで芸人になろうとも思ってなかったですね。すぐなりたいものが変わってたんで。

──過去には何になりたかったんですか?

内海:ほんまにコロコロ変わるんですよ。弁護士のドラマ観たら弁護士なりたかったし、『名探偵コナン』観たら探偵なりたかったですし。

──影響がすごいですね(笑)。

内海:深夜のお笑い番組とかもそんな観てなかったですもん。11時になったら寝てました。僕、M-1も2001、2002年はリアルタイムで観てないんです。やってることを知らんかった。

駒場:へぇ……。

内海:観始めたのは2003年からですね。「M-1ってなに?」みたいな。

駒場:M-1甲子園に出たのに?

内海:2003年に出たから。2001、2002年のも後でDVDで観たよ。でも、なんか笑かすのは好きでしたね。

──特に、誰か芸人さんに憧れてっていうのはなく?

内海:ウッチャンナンチャンさんとかダウンタウンさんとかは面白いなと思ってテレビで見てましたけど、芸人になりたいとは思ってなかったので、憧れではなかったかもしれないです。

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駒場が大好きな、内海のダークな部分

──最後に、お互いを漢字一文字で他己紹介をお願いできますか?

内海:えー、なんやろ。真面目の「真」ですかね。

──男性として一番カッコイイ漢字じゃないですか。

内海:そうですね、真面目。テレビ局でミックスジュース飲んだあと、グラス洗ってますからね。喫茶店で頼んで持ってきてもらってるやつで、普通はそのままにしておくんですけど、氷捨ててグラス洗ってます。

駒場:内海は「黒」ですかね。僕はすごい面白いと思ってるんですけど、ダークな部分があります。おばあちゃんが作ってる唐揚げ屋さんの下に敷いてるキャベツを残してみたりとか。食べたらええのに。

内海:僕は誰のキャベツでも残すんですよ。おっさんのキャベツでも残す。おばあちゃんのだけ食べたら、おっさんに失礼なんで。

──どちらにも失礼ですよ!(笑)

内海:敷いてる時点で失礼なんで、キャベツに。

──なるほど……キャベツ側に立った意見。

内海:敷いてるやつはなんでも食べないです。パスタでも食べないです、敷いてたら。キャベツ頼んでないですもん、唐揚げ頼んだんで。

駒場:これ、自分が好きなのやったら食べるんですよ絶対。この黒さが人間らしくて良いなって、自分にはないので面白いなって思うんですよ。違う人が相方やったらイジれへんと思いますし、これは武器やなって思いますね。

内海:黒さがしょぼいでしょ。

駒場:いや、黒やで。お花屋さんでロケしたときに、観葉植物のオリーブの木を買った親子に「これ買ってどうするんですか?」って聞いたり。

──「買って意味あるんですか?」ということですか?

内海:リンゴとか、他の木もあったんですよ。その中でオリーブ。

駒場:可愛いじゃないですか、オリーブの木。

内海:何にもしないじゃないですか、食べるわけでもないでしょ。

──あれは、インテリアとして買うんです(笑)。

駒場:言ってもしゃあないです、一点張りなんでこの話は(笑)。平行線です。

内海:ホンマに好きなんですか? 何するんですか、オリーブ置いて。

──見て癒されたりとか……。

内海:癒されるぅ??

駒場:いいんですよ、この感じ(笑)。

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■ミルクボーイ  プロフィール
2007年結成。NSC大阪校27期生と同期。駒場(左)、内海(右)。
2019年ABC「M-1グランプリ2019」にて、大会歴代最高得点を記録し、堂々の優勝を果たした。
内海:けん玉準2段を持っている。
駒場:2018年大阪オープンボディビル選手権で優勝経験がある。

ミルクボーイ INFO

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取材・構成/佐々木笑
撮影/渡邉一生

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